毎日が忙しいと嘆いてばかりもいられない!
しかし嘆かずにはいられない、そんな自分が哀しいなぁ……。
そこで今日は、正統派ハードバップで基本に帰ります――
■Kenny Dorham And The Jazz Prophets Vol.1 (ABC)
モダンジャズはロックほどレギュラー・バンド意識というのが無く、それはジャズが瞬間芸に依存している割合が多いという、言わば個人芸の世界だからでしょう。実際、演奏の場は、己の腕が頼りの勝負の世界! 良いアドリブを聞かせた者が勝ち! という雰囲気が濃厚です。
そこでケニー・ドーハムというトランペッター、この人はモダンジャズ創成期から第一線で活躍した名手で、モダンジャズ全盛期には数多くのセッションに参加し、録音も多数残し、もちろんリーダー盤も沢山出していますが、どこか渡り鳥というか、己の腕だけが頼りという佇まいでしょうか、私はそう感じています。
ですからケニー・ドーハムがちゃんとした名前をつけた自分のバンドを作っていたという事実を知った時は、その内容が大いに気になったものです。そして残されたアルバムが本日の1枚♪
録音は1956年4月4日、メンバーはケニー・ドーハム(tp)、J.R.モンテローズ(ts)、ディック・カッツ(p)、サム・ジョーンズ(b)、アーサー・エッジヒル(ds) という個性派揃いで、これがつまり The Jazz Prophets というバンドなのです――
A-1 The Prophet
ケニー・ドーハムが作ったマイナー・キーの素敵なハードバップ曲です。もちろんタイトルはバンド名に因んだものなのでしょう。
演奏はテーマメロディに仕込まれた刺激的なアクセントを活かしながら展開し、トランペットとテナーサックスによるスタッカートの突き合いがあったりしてスリルがあります。もちろんケニー・ドーハムのアドリブソロは充実していますが、相方のJ.R.モンテローズが、これまたご機嫌で、ブツ切れかと思えばウネウネと続いていく独自のアドリブ展開は、非常に個性的です♪
またリズム隊も好演で、野太くスイングするサム・ジョーンズのベース、キレが良いアーサー・エッジヒルのシンバル、センスの良いコードワークが魅力ディック・カッツのピアノと、聞きどころが満載です。
A-2 Blues Elegante
タイトルどおりのブルースですが、まずピアノとベースが雰囲気作りをする出だしのところだけで演奏に惹き込まれます。そして続くテーマではケニー・ドーハムのミュート・トランペットが、濃~い味をつけてしまうのはご愛嬌でしょうか。
アドリブパートでは、まずJ.R.モンテローズが素晴らしいソロを聞かせます。あぁ、この唯一無二のスタイルが私は大好きで、この人はもっと評価されるべきだと思うのですが、しかしそれで巨匠に祀り上げられるのも面白くないという、ファン心理が働いてしまいますねぇ……。
それとビアニストのディック・カッツは白人ということで、如何にもという洒落たセンスを披露しています。しかもこの人はピアニストとしてよりもアレンジャーとして立派な仕事をしているということで、ここでもバンド全体の纏まりをつける役割を担っているようです。つまり要所のアレンジはディック・カッツの仕業かもしれません。それゆえに、このバンドとしての、このアルバムは非常にグループとしての一体感が見事な出来栄えになっています。
B-1 DX
アップテンポの痛快なハードバップ! 各人のアドリブも快調そのものですが、リズム隊の安定感がその秘密かもしれません。特にベースとドラムスの息の合い方は最高で、そこだけ聴いて満足という瞬間が何度もあるのでした。
B-2 Don't Explain
ケニー・ドーハムの哀愁のトランペットが堪能出来る、スローなスタンダード曲です。ただし、ここで聴かれるようなケニー・ドーハムのミュート・プレイは、なんとなく場末感覚が漂ったりして好き嫌いが別れるところかもしれません。
個人的には愁いの表現よりも、泥臭いところに惹かれるというのが、私の感想ですが……。
B-3 Tahitian Suite / タヒチ組曲
「組曲」と題されていますが、それほど構成に拘ったわけではなく、前半がスロー、後半がアップテンポという仕掛けになっているだけです。したがって各人のアドリブが勝負の分かれ目という、ハードバップのお約束はきちんと守られています。
それにしてもこの曲の哀愁、泣きの雰囲気はたまらないものがありますね♪ まさにケニー・ドーハムを称して良く言われる、いぶし銀の魅力が存分に発揮されていますが、もちろん作曲は本人です。
またディック・カッツのアドリブも素晴らしく、私の好きなデューク・ジョーダン的な味わいがあって、これまた最高です♪
ということで、これは派手ではありませんが、隅々まで行き届いたジャズ魂が魅力の作品です。それはバンドとしての一体感があって、尚且つ、忌憚の無い自己主張が見事という素晴らしさです。
ちなみにこのバンドの結成にはジャッキー・マクリーン(as) が予定されていたのですが、当時のボスだったチャーリー・ミンガス(b) という恐いオヤジと喧嘩して殴られ、歯を折られて演奏不能になり、そのバンドで同僚だったJ.R.モンテローズが急遽参加したという曰く因縁があるそうです。しかしこれが結果オーライ♪
それにしても「ジャズの預言者達」とは大仰なバンド名にしたものですが、このアルバムを聴く限り、それもあながちハズレではないなぁと思います。
しかし実際には後が続かず、あっけなく解散しています。それはリーダーのケニー・ドーハムが、クリフォード・ブラウン(tp) の急逝に伴い、マックス・ローチ(ds) のバンドに引き抜かれたからで、このあたりにもケニー・ドーハムの渡り鳥指向が……。全く残念としか言えません。
なお、このメンバーからピアニストがボビー・ティモンズに代わったバンドでのライブ音源から作られたアルバムが、ブルーノート・レーベルで発売されていますが、その出来は優れたハードバップではありますが、この作品とは異質の物になっています。それはグループとしての絶妙な纏まりがあるか否かで、つまりブルーノート盤には、そこが不足していると、私は感じています。
それはやはり、このアルバムでのピアニスト、ディック・カッツの存在の大きさを示すものなのでしょう。本当にそう思います。