昨日の誤配騒動、宅急便屋の計らいにより、事なきを得ました。なんか、こういうミスとドジは良くあるらしいですが、決して誤配が多いということでは無いと、特記しておきます。
だいたい、良く確かめもせずに受け取りにサインするぬる~い秘書がイカンのだっ! こいつは履歴書に猫耳のコスプレ写真を貼ってきたバカ娘! まあ韓国語とかタイ語とか、中国語が話せるので使っているだけで、常識の無さは……。
と自分の事は棚に上げた本日の1枚は――
■Misterioso / Theronious Monk (Riverside)
コワモテが大勢いるジャズ界でも、特に誰も文句を言えないのが、セロニアス・モンクでしょう。いや、おやじギャグじゃ無しに!
なにしろその巨体、無口で何かを秘めた瞳、そして作り出される音楽はモダンジャズの極北という唯一無二の存在です。
音楽性については聴いてもらう他はないんですが、朴訥としたピアノから弾き出される不協和音の嵐! スタンダード曲を元ネタにしながら、全くユダヤ人モードでは無い作曲、幾何学的でありながら人間味が強く感じられる生演奏、それゆえに取っつき難くく、しかし半面、物凄い人気者でもあるのです。
このアルバムは、いつも出演していたクラブでのライブ盤で、そんなセロニアス・モンクの日常の一幕が記録されています。
録音は1958年8月7日、当時根城にしていたニューヨークの有名クラブ「5スポット」におけるセッションで、メンバーはジョニー・グリフィン(ts)、セロニアス・モンク(p)、アーマッド・アブダル・マリク(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という、恐怖の4人組です――
A-1 Nutty
リズミックで楽しいブルース曲ながら、ベタなファンキー感覚が無いのが特徴でしょうか、それでもアドリブ先発のジョニー・グリフィンは自分の領域である猛烈ハードバップに持ち込もうと奮闘します。
しかしどうしても、セロニアス・モンクのシバリから逃れることが出来ません。なにしろジョニー・グリフィンが十八番の展開に入りかけると、待ってましたとばかりに意地悪なコードやカウンターのメロディをぶっつけてくるのですから!
さらに自分のアドリブパートでは、音符過多だったジョニー・グリフィンにあてつけるかのような最小限の音符で「間」の妙技を聞かせ、さらに独自のメロディ変奏、ここぞっ、と炸裂させる不協和音♪ 全くのエゴに終始する潔さが、最高です。
もちろん演奏はそのコントラストがあってこそ、緊張感漂う白熱の演奏になっているのでした。
A-2 Blues Five Spot
このセッションのためにセロニアス・モンクが書いた新曲で、これも変態ブルースですが、妙なファンキー感覚がクセになります。
アドリブパートでは、もちろんジョニー・グリフィンがハート&ソウルの吹きまくり! そしてこれにはセロニアス・モンクもサジを投げたか、途中でピアノ伴奏を止めていますが、どうやらそこでは踊りだしているらしいとか……。
ですから途中の3分9秒目あたりからのジョニー・グリフィン一人舞台が最高にスリリング♪ そして山場から滑り込んでいくセロニアス・モンクのピアノとリズム隊のカッコ良さ♪ これがジャズの醍醐味ですねっ! もちろん観客は大喜び、私もいっしょに拍手喝さいです。
で、続くセロニアス・モンクのピアノは怖ろしいアドリブの連続です。「間」を協調してロイ・ヘインズのオカズ過多のドラムスを誘発させ、アーマッド・アブダル・マリクの裏街道的なベースソロを導いていくのです。
あぁ、ロイ・ヘインズ! 和太鼓みたいなソロが最高ですぜっ♪
A-3 Let's Cool One
一抹の哀愁が漂うセロニアス・モンクのオリジナルで、個人的には好きな曲です。
