今日は爽やかに晴れました。梅雨もいよいよ明けるのでしょうか?
本日は久々にDVDのご紹介です――
■‘Rahsaan’Roland Kirk In Europe 1962-1967 (Impro Jazz)
ジャズの虜になると必ずや気になる存在なのが、ローランド・カークという人でしょう。
ここからはお叱りや顰蹙を覚悟で書かせていただきますが、この人は盲目のサックス吹きで、しかも一度に複数の管楽器を操り、その音楽性はジャズを超越していながら、ジャズにどっぷりという超人です。
つまり、とても目が見えない者が演奏しているとは思えないほど、それは凄まじく、そして実際に目が見えないと知った瞬間、そんなハンデを克服して、よくぞここまでっ! と驚愕するのです。
それは映画の世界のヒーロー「座頭市」の存在にも似ていますし、独自に考案した管楽器を使ったり、ジャズ以外の音楽を堂々と演奏したりするところから、見世物的な面白さに満ちているのが、正直な感想でしょう。
しかしローランド・カークの作り出す音楽は、決してゲテモノではありません。どんなジャズメンよりもジャズらしい演奏、どんな音楽家よりも豊かな発想、抜群のテクニックとフィーリング! それは残された演奏を聴く度に、感動を呼ぶのです。
ただしローランド・カークを徹底的に楽しむためには、やはり生演奏に接するのが一番でしょう。前述したように、盲目でありながら一度に複数の楽器を操る超人ぶりを見てこそ、ローランド・カークの凄さ、恐ろしさ、そして天才性に、我々は打ちのめされるのです。
私は初めてローランド・カークの写真を見た時、サングラス姿のゴッツイ黒人が、複数のサックスを咥えながら吼えたような表情に驚愕し、忽ちその演奏を聴きたくなりました。そして多くのレコードを聴くにつれ、底が見えないディープな世界に惹きこまれていったのですが、残念ながらライブに接する機会がありませんでした。
ところが最近、ローランド・カークの1960年代のライブを集めたDVDが登場♪ 全篇が白黒ですが、世界初パッケージ化を含む怒涛の75分間! 本当に強烈至極でした。
内容は2つのパートに分かれており、まず最初が1962年11月15日、イタリアはミラノでのライブから3曲で、メンバーはローランド・カーク(reeds)、テテ・モントリュー(p)、トミー・ポッター(b)、ケニー・クラーク(ds) というオールスターズです――
01 Blues In F
まず司会がなんとJ.J.ジョンソン! トロンボーンを持っていることから、ちょうど自分達の演奏が終り、次のバンドを紹介している雰囲気です。
で、まずテテ・モントリューが登場しますが、ご存知のように、この人も盲目なので、まずピアノの前に連れられてきて鍵盤に触り、それで椅子の位置を確かめるという、失礼ながら、ある種の疑問が氷解する場面が見られます。
そして続いてケニー・クラーク、さらにトミー・ポッターに導かれたローランド・カークが、色々な楽器を体中にぶらさげて現れます。
そしてチューニング吹奏から、いきなりブルースがスタートし、それはテナーサックスでオーソドックスに始めながら、すぐにジョン・コルトレーンも真っ青な音の洪水! 恐るべき肺活量とタンギングの上手さ、指使いの激しさ! おまけにクライマックスでは、マンゼロというソプラノサックスのような楽器とテナーサックスを同時に咥えてのダブル吹き!!! もう、強烈で絶句ですっ!
