OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

エネルギッシュ・トリオ

2006-07-14 17:20:52 | Weblog

日本最高のソウルシンガー=忌野清志郎のガン告白には、衝撃を受けました。

一刻も早い社会復帰を望んでいますが、最悪、もう、あの魂の歌は聴くことが出来ないのか……、と悪い方向にばかり気持ちが向かいます。

私に出来ることは、回復を祈って「念」を送るだけですが、頑張って欲しいと心から願っています。

ということで、本日の1枚は生命エネルギーに満ちたこれを――

Oscar Peterson At The Stratford Shakespearean Festival (Verve)

偉大なジャズピアノの巨匠=オスカー・ピーターソンの演奏は物凄いエネルギーに満ちていますが、その偉人と共演するメンバーも、負けず劣らずの実力者でなければ務まりません。

特に歴代レギュラートリオに参加した面々は全てが超一流! その3人による丁々発止の遣り取りがあってこそ、オスカー・ピーターソン本人の凄さが浮彫りになるという仕掛けが強烈です。

このアルバムは、その最たるもので、録音は1956年8月8日、カナダでのライブセッションで、メンバーはオスカー・ピーターソン(p)、ハーブ・エリス(g)、レイ・ブラウン(b) というドラムレス・トリオです――

A-1 Falling In Love With Love / 恋に恋して
 何気ない出だしながら、全体に緻密なアレンジが施されていることが、テーマ演奏で分かります。しかしトリオとしてのグルーヴは、それに左右されることなく強烈で、ギターとベースによって弾き出されるビートが素晴らしく、オスカー・ピータソンも心置きなくピアノで楽しくも怖ろしいフレーズを連発していきます。
 あぁ、この歌心とジャズどっぷりのノリ、グルーヴィな感覚は、とてもドラム無しとは思えません! もちろんレイ・ブラウンの繊細かつ豪胆なベースとハーブ・エリスのカントリー風味の入ったギターも素晴らしく、当に3者の思惑が交差して成り立つ至芸になっています。

A-2 How About You
 これも緻密なアレンジが施してありますが、それによって逆にジャズ的な面白さが強調された、凄まじい演奏です。
 まずハーブ・エリスがビバップというよりは、ウェスタン・スイング丸出しのフレーズで疾走、続くオスカー・ピーターソンはタメの効いた早弾きでグイノリの強烈スイング! 「ビディビディ」呻く本人の濁声も印象的ですが、この人の凄いところは、ちゃんとそのとおりのフレーズが鍵盤から発散されるところです。
 そして徐々に盛り上げて山場に繋いだ瞬間、レイ・ブラウンのブレイクから核心を突いたベースソロに続く部分は、最高です。

A-3 Flamingo
 魅惑のスタンダード曲を幻想的に解釈していくこのトリオは、やっぱり名人の集りだと痛感させられる演奏です。
 主旋律を奏でるオスカー・ピーターソンに寄添うレイ・ブラウンのベース、素晴らしいオカズを入れるハーブ・エリス♪ もう、それだけで悪いはずが無く、各々が役割交代しても、その基本線を大切にした仕上がりには、心底、酔わされてしまいます。

A-4 Swinging On A Star
 初っ端からド迫力の演奏で、トリオは馬力全開でぶっ飛ばしています。
 時折入る「チャカポコ」の効果音は、ハーブ・エリスがギターのボディを叩いて作る得意技で、抜群のアクセントになっています。
 で、ここではそのハーブ・エリスとレイ・ブラウンが前半に素晴らしい掛け合いを披露しするので、観客は大喜び♪ そして後半では、いよいよオスカー・ピーターソンが登場、呻きながらも豪快にスイングする神業ピアノで強烈なアドリブを披露していきますが、エキサイトしてもトリオとしての一体感は崩れることがなく、しっかりスジの通った演奏になっています。

A-5 Noreen's Nocturne
 オスカー・ピーターソンのオリジナルで、その素敵なテーマでは、トリオの3者が別々のメロディを奏でる瞬間もあるという、ちょっとクラシック音楽風味のアレンジが魅力です。
 そして演奏はアップテンポでアドリブパートに突入しますが、ここでもトリオの面々は唯我独尊と協調を両立させた素晴らしい展開を聴かせてくれます。
 特にハーブ・エリスは全く乱れない早弾きからタメの効いたキメ、オスター・ピーターソンは言わずもがなのグイノリ、その背後でグルーヴィなウォーキングを聞かせるレイ・ブラウンは流石の完成度です。

