1週間が早いですねぇ……。こうして仕事に追われて、歳をとっていく私はいったい誰でしょう……。
なんてことが、フッと心を過ぎることもあるという本日の1枚は――
■Zoot At Ease / Zoot Sims (Famous Door)
ズート・シムズと言えば、テナーサックスの大名人♪ レスター・ヤングの影響が強いスタイルながら、淀みの無い歌心と強烈なドライヴ感が魅力です。
そのズート・シムズがソプラノサックス!
というのが、このアルバムのウリで、こんなに堂々とジャケット写真にソプラノサックスを吹奏する勇姿が載っていたのは、リアルタイムで衝撃でした。なにしろソプラノサックスと言えば、ジョン・コルトレーンというのが当時の常識で、つまりモード~新主流派の演奏スタイルには必須! 裏を返せばハードバップやモダンスイングには不向きという思い込みがあったのです。
はてさて、これはどんな演奏かというと、録音は1973年5月30日&8月9日、メンバーはズート・シムズ(ts,ss)、ハンク・ジョーンズ(p)、ミルト・ヒントン(b) が不動、そして5月のセッションにはルイ・ベルソン(ds)、8月のセッションにはグラディ・テイト(ds) が参加しています――
A-1 Softly, As In A Morning Sunrise (1973年5月30日録音)
ノッケから強烈な印象が残ります。
なにしろソプラノサックスでこの曲と言えば、ジョン・コルトレーンが1961年にビレッジバンガードのライブ盤で怖ろしいばかりの名演を残しているのですから、ここでは聴く前から悪い予感に満たされています。
しかし、これが全く別種の快演♪
リズム隊の緊張感溢れるイントロから、素直にテーマを吹奏するズート・シムズのソプラノサックスは爽やかさと暖かさがいっぱいです。もちろんアドリブパートはズート・シムズ流儀の「歌」が、これでもかと飛び出すのですから、ジャズを聴く楽しみが極まっています。
リズム隊も快調そのもので、ルイ・ベルソンのツボを押さえたシンバル、豪胆にスイングするミルト・ヒントンのベース、センスの良さが全開したハンク・ジョーンズのピアノは、当に名人芸です。
あぁ、ジョン・コルトレーンのバージョンと聞き比べても、間然することのない名演だと思います。
A-2 In The Middle Of A Kiss (1973年8月9日録音)
スタンダードの隠れ人気曲を、ズート・シムズはテナーサックスで見事に聴かせてくれます。つまり安心感たっぷりのズート節♪ サブトーンのブスススススス~という響きが、もう感涙ですねっ! もちろんアドリブでの美メロも止まりません。
緩やかなミディアムテンポを刺激的に彩るリズム隊とのコンビネーションも、秀逸です。歌心の塊♪
A-3 Rosemary's Baby (1973年5月30日録音)
再びソプラノサックスを操るズート・シムズの凄さが堪能出切る演奏です。
曲調はラテンリズムを入れたアレンジで、ややモード調ですが、あくまでも全員がメロディに拘る演奏が最高です。
またここでもリズム隊が絶好調で、ルイ・ベルソンの古くてモダンなドラミング、絡みまくりのミルト・ヒントン、怖ろしいまでにテンションが高いハンク・ジョーズは、本当に強烈です。
そしてこれではズート・シムズも油断出来ない雰囲気で、男気に満ちた哀愁のメロディを紡ぎ出していくのでした。
A-4 Beach In The A.M. (1973年8月9日録音)
ハンク・ジョーンズが書いたモダンなハードバップ曲を、ズート・シムズはテナー・サックスでハードボイルドに解釈しています。
ここでのドラムスはグラディ・テイトなんですが、そのハードドライブな煽りが素晴らしく、全体に力感溢れる仕上がりなだけに、演奏時間が短いのが残念です。
B-1 Do Nothin' Till You Hear From Me (1973年5月30日録音)
デューク・エリントが書いた黒~い名曲を、ズート・シムズはテナーサックスで豪快かつ繊細に吹き綴ってくれます。サブトーンの響きも味の世界ですし、ここでのゆったり感覚はミルト・ヒントンの野太いベースに支えられ、一層、深みをましていくのです。
地味ながらアルバム中でも特に秀逸な演奏だと思います。
B-2 Alabamy Home (1973年8月9日録音)
これもデューク・エリントン作曲の古典ですが、ズート・シムズはソプラソサックスでモダンな解釈に挑戦しています。
まずグラディ・テイトのブラシを多用したドラムスが快感♪ そこにオトボケとツッコミを1人で演じるズート・シムズが絡んでいくのですから、アドリブパートではグラディ・テイトもタイトなステックワークで応戦するという、擬似ハードバップになっています。
B-3 Cocktails For Two (1973年5月30日録音)
ズート・シムズがテナーサックスで素晴らしい快演を聴かせてくれます。曲は1934年に発表された古いスタンダードとあって、ズート節には最高の素材なのでしょう。テナーサックスのふくよかな音色と出来すぎのアドリブを堪能しているうちに、演奏が終わってしまうのでした。
B-4 My Funny Valentine (1973年5月30日録音)
お馴染みの名曲をテナーサックスで演じるズート・シムズは、もはや余裕の世界というか、通常よりは早くて力強いビートに乗り切った快演を聴かせてくれます。
そして繰り返しなりますが、ここでもテナーサックスのふくよかな音色が、もう最高なんですねぇ~♪ これもジャズから抜け出せない魔力です!
という事で、個人的にはズート・シムズの名盤ベスト5に入れているほど、好きなアルバムです。ちなみにそのベスト5は、気分によって違うのですが、これは必ず入るという激愛盤ということを、ご理解願います。
そしてこれもジャズ喫茶の人気盤で、モードとフュージョンに犯されていた1970年代の店内では、これが鳴り始めるとホッと一息という空気に満たされるのでした。特にA面1曲目で完全降伏♪
そしてこの成功で、ズート・シムスは堂々とソプラノサックスも吹くようになり、後にはそれに専念したアルバムをパプロ・レーベルに残すのでした。