今日は暑かったです。いや、今日もと書くべきでしょうね。
昔の日本では暑い時に我慢大会があり、炬燵に入って鍋焼きうどん、みたいな自虐の涼しさを求める一幕もありました。
本日はそんな1枚を――
■Headin' South / Horace Parlan (Blue Note)
往年のジャズ喫茶という暗い閉鎖空間では、全く独自の人気者が存在しています。
本日の主役であるホレス・パーランという黒人ピアニストもそうしたひとりでしょう。そのスタイルは打楽器的奏法とドス黒いグルーヴ、さらに全く逆の洒落たセンスがゴッタ煮状態になった脂っこいものです。
このあたりは私の稚拙な文章力では書くほどに虚しいだけで、実際に聴いてもらう他は無いのですが、その存在感は地味ながら強烈という二律背反の恐さを秘めています。
なにしろ1950年代後半にはチャールズ・ミンガスというジャズ界の強面ベーシストのお気に入りとなり、そのハードな粘着性を存分に発揮していましたし、同郷の盟友であるスタンリー&トミーのタレンタイン兄弟との活動、さらに自己のトリオ&カルテットによる演奏も聞き逃せないものばかりです。
ただし既に述べたように、この人のアルバムは歴史的名盤とか一般的な人気盤には程遠く、その要因はスバリ、アクの強さ!
と言うことは、好きになったら、トコトン付いていけるタイプ♪
そういう個性が存分に発揮されたリーダー盤は、主にブルーノート・レーベルと契約していた1960年代に沢山残されており、中には無く子も起きる「Us Three」という大偏愛盤も残されていますが、本日の1枚も負けず劣らずの激烈盤です。
録音は1960年12月6日、メンバーはホレス・パーラン(p)、ジョージ・タッカー(b)、アル・ヘイウッド(ds) という当時のレギュラー・トリオに、レイ・バレット(per) の参加がミソになっています――
A-1 Headin' South
野太いベースのイントロが、ちょっとエルヴィス・プレスリーの「冷たくしないで」を想起させますが、チャカポコのパーカッションとチンチン・シンバル、そして思わせぶりなブロックコード弾きのピアノが、独特のクールなグルーヴを生み出しています。
その雰囲気はアドリブ・パートにも引き継がれ、無機質なのか、それとも熱っぽいのか、一瞬、理解不能という不思議なノリに引き込まれてしまいます。
そして中盤からはホレス・パーラン十八番の打楽器&粘着コード演奏も飛び出しますが、まあ、これはアルバム全体の序曲というところでしょう。変態ラテン色だけは抜群です。
A-2 The Song Is Ended
前曲で変態的黒さを披露したこのバンドは、ここでは一転、地味なスタンダード曲を素材に洒落たムードが横溢する解釈を聴かせてくれます。
しかし所々に滲み出すファンキーなフレーズとノリは健在で、気軽に聞いているうちにグリグリと抉られるようなグルーヴの虜になっているのでした。ジョージ・タッカーのベースもエグイ!
A-3 Summertime
お馴染みのスタンダード曲が徹底してホレス・パーラン流儀で解釈されていきます。それはジョージ・タッカーの思わせぶりな弓弾きベースによるテーマの提示を経て、グイノリのアドリブパートではホレス・パーランの執拗なコード粘着弾きに繋がります。
あぁ、このグルーヴこそ、ホレス・パーランの真骨頂です。
ちなみにこの人は左手に小児麻痺の後遺症があり、その手首の按配からニュアンスの違うノリが生まれているとのことですが、まあ、そんなことよりも、やはり自己の感性から指が異次元を彷徨った展開と受け取るべきだと思います。
A-4 Low Down
そして出ました! このアルバムの目玉演奏が、これです。曲はスローなブルースで、ここではレイ・バレットが抜けたトリオでの演奏となり、その分、思いっきり粘っこいノリに撤していく展開が強烈です。特に1分41秒目から延々と続く同じフレーズの繰り返しは怖ろしいほどの脂っこさで、これはけっしてプレイヤーの故障ではありません!
その背後で蠢くジョージ・タッカーのドス黒いベース、さらに淡々としていながらグサッと決まっているアル・ヘイウッドのシンバルも聞き物です。
演奏はこの後、その執拗さが頂点に達した瞬間、ズル~っと開放されるクライマックスとなり、しかしそれも束の間、またまたブルースの泥沼へ落ち込んでいくのでした。
まずは必聴の名演!
B-1 Congalegre
これがまた、非常に調子の良い演奏で、そのキモはレイ・バレットのコンガとアル・ヘイウッドのドラムスのコンビネーションです。
とにかくテーマがシンプルな分だけリズムの楽しさが倍加されており、アドリブパートでは、そのウサを晴らすかのようにホレス・パーランがひたすらに突進! もちろん烈しいブロック・コードを炸裂させています。
しかしここでの主役は、やはりタイトルどおりにレイ・バレットのコンガ♪ いつまでも続く白熱のグルーヴは、侮り方ものがあります。
B-2 Prelude To A Kiss
お馴染み、デューク・エリントン楽団の十八番にして永遠のスタンダード曲が、しっとりと演奏されます。もちろんここでは、ホレス・パーランの洒落たセンスが堪能出来るいう仕掛けなのですが、それにしても、この歌心の豊かさは素晴らしいかぎり♪ 地味なサポートに撤するベースとドラムスもシブサ満点です。
B-3 Jim Lover Sue
これも小粋なセンスが滲み出た素敵な演奏です。なにしろレイ・バレットのコンガが必要以上に気持ち良く、ホレス・パーランはファンキー節を連発してくれるのです♪ 全くジャズが楽しくて何が悪い? というしか言葉がありません。
B-4 My Mother's Eyes
オーラスもあまり知られていないスタンダード曲ですが、こういう隠れ名曲を取上げるセンスもまた、ホレス・パーランのシブイところです。
もちろんレイ・バレットを中心としたリズムとビートのキレも楽しく、主役のピアノはホレス・パーランという個性を全開させています。
それは正直、ちょっと大人しい演奏に聴こえますが、このあたりの軽さが魅力のひとつかと思います。
ということで、なかなかクセのある演奏集になっています。なかでも「Low Down」の脂っこさと「Prelude To A Kiss」の洒落たセンスの落差は大きく、最初に聴くと、これ、本当に同一人物の演奏? と思われるかもしれません。
それとこのセッションの立役者は、言うまでも無くレイ・バレットのコンガです。そのチャカポコの気持ち良さは絶品で、これからの暑苦しい毎日には意外な清涼剤になるでしょう。
そして実は、私はそんな日々にネッチネチの「Low Down」を聴くという、自虐の鑑賞も楽しんでいるのでした。