また続くテテ・モントリューが、ウィントン・ケリーとマッコイ・タイナーを混ぜたような強烈なスイング感で大爆発! こんなん、ありっ! もう、演奏が止まらないという、これを見られただけで、私は感涙悶絶です。
しかもこの後を引き継いで、またまたローランド・カークが怪気炎を上げれば、テテ・モントリューは演奏が終りの合図も見えぬまま、スイングの嵐を巻き起こし続け、ローランド・カークに制止されるオチがついています。
あぁ、恐ろしさと凄さに身震いが止まりません♪
02 A Cabin In The Sky
ローランド・カークが十八番のスタンダード曲で、ここではストリッチという独自に考案した巨大ソプラノサックスのような楽器が使われます。
そしてテーマが軽快に吹奏された後、ホイッスルの合図でテテ・モントリューが豪快にグルーヴィン♪ この時代は、まだ、ほとんどウィントン・ケリーがモロ出しのスタイルですが、その颯爽としたスイング感は本家に引けを取らない颯爽としたもので、もう最高♪ けっこう派手な音も使っています。
そして続くローランド・カークが、またまた強烈! 巨大な楽器を派手なアクションで操りながら、驚愕の音符の洪水を撒き散らしますが、歌心が完全に一体になった物凄さです! 実はステージ上のローランド・カークの周囲には複数のマイクが立てられているのですが、その理由が、ここで分かります。
う~ん、それにしてもローランド・カークの体力と馬力は凄すぎます。体中に様々な楽器を身に付けての派手なアクションと爆発的な吹奏! 本当に超人的だと思います。
03 3-In-1 Without The Oil
これはローランド・カークのバンドテーマというオリジナル曲です。基本はブルースとモードのゴッタ煮ですが、演奏は如何様にも発展出来る汎用性があるようです。
まずアドリブ先発のテテ・モントリューが強烈なスイング感を爆発させ、続くローランド・カークはフルートに肉声を混ぜた得意技を存分に披露しますが、途中では鼻息で竹笛を同時に吹くという、余人にマネの出来ない妙技までもっ♪
そして無伴奏のフルートソロの場面では、あまりの楽しさにケニー・クラークがニンマリという表情が印象的です。
またそれを引き継ぐテテ・モントリューの疾走ハードバップピアノが気持ち良く、クライマックスはローランド・カークの複数管楽器吹奏から、テナーサックスの息継ぎ無しのノンブレス奏法が披露され、おまけにピアノ前に歩み寄り、一人で伴奏のブギウギピアノ! もちろんその間、テナーサックスは鳴りっ放しです! どうやら鼻から息を吸い込み、口から出しての吹奏だと思われます。
もちろん演奏はまだまだ続き、ポケットから時計を出して時間を確認すると鳩笛を鳴らして突如ストップ! ケニー・クラークの分かっているアクセントも、たまりません。
ということで、以上の3曲は驚愕と感動の連続です。トミー・ポッターとケニー・クラークというモダンジャズを創成した巨匠2人のサポートも素晴らしい限り♪
画質は残念ながらB級ですが、この演奏の充実度の前には問題にならないでしょう。この3曲は世界初出ではないでしょうか? とにかく全ジャズファンが必見と、断言致します。個人的にはテテ・モントリューの激しさに興奮させられました。
さて後半は1967年10月19日、プラハでのライブで、メンバーはローランド・カーク以下、ロン・バートン(p)、スティーブ・ノボセール(b)、ジミー・ホップス(ds) という、当時のレギュラーバンドです――
04 Ode To Billie Joe
挨拶代わりの楽しいジャズロックと言うか、当時流行っていたヒット曲をテナーサックスでフリーソウル化しています。もちろん2管同時吹奏やジョン・コルトレーンも真っ青というシーツ・オブ・サウンドの乱れ撃ち! さらに熱い咆哮と溢れ出る歌心のバランスの絶妙さが、本当に秀逸です。
サポートするバンドの面々では、まずロン・バートンが何でも弾ける実力者なので、ここでは正統派ジャズロックに専念していますが、ややセンが細いのが残念です。
05 My Ship
美メロで有名なスタンダード曲を、ローランド・カークはフルートで聴かせてくれます。もちろん独自の肉声入り解釈になっており、元メロディの変奏と対比が鮮やかです。
そのフルートには妙なアタッチメントが付いています。なんでしょうね?。
バックのトリオの崩れ落ちる寸前という繊細さも、また素晴らしいと思います。
