仕事が忙しいのは毎度のことですが、今日はドタバタが連続していました。そこで好例のマイルスも、ドタバタなやつを――
良く分からない名盤というのがあって、私にとってのマイルスの中では、これと「ビッチズ・ブリュー」です。
このアルバムはマイルスが初めて本領を発揮したとか、プレ・ハードバップだとか、白熱の名演盤だとか、とにかく褒めちぎられていますが、本当かなぁ……。確かに荒々しい演奏ではありますが……。
録音は1951年10月5日、メンバーはマイルス・デイビス(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ソニー・ロリンズ(ts)、ウォルター・ビショップ Jr.(p)、トミー・ポッター(b)、アート・ブレイキー(ds) で、ちなみにこのセッションはマイルスにとっては初めての長時間レコーディングが可能になった演奏、つまりLPフォームを意識したものになっています。
当時はレコード・メディアが進化・進歩している真っ最中で、発売形態もSP、EP、LP等々が入れ乱れていました。実はこのセッションでは計7曲が録音されていますが、このアナログ12吋盤に纏まる前に、それらは10吋盤等で既に発売されていたのです。その内容は――
A-1 Dig
マイルスのオリジナルとされていますが、実際はジャッキー・マクリーンの作曲と言われているドタバタな熱血曲です。なにせマクリーンにとっては、これが公式では初レコーディングということで、じっと我慢の子だったのでしょう。ただしその鬱憤を演奏で晴らしたかのような熱演を聞かせてくれます。
で、その演奏はソニー・ロリンズが先発のアドリブパートで豪快にブロー! 既にしてリズムに対する自在なノリの片鱗を聴かせ、スリルがありますが、続くマイルスは中音域を主体に丁寧に吹奏に終始しています。ただしバックで煽るアート・ブレイキーが強烈なので、なかなか盛上がる展開になっています。
そしていよいよジャッキー・マクリーンが登場♪ チャーリー・パーカー直系とはいえ、そのギスギスした音色とフレーズの妙は青春真っ盛りというか、ヘタクソでも情熱溢れる演奏は最高です。なにしろ次に再び登場するマイルスが、それに刺激を受けたのか、思いっきり突っ込んだアドリブを聴かせてくれるのですから! もちろんここでもアート・ブレイキーが大車輪の活躍です。
A-2 It's Only A Paper Moon
お馴染みのスタンダード曲をマイルスはミディアム・テンポで粋に料理していきますが、惜しむらくはミュートではなくオープンのトランペットだということです。ただしその展開の妙、アドリブで綴られる素敵な美メロは既に完成の域に近づいていると感じます。
それよりも、ここはソニー・ロリンズが抜群で、当にアドリブメロディの魔術師という雰囲気ですねぇ~♪ すべてのフレーズが「歌」になっているほどです! これには流石のマイルスもびっくりでしょう。続けてテーマの変奏に入るのですが、動揺したのかミスの連続、展開の破綻が散見されるのはご愛嬌です。
ちなみにここではジャッキー・マクリーンが抜けているのは残念でした。
A-3 Denial
アップテンポで、いきなりマイルスが一人舞台のアドリブを披露し、そのバックにビバップではお約束のリフが付くという、その場限りの一発勝負的な演奏になっています。
ところがマイルスが唯我独尊の好調で、続くソニー・ロリンズが今度は逆に面食らった雰囲気でジャッキー・マクリーンにバトンタッチしているのが笑えます。そしてこのマクリーンが意外と好演なのですから、いやはやなんともです。
演奏はその後、マイルスとアート・ブレイキーの掛け合いがあってスリルとサスペンスのうちに幕を閉じるのですが、全体としてかなり最高の演奏だと思います。
B-1 Bluing
マイルス作のミディアムスローなブルースですが、ここでもテーマらしきものは演奏されず、最初にウォルター・ビショップが粘っこく雰囲気を設定するアドリブを披露し、いよいよマイルスが雰囲気満点というブルーなソロを聞かせてくれます。ただし、まだまだ後年のようなクールビューティな雰囲気は醸し出せておりません。むしろ変幻自在なリズム隊に助けられている部分が多々あります。それでも徐々にペースを掴んで聞き手を虜にしていくあたりは、素晴らしいですねぇ。このアルバムでは最高の演奏だと思います。
またソニー・ロリンズが大らかなノリで気分は最高♪ ジャッキー・マクリーンも苦し紛れの必死さが魅力になっていますが、再び登場するマイルスが、これまた素晴らしく、リズム隊とのコンビネーションは既にしてハードバップになっているのでした。
B-2 Out Of The Blue
これはビバップそのものという演奏ですが、リズム隊の粘っこい雰囲気が、リアルタイムでは新しかったのではないでしょうか?
マイルスのアドリブ・フレーズも無闇にエキサイトすることの無い、中道路線を模索するようなところがあります。またソニー・ロリンズも「歌」を大切にしているというか、縦横無尽なノリの中にリズムよりはメロディを大切にしている雰囲気です。それはジャッキー・マクリーンにも言えることで、かなりチャーリー・パーカーのフレーズを使いながらも、落ち着いた演奏になっています。
しかしリズム隊はアート・ブレイキーを核にして、かなり突っ込んだ恐いもの聞かせているという、このアンバランスのバランスが名演を引き出していると思います。それは締め括りに登場するマイルスとのコンビネーションで絶頂に昇りつめており、ラストテーマの威勢の良さは最高です。
というこのアルバムはA面のドタバタ、B面の落ち着き払った演奏が対象的で、中には、やたらエコーの強い録音があったりするので、最初に聴いた時には、なんでこれが名盤なのか、理解出来ませんでした。
しかも、ほとんどのジャズ喫茶ではA面が鳴ることが多いのです。そこで、ある日、私はB面をリクエストしてみて、ハッと目が覚めました。そのブルーな雰囲気には、何となくイカシている♪ ジャズのカッコ良さがあることに気がついたのです。
ただしこのアルバムは、アナログ盤時代はオリジナル盤でもプレスの状態がイマイチというか、盤そのものの材質が悪く、さらに日本盤では使っていたマスターコピーの所為か否か、音がブヨブヨでした。なにしろジャズ喫茶のオーディオでさえも、それを克服出来ていなかったのですから!
それがCD時代になって、ようやくマスターテープ本来の音に近い再生が可能になったというか、実は私がこの作品の良さをどうにか理解したのは、それからです。
したがって、これから聴いてみようと覚悟を決めた皆様には、CDをオススメ致します。幸いにもそこには、この日、いっしょに録音された2曲がおまけについていますから♪