OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ジャズはこれから♪

2006-07-02 18:48:21 | Weblog

大雨に地震があったりして、日本列島は今年も災害が多いですね……。

被災された皆様には、心からお見舞い申し上げます。

とはいえ、平穏な時には楽しみを追求するのが人間のサガですし、先の事はクヨクヨせずに過ごしたいのが、私の本音です。

ということで、本日は気楽に聴ける分かり易さが、実はジャズ地獄への招待となる、この1枚を――

A Night At The Vanguard / Kenny Burrell (Argo)

雰囲気作りの名人ギタリストがケニー・バレルです。

それは正直言うと、難しいテクニックやフレーズを用いなくとも、ジャズ的に優れたセンスや黒っぽいフィーリングを持っていれば、それなりに聴かせることが出来るということですが、これが逆に難しいという矛盾を孕んでいます。

つまり結局は素質の問題というか、ケニー・バレルこそジャズを弾くために生まれてきたギタリストだと、私は思います。

まず、黒いフィーリング、そして都会的な洒落たセンス、さらに緩急自在で協調性が強いアドリブ演奏、おまけに難しく無い音楽性が大きな魅力です。

さて、このアルバムはギター・トリオによるライブ盤♪ 録音は1959年9月16&17日、場所はタイトルどおりにニューヨークの名門クラブ=ヴィレッジ・ヴァンガードで、メンバーはケニー・バレル(g)、リチャード・デイビス(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という名手が揃っています――

A-1 All Night Long
 ロイ・ヘインズのズンドコ寸前の楽しいドラムスが演奏をリードするブルースで、ケニー・バレルはコード弾きのテーマを提示、そこにリチャード・デイビスのベースが寄添うあたりで、もう周辺は洒落た黒っぽさが充満します。
 そしてアドリブパートでは、単音弾きとコード弾きのバランスが本当に秀逸で、聴いているこちらは、すんなりとノセラれてしまいます。もちろん難しいフレーズは繰り出さない分かり易さも魅力です。
 このあたりは同じブルースでも黒人ブルースギタリストが弾くようなギリギリ・ゴリゴリ、ギュンギュンの演奏では無く、本当に夜のムードというか、柔らかなフィーリングで、これがジャズそのものになっているのですねぇ♪
 サポートするリチャード・デイビスとロイ・ヘインズも自分のソロパートではしっかりと自己主張していますが、3人がお互いの意志の疎通を大切にしている見事な演奏だと思います。

A-2 Will You Still Be Mine
 鳴り止まぬ拍手の中、スマートなスタンダードの名曲がアップ・テンポで演奏されます。そしてここではまず、テーマ部分で聴かせるロイ・ヘインズのブラシが見事! さらにアドリブパートに入ってはスカッとしたスティックの妙技を聴かせてくれます。
 もちろんケニー・バレルも主役として奮闘し、柔らかな黒人感覚を披露していますが、全体のペースはロイ・ヘインズに握られており、終盤のソロ・チェンジでは神業のドラムスと烈しく対峙するのですが、完全に敗北してしまったという……。
 とにかくロイ・ヘインズのドラムスを中心に聴いてほしいトラックです。

A-3 I'm A Fool To Want You
 さて、お次はセンチメンタルなスタンダード曲をムード満点に聞かせるという、ケニー・バレルの真髄が楽しめます。それはまず、テーマの変奏が見事ですし、スローな流れの中でもビートの芯を大切にしたフレーズの展開、さらに単音弾きで生み出す泣きのメロディと膨らみのあるコード弾きが素晴らしさの極致です。

A-4 Trio
 一転して、ここでは迫力のコード弾きを披露するアップテンポの演奏になります。もちろん最初は単音弾きで、十八番のブルース色が滲むフレーズを聴かせてくれますが、徐々にコード弾きを交えつつ盛り上げていくところは、本物のハードバップだと思います。
 そしてここでもロイ・ヘインズがビシバシとキメているのでした。

B-1 Broadway
 アナログ盤では、ここでオサラをB面にひっくり返すという儀式があって、この演奏が聴けるわけですが、曲調やノリが「A-4」と似ているので、それを軽んじてはなりません。
 肝心の演奏はハードバップの快演で、ケニー・バレルのギターもギスギスと熱演しています。
 そしてもちろん、ここでもロイ・ヘインズ♪ この人は、オカズが多くてメシが無い! というタイコが特徴ですが、それが存分に楽しめます♪

B-2 Soft Winds
 再び黒い雰囲気が濃厚なブルースになりますが、通常よりテンポが速いのでクサミがありません。まあ、それが物足りなくもありますが、都会派のケニー・バレルには合っているようです。全く淀みの無いフレーズを積み重ねて山場を作っていくあたりは、流石の上手さです。もちろん口ずさめるアドリブが素敵ですねっ♪
 ところが途中でテープ編集された痕跡があるんです! そこが、やや残念です。

B-3 Just A-Sittin' And A-Rockin
 これもブルースやゴスペル味を上手く融合させた名曲で、デューク・エリントン楽団の十八番のカバーですが、ソフトな黒っぽさがここでも全開♪ 密やかなチョーキングや擬似早弾きがニクイところです。

B-4 Well You Needn't
 そしてラストはセロニアス・モンクが作った有名ジャズ曲を、誠に分かり易く演奏するという裏ワザを披露してくれます。
 なにしろトリオの一体感は最高♪、リチャード・デイビスのベースが素晴らしくしなやかですし、ロイ・ヘインズのドラムスも刺激的♪ さらにケニー・バレルは持ち前の黒い歌心でセロニアス・モンクの変則コードを乗り切ってしまうのでした。

ということで、これはジャズギター物の名盤にして、ジャズ入門用の1枚でもあります。それはロックで親しんだギターが、ジャズではどう使われるのかという取っ掛かりが明確になっていますし、加えて演目が名曲揃い、さらにとても聴き易い演奏だということです。

ただしその密度は非常に濃く、それほど難しいフレーズを弾いていないケニー・バレルにしろ、そこには天性のセンスが無ければ、これほどの雰囲気は出せないという真髄が、確かにあるのです。

またリチャード・デイビスの堅実なサポート、ロイ・ヘインズの闊達なドラムスも素晴らしく、ケニー・バレルを、そしてジャズを聴くなら、まずこのアルバムからと、私は強く思っています。 

コメント
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