06 Creole Love Call
デューク・エリントン作曲による古典ながら、ここではマイルス・デイビスの「All Blues」のアレンジを借用しているのですから、油断がなりません。
ここではクラリネットとテナーサックスの同時吹きでテーマが演奏され、柔らかさと奥行きの深さが、まず最高です。
そしてアドリブパートではクラリネットで正統派の本領を発揮、続いてテナーサックスでは新主流派~フリーに接近した、当時の最先端を聴かせてくれますが、ジャージみたいな衣装で身を捩りながら吹奏するローランド・カークは、やはり凄い人です。
またロン・バートンは繊細で押さえた表現のピアノから深いエモーションを披露していますが、やや考えすぎか……。
07 The Inflated Tear / 溢れ出る涙
ローランド・カークの代表的名曲・名演が、ここで演奏されます。もちろんオリジナルのスタジオ・バージョンは、このバンドでのレコーディングでしたから、息の合い方と仕掛けの処理は抜群です。
スタートはローランド・カークの一人舞台で、妙なバネ仕掛けの打楽器をイントロに使い、テナーサックス、マンゼロ、ストリッチの3管同時吹きで哀切のテーマを聴かせてくれるその映像は、感動的です。
トリオの繊細で劇的な伴奏も素晴らしいと思います。
08 Lovellevelliloqui
一転、ジョン・コルトレーンに挑戦したかのような烈しい演奏で、その曲調はもちろん、アップテンポでモード全開! 垂れ流し寸前のスケール変奏に終始するローランド・カークは、これをパロディ演奏としているのでしょうか? 投げやりな雰囲気が横溢していますが……?
リズム隊も1970年代前半の新宿ピットインという雰囲気です。分かってもらえますかねぇ……。ここではジミー・ホップスのドラムスが最高! ちなみにこの人は、1970年代にチャールズ・トリバー(tp) のバンドで大活躍した正統派の名手で、ここではその本領発揮という烈しいドラムソロが♪
09 Making Love After Houres
なんとも凄いタイトルの曲ですが、この上も無く楽しいジャズロックです。
映像では、ここで花束贈呈に出てきた美女が、いきなり予定に無かった演奏が始まって戸惑う様子が映っており、これがまた楽しいところ♪
肝心の演奏はローランド・カークが十八番の肉声フルートが素晴らしく、バンド全体のノリも最高♪ なんか、ここにきて、やっと本来の調子が出たような雰囲気さえ漂います。
もちろんリーダーは鼻笛まで繰り出して大奮闘! リズム隊は擬似ラムゼイ・ルイス・トリオになっていますよ♪ クライマックスは3管同時吹奏です。
10 Free Interlude / Bessie's Blues
オーラスは大歓声の中でスコットランドのバグパイプのような演奏が、ローランド・カークの2管吹奏で再現されます。そして最後は全身痙攣からバンド全体はフリーの大嵐を巻き起こし、アッという間に大団円という鮮やかさなのでした。
ということで、偏見は百も承知の楽しさ満載♪ これを見ずしては死ねないが、ジャズファンの本懐ではないでしょうか?
特に前半の3曲は強烈至極! この世の果てまで飛ばされてしまいそうなエネルギーに満ちています。二大盲人ジャズメンの共演というだけでは済まされない物凄さです。
それゆえに後半の7曲のインパクトが、やや弱いのですが、実はこのパートは以前ビデオ化された時には大反響だったのですから、今回のDVD復刻の意義は計り知れないものがあります。もちろん後半の映像はAランクの画質です。
最後にローランド・カークについては、生まれて間もなく失明したために音楽の道に進み、複数の管楽器を同時に吹奏するアイディアは夢の中から得たと、本人は語っています。
その演奏の土台は黒人らしいファンキーさ、ゴスペルやブルースのみならず、広範囲に良いものは良いとして自分の領域に取り込んでしまう、度量の大きさから成り立っています。
ですからレコードよりも生演奏の方が何倍も楽しめるミュージシャンなのですが、来日は1964年の唯一度でした。しかも1977年に急逝したため、人気絶大ながら再来日が叶わず、個人的にもライブを観られなかった悔しさがありましたので、今回の映像復刻には期待していたのですが、全く期待以上の素晴らしさで、夢見心地でした。
特に前半が強烈で、テテ・モントリューも最高♪
皆様には激オススメのDVDです!