今年も暑い夏がやってきましたね!
今日は各所を駆けずり回って疲れ果て、途中でジャズ喫茶で休憩、これをリクエストしてきました――
世の中、裏切りはつきものですが、それが良い方向になることは、滅多にありません。たいていは失望、怒り、驚愕、脱力……。そんなものが去来して、最後には自分の不甲斐無さを嘆くか、相手を怨むか……。
このアルバムなんか、私にとっては、そうしたブツのひとつです。
ご存知、リー・コニッツと言えば、白人クール派のアルトサックス奏者で、その冷淡な中にも和みが滲む歌物解釈は、真の天才だけが成せる技です。
また抑揚が無いのに、強烈にドライブするアップテンポでのアドリブの展開も、同様に聴き手を不思議な感動に導くのです。
で、このアルバムはお馴染みの人気スタンダード曲を素材に、しかも凄いメンツとの対決がある! 最初、ジャケットからの情報では、そう推察出来ました。
録音は1961年4月29日、メンバーはリー・コニッツ(as)、ソニー・ダラス(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) というピアノレスのトリオ! そして次の曲が演奏されたのですが――
A-1 I Remember You
ソニー・ダラスのベースが全体をリードする雰囲気というか、まず、あのお馴染みのテーマメロディがほとんど出ずに、リー・コニッツはあくまでもテーマをアドリブの素材として自分の下へ引き寄せることばかりしています。
もちろん、そのアドリブはフワフワ・グイグイ突っ走る、何時ものコニッツ節ではありますが……。
またエルビン・ジョーンズは時代的にもジョン・コルトレーンと共演している時と、なんら
変わらぬスタイルでドラムスを叩きまくっているのですが、録音の按配から、イマイチ迫力が感じられません……。
初っ端から完全にこちらの思惑が外れた???の演奏で、僅かにラストテーマが素直に吹かれているのが、救いでしょうか……。
A-2 All Of Me
これもアップテンポでぶっ飛ばした演奏ですが、あの哀切のテーマが出ません。つまりアドリブだけ聴いて欲しいんだよっ! というリー・コニッツの実在主義が露骨に出たという……。
ですから、エルビン・ジョーンズは全篇で怒りのドラムスを炸裂させていますので、前曲よりは爽快感があります。気になったドラムスの録音状況も、やや改善されています。
さらにソニー・ダラスが我関せずの素晴らしさで存在感満点♪ リー・コニッツも鋭いツッコミを聴かせてくれるのでした。
これはボリュームを上げたくなる演奏です!
A-3 Foolin' My Self
リー・コニッツが事ある度に演奏している哀愁のスタンダード曲です。
つまり十八番というわけですが、ここではベースとドラムスに強烈な存在感がある所為か、泣きとツッコミが何時もより大袈裟と感じます。
しかしそれが快感なんですねぇ。荒っぽい雰囲気と紙一重なんですが、そこは流石にリー・コニッツ♪ ファンにだけ理解出来る部分かもしれませんが、やはり惹きこまれてしまいます。
ただし最初に聴いた時は、これも完全に???でした。だって、歌心が無いんですから! そこは後半で聴かれる3者の絡みで解消されるのですが……。
B-1 You'd Be So Nice To Come Home To
この曲をアルトサックス奏者が演じると、嫌でもアート・ペッパー(as) と比較される運命にあるわけですが、そこはリー・コニッツも百も承知! ほとんど原曲メロディを吹かず、いきなりアドリブに走っています。
それはエルビン・ジョーンズのド迫力の煽りとソニー・ダラスの地鳴り如きスイング感にガッチリと支えられたもので、とにかく好き放題に吹きまくるリー・コニッツに酔い痴れる他はないのですが……。
本音はやはり、アート・ペッパーのような歌心の妙技を聴かせて欲しかったのです。なにせリー・コニッツは、誰よりもそれが出来る実力者なんですからっ!
しかし無いもの強請りは哀しいということで、ここはベースとドラムスを中心に聴き、苦痛の泥沼から被虐の喜びを見出すという、SMの如き鑑賞法が王道かもしれません。
実はけっこう、好きな演奏です♪
B-2 I'll Remember April
エルビン・ジョーンズのドラムスをイントロにして、またまたリー・コニッツがアドリブばっかり吹いていきます。
もちろんテーマメロディの断片はチラチラと出てくるのですが、煮え切らないフレーズの連続にはイライラさせられます。
しかし、それとてもリー・コニッツだけの得意技というか、全く余人の想像力を超越したアドリブ展開は、ハマると抜け出せません。
ということで、ジャズ入門者がこれを聴くと、完全にジャズを敬遠してしまう演奏集になっています。
ということは、私のような天邪鬼御用達なのか?
という疑念がつきまとうのですが、全くそのとおりだと思います。なにせ、わざわざ有名スタンダード曲ばかり演奏しているようなフリが意地悪く、また1曲毎の演奏時間が必要以上に長いという……。
もう勘弁出来ん! そう思った瞬間、エルビン・ジョーンズの怒涛のドラムスが炸裂したりするんですから、いやはやなんともなアルバムだと思います。
ただし大音量で聴くと、非常に快感♪ 私は、たま~にジャズ喫茶でリクエストしてはエツに入っています。暑いなあぁ……。