梅雨も明けたのか、微妙なところで暑苦しいですね……。
本来こういう時はボサノバとかビーチボーイズでも聴けばいいんでしょうが、天邪鬼の私は、こういうものを――
■Cannonball Adderley In San Farncisco (Riveside)
モダンジャズ界の名物兄弟だったジュリアン・キャノンボールとナットのアダレイ兄弟が自分達のバンドで初めての成功を掴んだアルバムです。
この兄弟は1955年にフロリダからニューヨークに出てきて、有名ライブハウスの「カフェ・ボヘミア」のステージへ飛び入り出演し、忽ち注目の存在になったという伝説がありますが、その後しばらくは目が出ませんでした。
もちろん兄弟でバンドを結成し、レコード会社との契約もあったのですが、特に兄のキャノンボールは自分の才能を活かす術が上手くなかったのでしょう。自分の活動よりもマイルス・デイビスのバンドに参加した演奏や録音の方ばかりが、持て囃されては……。
そこでいよいよ、兄弟揃って再デビューという次第になったのが、このアルバムが製作される前後の状況です。
録音は1959年10月18&20日、サンフランシスコのライブハウス「ジャズ・ワークショップ」におけるライブセッションで、メンバーはナット・アダレイ(cro,tp)、キャノンボール・アダレイ(as)、ボビー・ティモンズ(p)、サム・ジョーンズ(b)、ルイ・ヘイズ(ds) という、レギュラーバンドです――
A-1 This Here
当時のレギュラー・ビアニストだったボビー・ティモンズが作った、強烈なゴスペルワルツです。演奏前にキャノンボールがお喋り解説しているとおり、黒人教会音楽のノリが濃厚で、それはテーマ部分のビートと音の強弱が、如何にもコール&レスポンスの味に満ち溢れています。
こういう所謂ファンキー・ジャズは当時爛熟していた流行物ですが、このバンドの演奏は、さらにエグミが強く、ウネリも強烈です。
アドリブ先発はもちろんキャノンボールですが、ライブ特有の熱気に煽られながらも、以外に抑制の効いたソロが、逆にディープだと思います。
そして続くナット・アダレイもコルネットに固有な泣き過ぎのようなハイノートを駆使して山場を作り、中音域ではマイルス・デイビス風になるという、なかなかジャズ者の琴線にふれるソロを展開してくれます。
しかし、ここでの主役はリズム隊でしょう! ルイ・ヘイズのドラムスが飛び跳ね、サム・ジョーンズのベースが歪み、ボビー・ティモンズのピアノが咆哮するのです。特にボビー・ティモンズはジャズ・メッセンジャーズをファンキー天国に導いた実績があっての参加ですから、ここでのビアノはゴスペル満載の大暴走で、観客も手拍子&喝采の感極まり状態♪ これがジャズだと、痛切に思いますねぇ~♪
そしてバンドは、その山場で間髪を入れずにラストテーマへ! なんとなく、この辺りには不思議なメロー感覚まで漂うのは、私の気の所為かもしれませんがっ♪ 実は正直言うと、最初に聴いた時は、何かイマイチ地味~な感じで、この感覚が分からなかったんですが、聴くほどにコクが出たというところです。
A-2 Spontaneous Combustion
キャノンボールが作ったハードバップで、既にスタジオ録音も残されているのですが、それに比べてこのライブバージョンは、当然ながらゴスペル味と迫力が増しています。
それはリズム隊の暴れ方にも要因があるのですが、ホーン隊のアダレイ兄弟が異常なほどにノッています。
まず先発する兄のキャノンボールが猛烈なドライブ感で突っ走れば、続く弟のナットは出だしでマイルス・デイビス(tp) をやってから、後半でハイノートの連発という得意芸を披露するのです。そして2人とも、アドリブが分かり易いというところが、良いですねぇ~♪
さらに凄いのが、やはりリズム隊です! 3人がグルになってアダレイ兄弟を煽りまくりです。それ全く凄まじく、ビシッと決まった合の手も楽しく強烈! もちろんボビー・ティモンズはブロックコード弾きを炸裂させて、物凄い山場を築くのです。
そしてクライマックスはアダレイ兄弟による魂のコール&レスポンス! もうこのあたりは、私の大好きな展開で、何度聴いても興奮と感動の嵐に翻弄されるのでした。この1曲だけで、アルバム百枚分の価値があるとは、言い過ぎ? 否、お客さんも随喜の涙ですよ♪
B-1 Hi-Fly
ボビー・ティモンズの厳かなビアノのイントロから、楽しくて、やがて哀しきテーマが演奏されていきますが、そのビートの強さは「Blues March」の系列というファンキーなアレンジになっています。
キャノンボールのアルトサックスは余裕の鳴りで波打っていますし、ナット・アダレイは、ここでもマイルス・デイビスの物真似というか、これが自然体のノリを聴かせてくれるので、憎めません。
そしてここでも、やっぱりボビー・ティモンズ! もはや伝家の宝刀となっているブロックコード弾きは、タメと暴発の二重奏です♪ しかも、それをなかなか抜かないところが、流石の思わせぶりですねっ♪♪ おぉ、これはエリントンの曲か?
B-2 You Got It !
キャノンボールが作った猛烈なハードバップです。
ただしアクの強い曲が揃っているこのアルバム中では、あまりにも当たり前に聴こえてしまうという贅沢さ♪ もちろんキャノンボールは爆裂しているのですが……。
B-3 Bohemia After Dark
前述したアダレイ兄弟のニューヨーク殴り込み伝説にちなんだ、有名ジャズ曲です。作曲は彼等を迎え撃ったベーシストのオスカー・ペティフォードという因縁がありますから、言わばバンドテーマのような扱いになっているようです。
もちろん演奏はエキサイティングな快演で、キャノンボールがチャーリー・パーカー直伝のフレーズを交えて豪快にブッ飛ばせば、ナット・アダレイはスリルとスピードで対抗していきます。
リズム隊も絶好調を維持しており、サム・ジョーンズの唯我独尊のウォーキング・ベースが、なんとも心地良いですし、ルイ・ヘイズも小気味良く、ボビー・ティモンズはビバップの伝統を蘇えらせているのでした。
ということで、あまり蒸し暑い季節には顰蹙かもしれませんが、真夏に炬燵で熱いラーメン、もちろんその後は汗、びっしょりの爽快感という逃げも有り、ですねっ♪
特に「Spontaneous Combustion = 自然発火」の熱気には完全KOでしょう。ぜひとも、お試し下さいませ。