雨がシトシト木曜日でしたが、こんな時に聴きたくなるのが、これです――
名盤、そして人気盤! どっから切っても、その言葉しか出ないアルバムです。
発売されたのは確か1975年でしたが、忽ちジャズ喫茶の人気盤となり、大ヒットしています。もちろん当時はジャス・フュージョンがグイグイと伸してきた時期で、このアルバムを製作したCTIレーベルは、その旗頭でしたので、またまた上手いことやったなぁ♪ と感嘆した記憶があります。
それほどこの作品は旨味に満ちた演奏ばかりで、ソフトで楽しく、しかもスマートという売れセンにズバリの出来になっています。
録音は1975年4月16 & 23日、メンバーはジム・ホール(g) をリーダーに、チェット・ベイカー(tp)、ポール・デスモンド(as)、ローランド・ハナ(p)、ロン・カーター(b)、スティーヴ・ガッド(ds) というオールスターズです――
A-1 You'd Be So Nice To Come Home To
アート・ペッパー(as) やヘレン・メリル(vo) の名演・名唱でジャズファンにはお馴染みの名曲に挑み、またひとつ決定的な名演を作り上げてしまった! そう言う他はありません。
いきなりテーマを軽やかに弾くジム・ホールのギターは、ソフトな愁いと泣きを含んでいますから、そのまんま、アドリブパートへ入っても、耳は釘付けです。そして次に出るのが、ソフト派白人アルトサックスの巨匠であるポール・デスモンドで、もちろん期待どおりの快演♪ しかも途中からチェット・ベイカーがカウンターのメロディを入れながら絡んでくるんですから、最高です。おまけに続くソロパートも完全に出来すぎのアドリブになっています。
リズム隊も好演で、ロン・カーターは地道な土台作りに勤しみながらも、要所でズバッと斬り込んで来ますし、ローランド・ハナも潜在的なセンスの良さを発揮しています。
またスティーヴ・ガッドはフュージョン派のドラマーで、必ずしも4ビートは上手いとはいえず、いろいろなセッションで聞かせる全くスイングしないシンバルは大減点なのですが、ここではいつもと違い、シンバルではなくオカズ主体にスイングするという新手を編み出しており、新鮮な快演です。恐らく多くのジャズ者が、このアルバムでスティーヴ・ガッドの4ビートを許容したのではないでしょうか。
A-2 Two's Blues
ジム・ホールのクールなオリジナルで、作者本人の絶妙なコードワークに酔い痴れてしまう名演です。チェット・ベイカーも好演していますが、全てはジム・ホールのための演奏です。短いのが残念……。
A-3 The Answer Is Yes
これもジム・ホールのオリジナルで、なかなかの名曲です。
イントロの独り善がりなギターソロからチェット・ベイカーが優しくテーマメロディを吹奏する、それだけで満足なんですが、アドリブパートでは全員が泣きと愁いの大競演! あぁ、ジャズは最高だぁ♪
特にローランド・ハナのアドリブは、もう即興では無く、3日くらいは考えたのか? と思わせられるほど出来上がっています。この人は黒人ですが、クラシックや白人的なセンスに溢れたところが隠れ人気で、典型的な過小評価組の1人です。
う~ん、それにしてもこの曲でポール・デスモンドの出番が無いのが残念です。しかしそこはジム・ホールが、リーダーして面目躍如の大活躍です。
B-1 Concierto de Aranjuez / アランフェス協奏曲
マイルスの「アランフェス」はよく理解出来ない私ですが、これには文句無く脱帽です。ちゃんとジャズになっていますし、もちろんアドリブパートが明快で分かりやすく、テーマのアレンジも嫌味になっていません。
ちなみにアルバム全体のアレンジはドン・セベスキーというのも、フュージョン全盛期の香りに満ちていますが、出来上がったものはバリバリのモダンジャズ、アドリブ勝負の瞬間芸に溢れています。中でもポール・デスモンドは神業の歌心!
それにしても、この泣きの展開、哀愁満開の演奏は当時大人気で、ジャズ喫茶ばかりでなく、洒落た飲み屋とかバー辺りでも鳴っていましたねぇ~♪
あまりミエミエな目論見なんで、聴く度になにかケチをつけてやろうと思うんですが、あぁ、今日もまた虜になってしまいました。
ということで、これはジャズ入門者も年季の入ったファンも、またジャズにそれほど興味の無い音楽愛好者にも、確実にアピールする万年名盤です。しかも輸入盤CDには別テイク等のボーナストラックも付属していますよ♪