昨夜の日本シリーズ、中日・落合監督の采配が賛否両論ですが、勝負師はどっちにしろ、結果論で何か言われる運命でしょう。
自分が落合監督の立場だったら、果たして……。
やっぱり凄い人なんですねぇ、落合監督は! そう思います。
ということで、本日は――
■Royal Flush / Donald Byrd (Blue Note)
1960年代のジャズを引っ張った新進気鋭の若手を称して「新主流派」という中には、ウェイン・ショーター(ts)、フレディ・ハバード(tp)、トニー・ウィリアムス(ds)、チック・コリア(p)、ハービー・ハンコック(p) ……等々が特に注目すべきリーダー盤を作っていました。
その土台はモード手法であり、ルーツはマイルス・デイビスの「カインド・オブ・ブルー(Columbia)」なんでしょうが、それを継いでいたのは前述のような若手ばかりで無いようです。
例えばハードバップの代表的なトランペッターであるドナルド・バード! 1950年代から常に新機軸を求め続けた活動は、もっと高く評価されても良いはずなんですが……。
このアルバムもそうした中の1枚でしょう。録音は1961年9月21日、メンバーはドナルド・バード(tp)、ペッパー・アダムス(bs)、ハービー・ハンコック(p)、ブッチ・ウォーレン(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) となっていますが、このリズム隊がクセモノです。
ちょっと前までドナルド・バードの懐刀だったデューク・ピアソンと別れ、当時の新鋭だったハービー・ハンコックが入り、ドラマーにはオーネット・コールマン(as) の盟友だったビリー・ヒギンズ! さらに独特の生硬なウネリが持ち味のブッチ・ウォーレンが居るのですから、タダでは済みません――
A-1 Hush
ドナルド・バードが書いた死ぬほどカッコ良いファンキー・ハードバップ曲で、実はこのセッションの数ヶ月後にはデューク・ピアソンのバージョンも残されるのですが、それに比べると奥深い表現になっているのが意味深でしょうか。
もちろんゴスペル味もたっぷりなんですが、ドナルド・バードのアドリブにはクールな表現が目立ちます。伴奏するハービー・ハンコックのコードワークも、どこかしら新鮮な響きがっ!
するとペッパー・アダムスのバリトンが豪放に炸裂して、と書きたいところなんですが、実際はじっくり構えて強引なブローは抑えているようです。う~ん、このあたりは、ちょっと物足りない……。
しかしハービー・ハンコックのピアノが実に良いです。もちろんゴリゴリよりは軽妙な味わいすら感じられるノリなんですが、明らかに既成のゴスペルファンキーから脱却した雰囲気が♪ このあたりは前述したデューク・ピアソンのバージョンと比較すると、かなり鮮明かと思います。
A-2 I'm A Fool To Want You
フランク・シナトラで有名な「泣き」の歌物バラードを、なんとドナルド・バードは超スローテンポでジックリと歌いあげます。それはもう、ほとんどテーマメロディしか吹いていないんですねぇ~、それで6分近く、演じるのですから!
そこには伴奏するハービー・ハンコックの多彩なピアノが、しっかりと寄添っています。あぁ、これが秘密の味付けだったのかっ!? それだけ聴いていても素晴らしいです。
余計な手出しをせずに美しい流れを引き立てるベースとドラムスも良い感じ♪
A-3 Jorgie's
ちょっと不穏なムードのリズム隊の動き、そしてイントロが強烈な印象ですが、ドナルド・バードとペッパー・アダムスが吹奏するテーマメロディが出ると、辺りは穏やかな安らぎに包まれます。
あっ、これはっ! 後にハービー・ハンコックが吹き込む「A Tribute To Someone」の原型か!? ちなみにその曲は「マイ・ポイント・オブ・ビュー(Blue Note)」に収録されています。
で、ここでのドナルド・バードは柔らかな好演です。しかし続くペッパー・アダムスが本領発揮のゴリゴリ垂れ流し! 否、これは決して悪いわけではなく、これが出ないとペッパー・アダムスのバリトンサックスとは言えません。
そしてハービー・ハンコックが素晴らしいです♪ リズム隊としての纏まりも最高ですし、ここにマイルス・デイビスが出てきても違和感が無い雰囲気だと思います。
B-1 Shangri-la
ハービー・ハンコックの思わせぶりなイントロから一転、強烈な刺激がたまらないハードバップが始ります。しかし、とは言っても、これはモード手法が大きく入った演奏で、テンションの高いビリー・ヒギンズのドラミングを中心としたリズム隊の高揚感が、確実にドナルド・バードを煽って止みません。
もちろんドナルド・バードもリーダーとしての意地を発揮していますし、ペッパー・アダムスがゴリゴリに押しの強いバリトンでリズム隊を蹴散らしにかかります! あぁ、これがジャズの楽しさでしょうねぇ~~~♪
ハービー・ハンコックは、そんな修羅場を楽しんでいるかのようなムードの急変を試み、やはり思い直したようなファンキー節を弾きまくり♪ ドラムスとベースの柔軟な対応も素晴らしいかぎりですから、グッときます。熱くなりますねぇ~~~♪ ビリー・ヒギンズ万歳です!
B-2 6m's
おぉ、これはマイルス・デイビスの「All Blues」じゃないかっ!? 同じベースのリフとリズムパターンを拝借したモロに盗作≒倒錯した演奏が心地良いです。
ミディアムテンポでクールの構えたドナルド・バードにも開き直った良さがありますし、煮え切らないペッパー・アダムスはリズム隊の煽りを直撃されて迷い道……。しかし、それがまた、美しき流れになっていると感じます。
もちろんハービー・ハンコックは俺に任せろ! けっしてモードに耽溺せずにブルースの本質を追及せんとする姿勢は潔いばかりです。
B-3 Requiem
そのハービー・ハンコックが書いた隠れ名曲♪ かなりゴスペル味も強いのですが、テンションの高いメロディ展開と衝撃的なリフの使い方が秀逸です。
仕掛けが多いリズム隊の動きも素晴らしく、それがアドリブパートでは痛快な4ビートに転じていくところは最高です。
そうした曲想を真摯にとらえたドナルド・バードは流麗なアドリブを展開していますし、ペッパー・アダムスは力むところは思いっきり! という姿勢に好感が持てます。
そしてハービー・ハンコックが、やっぱり良い! もう完全に自分の個性と「節」を完成させていると思います。
ということで、これはブルーノート的元祖「新主流派」というか、ルーツ・オブ・新主流派の1枚かと思います。それはドナルド・バードの意欲的な姿勢もさることながら、ハービー・ハンコックの鮮烈な存在感とビリー・ヒギンズのテンションの高いドラミング!
もう、これさえあれば、後の「ブルーノート」は任せたぞっ!
ちなみに当時のドナルド・バードは新鋭のハービー・ハンコックを発見してバンドに入れたことが嬉しくてたまらず、マイルス・デイビスに自慢していたらしいですが、まさか2年後にハービー・ハンコックを引き抜かれるとは、神様だけが知っている、というよりも、マイルス・デイビスの策謀!?
まあ、それはそれとして、味わい深い傑作アルバムだと思います。もちろん冒頭に記した新主流派の面々が、この作品中の曲を演奏しても、全然OKでしょう。聴いてみたいですねぇ~。