今日もドタバタが続きました。そこでマイルスの現場ドタバタシリーズ第2弾として、これを――
■Jazz At The Plaza Vol.1 / Miles Davis (Colmbia / Sony)
マイルスの芸暦の中で、一番豪華絢爛なメンツを擁した時期のライブ盤です。
録音は1958年9月9日、場所はニューヨークでは格式が高いプラザホテルで、当時のCBSコロンビアが開いたコンヴェンションに出演した際の演奏です。
メンバーはマイルス・デイビス(tp)、キャノンボール・アダレイ(as)、ジョン・コルトレーン(ts)、ビル・エバンス(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds) という、所謂「カインド・オブ・ブルー・バンド」です!
発売されたのは1973年でしたが、実はそれ以前の1960年代後半から出るぞ! という噂はかなりあったそうで、なにしろこの豪華メンバーですから、その存在を知ってしまったが最後、聴く前から期待で胸は張り裂けそうというのが、ジャズ者の宿怨というところでしょうか……。
その内容は、結論から言うと海賊盤もどきギリギリという音質でしたし、オリジナル米国盤は、やたらにエコーが強い擬似ステレオ疑惑満点の仕上がりでした。しかも曲名までも変えてあったりして、ますますブート色がきつかったんですが、やはりその演奏は強烈なインパクトに満ちています。それは――
A-1 Jazz At The Plaza (Straight,No Chaser)
万来の拍手に迎えられてマイルスが指パッチン♪ キャノンボールがそのテンポを維持してリードする形からイナセなテーマが始まってみると、なんだっ! セロニアス・モンク作曲で当時のマイルスが録音も残している「Straight,No Chaser」じゃないかっ!
何故、曲名を変更してクレジットしたのか真相は不明ですが、演奏は快調で、まずマイルスがブルースを逸脱した、かなり自由奔放なアドリブを展開しています。バックのリズム隊ではビル・エバンスが途中から休止状態となり、ジミー・コブのドラムスが要所を締めるという展開がクール♪
続くコルトレーンは、もちろん十八番のシーツ・オブ・サウンドと称された吹きまくりで大量の音符を撒き散らしますが、不思議と曲の展開に納まっています。
しかしキャンボールは奔放です。一応ブルースのお約束は守ってファンキー節も出していますが、そのビートを逆転させるようなセリ上がりのフレーズや空間を切り裂くようなツッコミのノリが強烈です。
こうして烈しく燃える演奏の中でビル・エバンスも自己のソロパートでは奮闘、全くブルース味の無い、打楽器的なフレーズを聞かせています。しかし、おぉ! これからっという時にいきなり管楽器隊がラストテーマを入れてしまうんですねぇ……。ここはもしかしたらテープが編集されているのかもしれませんが……?
A-2 My Funny Valentine
これも万来の拍手の中、静謐なビル・エバンスのピアノ・イントロに、まず耳を奪われてしまいます。あぁ、このまま、ずっと聴いていたいなぁ……、というほど素晴らしく、そこへベースとドラムスが自然体で絡んできて、マイルスのテーマを導くのですから、最高です。
そのマイルスは当然、ミュートですすり泣き♪ ライブということもあって、かなりクサミのあるフレーズも吹いていますが、やはり緊張感と和みのバランスは素敵ですし、ポール・チェンバースのベースとのコンビネーションも流石です。
そしてお待ちかね、ビル・エバンスが、当にエバンスらしいアドリブを聞かせてくれます。あぁ、マイルス+ビル・エバンス・トリオという、ジャズの歴史上での奇跡が、ここに残されただけでも、感謝、感謝のアメアラレでしょうねぇ♪
ポール・チェンバースのベースソロを経て、ラストテーマを変奏していくマイルスの思わせぶりは毎度のことですが、ジミー・コブの絶妙な歌伴ドラムスによって雑になっておりません。
B-1 If I Were A Bell
またまたマイルスの指パッチンでテンポが設定され、リズム隊の何気ないジャム風の展開から演奏がスタートします。もちろんマイルスはミュートで軽妙にテーマを吹奏と書きたいところですが、突如、PAがイカレタらしく、その場のザワメキがリアルなスリルです。
もちろん演奏は続行されますが、レコード化する際のマスタリングの所為でしょうか、エコー満点の音質になっています。しかもリズム隊の楽器の定位が左右逆になったりするあたりが本当に海賊盤の雰囲気で、実は私はかなり気に入っています♪
しかし続くコルトレーンのアドリブソロからは音質が戻り、その烈しい吹きまくりが堪能出来ます。う~ん、それにしてもこの頃のコルトレーンは、音符の羅列とかスケール練習に陥る寸前ながら、同時にテーマ・メロディの変奏も心に留めているというバランスが絶妙で、それが崩れそうで崩れないここでの演奏はジャズの醍醐味です。
またビル・エバンスも、ここでのやや早めのテンポに合わせてか、珍しくもハードバップ風のフレーズも折り込んだ展開を聞かせてくれますが、どういう訳かキャノンボールはお休みしています。
B-2 Oleo
ソニー・ロリンズの作曲で、マイルスのバンドでは定番のハードバップ曲ですが、何と言ってもマイルスのソロパートにおけるドラムスとの対峙、ベースとの駆け引きが毎度の醍醐味です。もちろんここでもミュートで烈しく突っ込んでくるマイルスに対し、ジミー・コブは凄まじいブラシで対抗! ハイハットとのコンビネーションも抜群ですし、ピアノと結託してのお約束のリフもビシッとキメています。
そして続くコルトレーンは、当然、吹きまくり! ただし若干、緊張感がありません、というか、垂れ流しが気になるところ……。しかしそれを救うのがキャンボールの熱演です。伝統的なビバップのフレーズから十八番のファンキー節、さらにスピード感満点で疾走する激烈な自爆衝動のアドリブ展開には、心底悶絶です。
演奏はこの後、ビル・エバンスの出番となりますが、高速テンポの中で自己主張も空回り気味……。しかしそれをサポートするベースとドラムスが良く聞こえるので満足させられますし、最後は意外に健闘しているなぁ……♪ と憎めません。
おまけにラストテーマ前のマイルスのイライラしたようなソロまで聴けるのですが、そんな中で終始、自分を見失わないポール・チェンバースが素晴らしいと思います。
ということで、これは巨匠達の終りなき日常を記録したという点でも貴重ですが、実はマイルスが一番熱くなっていたのかも……、と窺い知れる演奏でもあります。なにしろ現場には当時の業界の大物が揃っていたはずですし、場所も白人の殿堂という由緒あるホテルですから、黒人意識がひたすらに強いマイルスは力が入ったのでしょう。
しかし土壇場でPAがっ! という白熱のドキュメントを、ぜひともお楽しみ下さいませ。
それにしても会場では雑談も華やかですねぇ。もし私がその場にいたら、口あんぐりか絶句でしょうが、このあたりが当時のアメリカでは当たり前というか、羨ましいかぎりです。
ちなみに現行CDはアナログ盤に比べて、かなり音質が改善されていますが、曲順は変えてあります。恐らく演奏曲順になっているんでしょう。