ここでの演奏はテーマに仕掛けられたキメを活かしながら、まずジョニー・グリフィンが定石どおりに泣きのハードバップを繰り広げてくれますが、伴奏のセロニアス・モンクは容赦無く恐いコードを叩いています。
実はセロニアス・モンクの管楽器入りのバンドの面白さは、誰かがアドリブソロを吹いているバックで、セロニアス・モンクがどういう動きをするかにあると思うのです。執拗に意地悪な変態コードが連発されたかと思うと、突如、何も弾かなくなったり、間延びしたビートやウラのウラから入ってくる妙なイントネーションのフレーズを出されたら、余程の力量がなければ演奏が続けられないでしょう。
その点、ここでのジョニー・グリフィンは流石です。4分7秒目からは無伴奏での吹きまくりを許すという、花を持たせてもらうほどですから、その実力の物凄さをご堪能下さい。決してテングになっていないジョニー・グリフィンには好感が持てます♪
そしてセロニアス・モンクは絶好調のモンク節! 何時もの訥弁スタイルにストライド風の弾奏も交えて、最高のアドリブを聴かせてくれます。
B-1 In Walked Bud
モダンジャズを創成した天才ピアニストのバド・パウエルについて書かれた、セロニアス・モンクの有名オリジナル曲です。その所為か、比較的ビバップ色の強いテーマ構成なので、ジョニー・グリフィンもマイペースでハードバップを吹きまくりです。
セロニアス・モンクも、ここでは物分りの良いみたいですし、例によって途中でビアノを弾かなくなったパートでは、ロイ・ヘインズとアーマッド・アブダル・マリクがグルになって、好き放題にジョニー・グリフィンを煽ります。もちろんここでは主役のテナーサックスが豪放に唸り、ストレス発散の大ブロー大会! 物凄い早撃ちフレーズから、肉声による苦悶の呻き、歓喜の叫びと情念の吐露!
そしてヤルだけやった祭の後を引き継ぐセロニアス・モンクは、全くの異次元へ聴き手を連れ去ろうと奮闘しますが、やはり自分以外の3人がハードバップどっぷりという空気を如何ともしがたい諦観が、逆に潔い演奏になっています。
またベースのアーマッド・アブダル・マリクは、あまり評価されていない隠れ名手ですが、良いですねっ♪ ロイ・ヘインズも終盤では正統派のドラムソロをたっぷり聴かせてくれますよ♪
B-2 Just A Gigolo
古いスタンダード曲がセロニアス・モンクのソロピアノで演じられます。曲そのものは、ロックファンならばデビッド・リー・ロス(vo) が超産業ロックとしてカバーしたバージョンで知っているはずですが、ここではセロニアス・モンクの訥弁のピアノスタイルが寂寥感いっぱいで、泣けてきます。
B-3 Misterioso
そして間髪を置かずにスタートするのが、このタイトル曲! まず、この流れが最高です♪
肝心の演奏は、ミディアム・テンポでネバリを強調したジョニー・グリフィンのブルース・フィーリングが素晴らしく、この熱い迸りこそがジャズの魅力ですねっ!
またセロニアス・モンクは烈しくプログレとでも申しましょうか、これまで以上にブッ飛んだフレーズや装飾音、独自のリズム感覚や変態コードを聴かせてくれますが、やや消化不良が残念です。
と言うか、ジョニー・グリフィンが凄過ぎる!?
しかし不思議な余韻が残る演奏なので、アルバムのラストには相応しいかもしれません。
ということで、これは傑作盤としか言えませんが、取っ付きの悪さも天下一品でしょう。ただ救いは、バリバリのハードパップ野郎=ジョニー・グリフィンの参加故に、ジャズファンならば気になる作品だと思います。
内容は独断と偏見に基づいて書いたとおりですが、もうひとつの魅力として、キリコの絵画が使われたジャケットの存在感! この前衛性が最高のカッコ良さとして、セロニアス・モンクの音楽に直結しているイメージだと思います。
それとこの日の録音からは、もう1枚のアルバム「イン・アクション」が作られていますが、そちらも熱い魂の爆発が楽しめるのでした。