ガソリンが、高いなぁ……。
しかし地方で生活していると車は必需品なので、嘆き節も諦めにしかなりませんね。
ということで、本日は――
■The Tokyo Blues / Horace Silver (Blue Note)
今でこそ日常的な外タレの来日公演も、1970年代までは、ひとつの大イベントでした。特に外貨が自由にならない時期においては、大袈裟ではなく、国を挙げての歓待という趣さえあったと言われています。
ですから、ほとんどの外タレは、一様に大喜びして日本に対するイメージを良くしているようですし、帰国後には日本への感謝の意を込めて行われたレコーディングセッションも、珍しくありません。
本日の1枚は、その代表格でしょうねぇ。ジャケ写は和服姿の日本美人を両手に花という、心底笑顔のホレス・シルバーが印象的です。
録音は1962年7月13~14日、メンバーはホレス・シルバー(p) をバンマスに、ブルー・ミッチェル(tp)、ジュニア・クック(ts)、ジーン・テイラー(b)、そしてジョン・ハリス(ds) という、この年の正月に敢行された来日公演と同じグループによるものです――
A-1 Too Much Sake
ちょっとヘヴィなテーマリフから変形ラテンビートのウネリの中を、ジュニア・クックがハードバップから一歩踏み込んだような、実に味わい深いアドリブを聞かせてくれます。背後で炸裂するホレス・シルバーのコード弾きも熱く、またジョン・ハリスのドラムスもクールに弾けていますから、全く不思議な興奮に包まれます。
それはブルー・ミッチェルとても同じ気分だったのでしょうか、何時もながらの分かり易いフレーズの連発でありながら、リズム隊の恐い絡みがあって、ちょっと異次元に向かっているようです。
そしてホレス・シルバーが、なかなかに粘っこいです! 得意のリズム的な興奮を煽るような展開から、ジョン・ハリスのピキパキ系のドラミングとグルになったようなグルーヴを発散させていくところは、タイトルどおりの酩酊状態!?
A-2 Sayonaro Blues
「節」は何時ものホレス・シルバーなんですが、全体に漂う陰鬱な雰囲気は、流石に東洋的なフィーリングがあるように思います。ただし、ありがちな中華メロディではなくて、あくまでもファンキーなところが、たまりません。
う~ん、こういうネクラにスイングしまくるブルー・ミッチェルも、なかなか良いですねぇ~♪ ジョン・ハリスはスネアとタム、ハイハット主体の珍しいドラミングで「場」を盛り上げます。
そしてジュニア・クックの思わせぶりなフレーズ展開も、これまた珍しいわけですが、この人が独特の黒っぽい音色に途中から妙なエコーが付けられているのは、何故だっ!? しかしジョン・コルトレーンのスタイルになっていないのは、流石です♪
肝心のホレス・シルバーはシンプルな音選びと執拗な左手のコード弾きの対称が面白く、あまりのことに辟易する瞬間もあるほどですが……。
とにかく黒くて脂っこい演奏です。これってハードバップなのか!?
B-1 The Tokyo Blues
これまた変則ラテンビートが弾ける不思議なハードバッブです。重苦しいリフが、一転して開放的になるテーマメロディが??? しかし妙な魅力があるのです。
そしてアドリブパートでは各メンバーが、それぞれに熱演を繰り広げますが、ジョン・ハリスの激したドラミングが最高! 細かいリズムのリムショットにキメのシンバル! あぁ、こんなに煽られては……。
ちなみにこれは我国の歌謡曲とは同名異曲ですが、クライマックスの神秘的な響きが、けっこう気に入っているのでした。
B-2 Cherry Blossom
この曲だけがホレス・シルバーのオリジナルではなく、知る人ぞしるピアニストのロンネル・ブライトが書下ろし♪ ホーンの2人が抜けたトリオでの演奏で、温か味のあるメロディがジンワリと変奏されていきます。
もちろん中盤では強いビートの「シルバー節」も出ますから、眠くなりません。隠れ名演じゃないでしょうか。
B-3 Ah ! So
これまた妙な追跡調のテーマなんですが、実はこのアルバムで唯一の正統派4ビートの快演! 豪快なリズム隊の魅力も堪能出来ますし、なによりもジュニア・クックとブルー・ミッチェルがバカノリです♪ 密かに使われているモード手法も、良い感じ♪
しかしホレス・シルバーは、そんな思惑は一切、おかまいなし! ゴンゴンと熱く迫るピアノの響きは唯一無二の豪胆さだと思います。
ラストテーマのカッコ良さは、もはや伝説かもしれません。
ということで、変なところで重苦しい演奏ばっかりなんですが、ジョン・ハリスの細かいビートを使ったドラミングが物凄く刺激的です。バンド全体が、このドラマーに支えられ、引っ張られている感じなんですねぇ~~。
今日ではそれほど注目されていない作品かもしれませんが、時代的にもハードバップとモードのゴッタ煮のような、凄い密度の演奏が見事だと思います。
ただし、こういうフォーマットの中では、ブルー・ミッチェルもジュニア・クックも持ち前の歌心を存分に発揮出来ないのが、隠せない事実です。そして2人は、ほどなくバンドを辞めていくのですが……。