私の赴任地では、明日が大花見大会♪ バーベキュー&鍋で盛り上がりたいと、今から浮かれている奴に気合を入れる始末です。お前ら、仕事もそれらしく力をいれろ~! というところですが、そんな仕事に対する本音が出た1枚が――
■Amsterdam Concert / Miles Davis Quintet Featuring Barney Wilen (LHJ)
ジャケ写は1970年頃の電化マイルス時代のポートレートを使っていますが、内容はバリバリのハードバップをやっていた1957年の欧州巡業のライブです。
気になる音質は、ラジオ放送からのエアチックなので雑音はありますが、まあ普通に聴けるものですし、なによりもメンバーが例の「死刑台のエレベーター」のサントラ音源と一緒というところが、お目当てでしょう。
実はこの音源はアナログ盤時代から、幾度も様々なレーベルから出されていましたが、ちょっとした問題がいつもありました。それがこの度発売されたCDでは、なんとか上手く纏められています。
一応のデーターとして、録音は1957年12月8日、場所はオランダのアムステルダム、メンバーはマイルス・デイビス(tp)、バルネ・ウィラン(ts)、ルネ・ウルトルジュ(p)、ピエール・ミシェロ(b)、ケニー・クラーク(ds) となっており、「死刑台のエレベーター」セッションから3日後の演奏が、これです――
01 Woody 'n' You
ケニー・クラークのビバップなシンバルから威勢の良いテーマがスタート、アドリブパートでは、まずマイルス・デイビスが煮え切らないフレーズから思わせぶりを展開しますが、ミストーンがあったりしてノリがイマイチです。
しかし続くバルネ・ウィランは正統派ハードバップのテナーサックスで堂々のソロを聴かせてくれますので、再び登場するマイルス・デイビスも格好をつけなければならない瀬戸際に追い込まれている演奏が、これです。
02 Bag's Groove
これは静かに燃えるマイルス・デイビスが楽しめます。なにしろ十八番であるミディアム・テンポのブルースですから、クールな思わせぶりがたっぷり♪ もちろんライブということで、スタジオ録音に比べると少し雑なところもあるのですが、とにかくマイルス・デイビスのキメのフレーズばかりが、これでもかと飛び出しています♪
バルネ・ウィランもマイペースを守り、自己流のブルース魂を聞かせますが、やや形式的でしょうか……。黒っぽさにイマイチ欠けるのが残念です。それはピアノのルネ・ウルトルジュも同様で、かなりファンキーなフレーズも聴かせてくれるのですが、リズムに対する解釈そのものが、物足りません。
しかしそういう欠点もマイルス・デイビスが再び、お約束のフレーズばかり吹いてくれる大サービスで帳消しです。
03 What's New
有名スタンダードですが、この時期のマイルス・デイビスにしては珍しい演目です。もちろん、あのクール節がたっぷり! おぉ、「死刑台~」! というフレーズまでも♪ う~ん、演奏時間の短さが残念です。否、これで正解でしょうねぇ♪ マイルス・デイビス一人舞台の素晴らしさです。
04 But Not For Me
前曲の余韻に浸ることなく、いきなりマイルス・デイビスがフワフワとテーマを吹奏し、余裕のアドリブ・パートに入っていきます。う~ん、ここでもクールですねぇ。しかもそれが徐々に熱くなっていくあたりが、聴かせどころかもしれません。思わせぶりがニクイ限りです。
そして続くバルネ・ウィランは、ジョン・コルトレーンのフレーズも使って健闘していますが、これはマイルス・デイビスの1954年のオリジナル演奏で相方のソニー・ロリンズが、あまりにも天才的なアドリブソロを聴かせていたので、致し方ないところでしょうか……。
ネル・ウルトルジュのピアノは軽妙洒脱で好感がもてます。
05 A Night In Tunisia
ビバップ~ハードバップでは欠くことの出来ないモダンジャズ定番曲が、ここでも熱く演奏されています。テーマ後のお約束のブレイクはマイルス・デイビスが珍しくも高速フレーズで吹き飛ばし、さらに続くアドリブパートでは一時的ではありますが、テンポを自在に設定する、後のライブの原型が聴かれます。もちろんそこにはマイルス・デイビスが十八番のキメのフレーズがいっぱいで、「死刑台~」で聴かせていた美味しいメロディが随所で再使用されています♪