B-1 Gypsy In My Soul
 B面に入ってもトリオの好調さ増すばかり♪ この緊張感の持続がオスカー・ピーターソン・トリオの凄さで、実は案外、この当たり前の事が成し遂げられないのが、ジャズという瞬間芸の世界です。
 で、ここではズバリ、トリオでの物凄いノリが堪能出来ます。正直、オスカー・ピーターソンもハーブ・エリスも、何時も同じようなフレーズばかり弾いているように聴こえますが、その場その場のインスピレーションは限りなく大切にされているわけですし、それをここまでグルーヴィに表現してしまう実力と情感は最高です。
 最後には一転してクラシック調のキメが容易されており、全く楽しくなりますよ♪

B-2 How High The Moon
 さあ、ここからが怖ろしいまでのクライマックスになります。
 この曲は有名スタンダードですが、実はモダンジャズが創成されるカギとなったコード進行らしく、つまりアドリブの素材としては刺激的に面白いということで、多くの素晴らしいバージョンが生まれていますが、このオスカー・ピーターソン・トリオの演奏は一際、秀逸です。
 緩やかな出だしから、まずハーブ・エリスが独特の泣きとウネリを聴かせます。そこではギター演奏の特色であるチョーキングやピッキングの妙技が存分に楽しめますし、歌心の豊かさは言わずもがなです。
 そしてレイ・ブラウンはバッキングの巧みさに加えて、ソロでも野太くスイングしながら繊細なアドリブ・メロディを披露するのです。
 さらにオスカー・ピーターソンは徹頭徹尾、グルーヴィ♪ 「ビディビディ」呻く濁声も素晴らしい芸になっていますし、自分だけが倍テンポで攻めまくり、いつしかバンド全体が猛烈なスイングの波にノッた時には、凄まじいブロックコード弾きの嵐を巻き起こしているという、強烈な演奏です。
 おまけにその瞬間、サッと鮮やかな引き際で演奏がラストテーマに入るあたりは、本当にゾクゾクさせられるのでした。

B-3 Love You Madly
 大拍手の中、これも緩やかに演奏がスタートしますが、テーマ部分から複雑なアレンジが施されており、それを何気なくこなしていくトリオは素晴らしい♪ あぁ、この和み、このスイング感、この黒っぽさ、粋なメロディ解釈……等々、何度聴いても呆れるほどに纏まったトリオだと思います。
 もちろんアドリブパートではオスカー・ピーターソンが思いっきり自己主張! ハーブ・エリスもカントリー・リックで応戦し、レイ・ブラウンは技巧の全てを発揮して繊細なソロを披露しますが、その3者が絡みあう瞬間が本当に強烈で、特に4分50秒目あたりからの大爆発には必ずや興奮させられるでしょう。
 そして一端押さえた感情を再び烈しく吐露していくトリオは、ネバリと自意識過剰のクライマックスに突入するのですが、最後まで緊張感が途切れない、大名演だと思います。
 
B-4 52nd Street Theme / 52丁目のテーマ
 オーラスはビバップの代表曲が猛烈なアップテンポで演奏されるという、当にこのトリオでなければ成し得ない、究極の至芸が展開されます。
 オスカー・ピーターソンは言わずもがなのフルスピード・スイング! 途中で仕掛けられているリフも鮮やかですし、続くハーブ・エリスも必死の早弾き! これには早弾き自慢のロック系ギタリストも仰天でしょう。
 また絶対に崩れないレイ・ブラウンのタイム・キープも流石です!

ということで、あまりにもエネルギッシュな演奏ばかりですから、聴いていて当然、疲れます。しかしそれは、心地良い疲労であって、その生命力の発散がジャズの魅力なわけですが、それにしても昔のLPは上手く出来ていて、ちょうど片面を聴くと、心地良い疲労がピークにくるように設定されていますね。

ですから、ここでもCD鑑賞ならば、半分ずつ聴くとか、じっくりお楽しみ下さい。全てが素晴らしいトラックばかりですので、安心して身も心もジャズに浸ることが出来ると思います。

コメント
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