雨が続きますね。今年は梅雨明けなんて、あるんでしょうか?
ジメジメとすっきりしない日々には、逆に地味~な、この1枚を――
■Triple Exposure / Hal McKusick (Prestige)
ジャズ喫茶の良さのひとつに、知らないミュージシャンとの出会いがあります。そして忽ち虜になるという……。
私にとっては本日の主役、ハル・マキューシックという白人リード奏者がそのひとりです。スタイル的にはレスター・ヤングの影響が大きい、柔らかな歌心の持ち主なんですが、どことなく一筋縄ではいかない雰囲気が滲み出た風貌からも推察出きる様に、かなり屈折した部分も垣間見せる演奏が得意のようです。
ですからガイド本で紹介されるような人ではないのですが、どうやら評論家の先生方や同業者といった玄人筋からの評価が高いとは後に知ったことで、とにかくこのアルバムは、不思議な気持ち良さがたっぷりです。
録音は1957年12月27日、メンバーはハル・マキューシック(as,ts,cl)、ビリー・バイヤーズ(tb)、エディ・コスタ(p)、ポール・チェンバース(b)、チャーリー・パーシップ(ds) という白黒混成のクセモノ揃い! そしてアルバムタイトルとおり、主人公はアルト&テナーサックス、クラリネットの三種の楽器を操るのです――
A-1 The Settlers And The Indeans
チャーリー・パーシップのサクサクするブラシが気持ち良いテーマから、ハル・マキューシックはアルトサックスで忍び泣きです。そのスタイルはスカスカと滑らかで、リー・コニッツとポール・デスモンドの中間の様だと言えば、グッとこられる皆様も多かろうと思います。
そういうスマートなアドリブですから、それを支えるリズム隊は逆に力感溢れるものが要求されるのでしょう、続くエディ・コスタのピアノは積極的ですし、ポール・チェンバースは我が道を行く姿勢を貫いてブンブン、唸っています。
またフロントの相方であるビリー・バイヤーズも隠れ名手として、ここではミュートのトロンボーンでオトボケとツッコミを交錯させた名演を聴かせてくれます。 そしてクライマックスではチャーリー・パーシップのドラムスがリードしてのソロ交換♪ 全体に快適で刺激的なスイング感の連続です。
A-2 I'm Glad There Is You
ここではクラリネットでの泣きに終始するハル・マキューシックが、せつなさの極みを聴かせてくれます。まず、哀愁のテーマメロディの解釈が抜群なんですねぇ♪ これを聴いて泣かない人はジャズファンではありません、と本日も決めつける私ではありますが!
エディ・コスタのピアノ、ビリー・バイヤーズのミュート・トロンボーンもさらにせつなく心に染みてまいります。
そしてラストテーマの哀しい吹奏……。短いながら、何度聴いても泣ける名演だと思います。
A-3 Something New
リズム隊の力強さに支えられた擬似ハードバップです。つまり白人らしい粋な感覚が消しきれないというか、逆にそれを前面に出した「泣き」の展開が最高です。
ハル・マキューシックはテナーサックスでレスター派の面目躍如♪ あぁ、単調のようでいて、突如、せつないキメのアドリブフレーズが飛び出すんですから、油断なりません。
それはビリー・バイヤーズとても同じことで、けっこう考え抜いた構成なのかもしれません。2分58秒目からのフレーズなんて、書き譜の疑惑さえあります。
B-1 A Touch Of Spring
これもクラリネットのせつない音色が心に染みる名曲・名演です。
アドリブパートでは最初、力強いベースとドラムスにリードされているような雰囲気ですが、徐々に内向的な美メロとウネウネのフレーズを駆使して自己のペースを取り戻していくあたりが、聴きどころかもしれません。
つまりリズム隊が秀逸すぎるというか、特にポール・チェンバースはこういう地味なセッションでも凄みを発揮しますねっ♪ チャーリー・パーシップのブラシも最高です。
おぉ、最後はクラシック風味までっ!
B-2 Blues Half Smiling
その強靭なリズム隊に支えられた強烈なファンキーブルースがこれです!
アドリブ先発はタメの効きまくったエディ・コスタのピアノで、もちろん十八番の重低音打楽器奏法が重苦しく炸裂します。
続くポール・チェンバースのピチカートも緩急自在の黒っぽさですし、それに導かれて登場するハル・マキューシックのクラリネットは、当に闘志を秘めたエグミが感じられます。
ビリー・バイヤーズのミュート・トロンボーンは軽妙さが先行していますが、全体としてはヘヴィなリズム隊故に、ハードバップ・パロディかも……。
B-3 Saturday Night
オーラスはアップテンポの楽しい演奏で、ディキシーランド・ジャズのモダンジャズ風展開になっています。
もちろんハル・マキューシックはアルトサックスで軽快に飛ばしますし、こういう演奏を聴いているとポール・デスモンドとのバトルセッションがあったらなぁ……、等と儚い夢を見てしまいますねぇ。
続くエディ・コスタ、ビリー・バイヤーズのアドリブもスイング命の淀みの無いスタイルで、歌心の奥義を披露してくれます。またポール・チェンバースは絶好調!
ということで、このアルバムは地味に良い♪ そこに尽きます。そこはかとない歌心が満ち溢れ、ほどよい屈折感と力強さが抜群のアクセントになっているのです。
ハル・マキューシックは目立たない存在の割にはレコーディングの多い人ですが、如何にもジャズという点では、この作品が最右翼ではないでしょうか?
ちなみにこのアルバムは一応「幻の名盤」扱いだったそうですが、現在はボーナストラック付きでCD化されています。そして実はジャズ喫茶よりも、自宅でシミジミと聴くジャズとしては、最適の1枚になっているのでした。