バルネ・ウィランも好演していますし、どうやら、このあたりからバンド全員の調子が上がってきたようです。
06 Four
マイルス・デイビスのライブでは定番のハードバップ曲が快適に演奏されています。リズムをリードするケニー・クラークのドラムスも快調ですし、マイルス・デイビスも気持ち良く吹きまくりです。ただしそれは、白熱のトランペットという雰囲気ではなく、あくまでも中音域を多用した、クールというよりも穏やかなものなのですが、それがマイルス・デイビスだけの「味」ですから、ファンにはたまらないと思います。
07 Walkin'
これもマイルス・デイビスのライブでは定番のブルースで、しかもここでは、なかなか粘っこく演奏されていますから、たまりません♪
なんとマイルス・デイビスは、テーマが終わらないうちから、まるっきり考えていたかのようなフレーズを連発してアドリブに突入していきます。もちろんお約束のフレーズは大盤振る舞いで、途中では感極まった観客が拍手喝采♪ そしてマイルス・デイビスは、ますます素晴らしいブルースを聴かせていくのでした。
そして、そうなればバルネ・ウィランも負けていません。自分なり黒っぽさを追及していますし、ネル・ウルトルジュもファンキー節に果敢に挑戦して、熱い演奏が生み出されています。
08 Well You Needn't
セロニアス・モンクが作曲した変態ビバップ曲を、バンドはクールなハードバップに変換しています。それにしてもマイルス・デイビスは何を演奏しても、同じようなフレーズばかりを吹いていることがバレバレ! というのが、ここでの結論ですが、それがまた、魅力なんですねぇ♪
バルネ・ウィランは最初、若干苦戦気味ですが、ケニー・クラークの急所を刺激するドラムスに助けられて必死の吹奏! これがなかなか素晴らしいのです。
09 Round About Midnight
出たっ! マイルス・デイビスは、やっぱり、これです! オリジナルの演奏に比べると、ややテンポが上がっていますが、ここで聴かれる雰囲気やフレーズは全く「死刑台~」のサントラで演じた様々なフレーズが流用されています。
もちろん演奏には例のブリッジのリフも入っていますが、そこから続くバルネ・ウィランが何となく気抜けのビールなのが残念です。
10 Lady Bird
オーラスはビバップ時代からの定番名曲で、実はマイルス・デイビスは1949年にパリを訪れた際のライブでケニー・クラークと一緒にこの曲を演奏し、なかなかの名演を残しているので、ここでも大団円はこれっ、と決めていたのかもしれません。
実際、クールで熱いここでの演奏は素晴らしく、リズム隊が若干勘違いのビートを出している場面もありますが、それを一切無視してマイペースを守り通すのがマイルス・デイビスの凄さかもしれません。
バルネ・ウィランもバランスを崩しながらの熱演ですし、続くルネ・ウルトルジュが、これまた快調! 最後にはケニー・クラークの見せ場があって、ラストのバンドテーマが流れるという、ハードバップなライブになっています。
ということで、これは少々荒っぽく、ワイルドなマイルス・デイビスのライブの実態を聴くことが出来ます。それは、当にハードバップそのもので、マイルス・デイビスがスタジオ録音で聴かせていた繊細さはどこへやら……。しかもウリのミュート・プレイが全くありません。
正直言うと、そこが残念なところなんですが、クールでカッコ良いマイルス・デイビスは健在です。ラジオからのエアチェックがソースなので、時折、雑音が入りますが、それもこのカッコ良さと引き換えれば納得でしょう。
また現在の日本では人気者になったフランス人テナーサックス奏者のバルネ・ウィランの悪戦苦闘と若気の至りを楽しむことも出来ます。もちろんそれも、魅力いっぱい♪
ジャケットが当時のマイルス・デイビスでは無い! というのが減点ですし、あくまでもコレクター御用達のブツなんですが、一通りマイルス・デイビスを聴いてしまったら、真っ先にオススメしたいのが、これです。けっこう本音が出ている演奏だと思います。 サービス満点なんですよ。