昨夜は霧が濃い中を運転して実家まで戻りましたが、その状況から、自分でも日活アクション映画の登場人物になったような雰囲気に浸り込みました。
自己満足の世界ですが、ハードボイルドというよりは、ハードバップが聴きたくなりましたね。
そこで今朝一番でこれを――
■Late Spot At Scott's / Tubby Hayes (Fontana)
近年でこそ知名度があがったタビー・ヘイズは、イギリスで1950年代初頭から活躍していた素晴らしいジャズメンでしたが、1973年に38歳の若さで亡くなっていることもあって、リアルタイムの我国ではほとんど紹介も評価もされていませんでした。
それが1980年代後半からの欧州ジャズブームで再発見され、残された作品の評価も、その廃盤価格も同時に高くなったのです。
その演奏スタイルの基本がハードバップというのも嬉しいところですし、何よりも凄い実力があるのです。
このアルバムはそれが素直に楽しめる1枚で、録音は1962年5月17 & 18日、ロンドンのロニー・スコッツ・クラブでのライブを収録しており、タビー・ヘイズ(ts,vib) をリーダーに、ジミー・デューカー(tp)、ゴードン・ベック(p)、フレディ・ローガン(b)、アラン・ガンリー(ds) というメンバー各々については、ゴードン・ベックが後にフィル・ウッズ(as) &ヨーロピアン・リズムマシーンの初代ピアニストとして活躍しているので一番有名でしょうが、とにかくこのアルバムを聴けば納得の実力者揃いです――
A-1 Half A Sawbuck
タビー・ヘイズ自らのメンバー紹介後、メチャ、カッコ良いテーマがスタートしますが、ここだけで明らかに、このバンドはホレス・シルバー等のファンキー・ハードバップ直系の楽しさに満ち溢れていることがわかります。
そして先発のアドリブを聞かせるタビー・ヘイズのテナーサックスからは、デクスター・ゴードン、ハンク・モブレー、ジョニー・グリフィンといった王道派の色合が強く感じられ、これで参らないジャズ者は皆無でしょう。スタイル的には今日のエリック・アレキサンダーに似ていますが、その歌心、スピード感、迫力は格が違います。というか、モダンジャズ全盛期の熱気に魘されている凄みがあります。
続くジミー・デューカーのトランペットは必死にもがきますが、後を受けるゴードン・ベックはビバップ~モードまで包括した懐の深いプレイを展開しています。
そして何より凄いのはアラン・ガンリーのドラムスで、若干軽いビート感を逆手にとった切れ味の鋭さと黒人ジャズの泥臭さを併せ持った名手だと思います。もちろんアドリブを構築していく各々のソロプレイヤーの状況を見極めた煽りとサポートは、なかなかのセンスです。
A-2 Angel Eyes
モダンジャズでは定番の人気スタンダードが巧みなアレンジで演奏されますが、その編曲はドラムスのアラン・ガンリー! やっぱり、この人は只者ではなかったのですねぇ♪
肝心の演奏はジミー・デューカーのミュートトランペットが原曲メロディーをリードし、その周りの空間をタビー・ヘイズのヴァイブラフォンが彩るというハードボイルドな展開です。
このタビー・ヘイズのヴァイブラフォンは、同じイギリスの天才ジャズメンで
マイルス・デイビス(tp) とも競演しているビクター・フェルドマン(p,vib) 直伝♪ 流石に素晴らしいフィーリングで、その歌心が堪能出来ます。
またジミー・デューカーも若干、危ないところがありますが、雰囲気を壊さない好演で、なんとなく日活映画のバックに流れていそうな素晴らしい仕上がりです。
A-3 The Sausage Scraper
全く黒~い、このファンキー・テーマはなんだっ! これはタビー・ヘイズのオリジナルなんですが、思わず一緒に口ずさみ、手拍子を入れたくなります。アラン・ガンリーのドラムスも重いビートを出していますし、タビー・ヘイズのテナーサックスはハードに野太く、ファンキーにメロディアス♪ あぁ、これがハードバップです!
う~ん、それにしてもイギリスで、これっ、ですよ! 実はタビー・ヘイズはリアルタイムのアメリカでは高く評価されており、度々渡米してはレコーディングも残していたので、さもありなんです。
演奏はこの後、ジミー・デューカーが懸命の吹奏、ゴードン・ベックがファンキー・ゴスペル街道まっしぐらの快演を聞かせて、ますます盛り上がりますが、ここでもアラン・ガンリーのドラムスが良い仕事です。
そしてラストテーマが熱く演奏され、さらにメンバー紹介のバンドテーマまで聴かせて律儀に締め括る製作態度が、如何にもイギリスらしくて微笑ましい限りです。
B-1 My Man's Gone Now
ジョージ・ガーシュイン作の有名なオペラ「ポギーとベス」からの人気曲を、なんとここでは迫力のハードバップに作り変えています。
先発のソロは、もちろんタビー・ヘイズが熱血迫力のテナーサックスを存分に鳴らします。あぁ、本当に最高ですねぇ♪ 続くジミー・デューカーも、本領発揮の演奏なのか、上手い構成力を発揮していますが、さらに凄いのがゴードン・ベックのピアノで、ハードバップと思わせて、実はモードと欧州的なハーモニー感覚に彩られたそのスタイルは、当時の最先端でしょう。
それと、やっぱりアラン・ガンリーのドラムス! 繊細と豪胆な斬り込みで演奏をキャリーしていくその腕前は流石です。
B-2 Yeah ! - Them
でたっ! オーラスでとうとう、このバンドが一番影響を受けているホレス・シルバーの十八番が演奏されます。つまりネタ明かしですね♪ 実際、バンド全員が憑物が落ちたかのような熱演を聴かせてくれます。
それはまず、アラン・ガンリーが抜群のリム・ショットでテンポを設定し、バンドは一丸となって白熱のテーマ演奏に突入し、タビー・ヘイズが先発で豪快なアドリブソロを披露するのです。それにしてもこんな凄いテナーサックスには、本場アメリカの一流ジャズメンも顔色無しだと思います。
またジミー・デューカーも危うさを露呈しつつも健闘、ゴードン・ベックは唯我独尊の我が道を行くという態度ですが、それを引き締めているのが、やはりアラン・ガンリーの素晴らしいドラムスです。まったくこの人は凄いと思いますね♪
そして最後にはドラムスとホーン隊の対決の場が用意されており、お約束とは知りつつも、やはり興奮させられてしまうのでした。
ということで、B面もバンドテーマが演奏されて大団円となるのですが、ハナからケツまで、本当に痛快なハードバップ盤です。
私は1981年の某日、あるコレクターからこのアルバムを聴かせてもらい、忽ち虜になりましたが、もちろんこの盤は当時から希少なコレクターズ・アイテムで、なかなか入手は困難でした。それが今日、CD化されているのは奇跡というか、あるいは当然なのか……。
例によってジャケ写からネタ元にリンクしてありますで、機会があれば、ぜひとも聴いてみて下さいませ。