■ルロイ・ブラウンは悪い奴 / Jim Croce (ABC / 日本フォノグラム)
願いが叶った時、もう、これで死んでも……!
等々と言ってしまう人は、かなり大勢いらっしゃると思いますが、その気持は確かに分かります。
しかし、それが現実となってしまえば、決して本望じゃない!?
常に煩悩と未練に苛まれているサイケおやじは、そんな感じではありますが、本日の主役たるジム・クロウチこそ、まさに人生の絶頂が瞬間的に終りへと結びついてしまったような運命の悲喜こもごもが、例え神様の思し召しであるにせよ……。
ご存じのとおり、掲載したシングル曲「ルロイ・ブラウンは悪い奴 / Bad, Bad, Leroy Brown」が1973年夏の全米チャートでトップに輝いた直後、ジム・クロウチはバンドメンバーやスタッフと共に巡業中の飛行機事故で他界という、あまりにも突然の悲報が歴史になっているからです。
それも件のヒットが矢鱈に調子の良い曲展開であり、フックの効いたメロディや覚え易いキメのリフ、ハートウォームなアコースティックギターのリズム&りードの兼ね合い、さらにジャケ写でご覧のとおりの飄々としていながら妙に芯の強そうな風貌等々、何をやっても憎めないような存在感があるだけに、そのぷっつり途切れてしまった人生には、潔さと不条理がゴッタ煮と思います。
また我国では、この「ルロイ・ブラウンは悪い奴 / Bad, Bad, Leroy Brown」の紹介と忽ちのヒットの最中、一緒に前述の訃報も知らされたのですから、なにやらリアルタイムの洋楽ファンにとっては絶対に忘れられないひとりでしょう。
ちなみにジム・クロウチの履歴には十代の頃からの世界放浪とか、曲作りとフォークソング風の弾き語りをメインとするミュージシャン活動、しかし経済的な事情から肉体労働を生業にしていた云々という、まあ、その道には珍しくも無い苦労話が必ずあるものの、1972年にようやくチャンスを掴み、翌年9月に亡くなるまでの実質的なシンガーソングライター活動期に制作された楽曲には、イジケたり、ネクラの部分が感じられません。
むしろ、他人から見れば苦労だったかもしれないそれまでの生き様が、ジム・クロウチ本人にとっては、なんでもない日常の積み重ねとして現在の歌に活かされているのか?
と、サイケおやじは素直に納得させられてしまう「何か」があるように思います。
それはジム・クロウチの持って生まれた資質かもしれませんし、音楽的には名コンビを形成していたギタリストのモーリー・ミューライゼンとの相性の良さも侮れず、そのコンビネーションを前提とした曲作りが素晴らしさの秘密かもしれません。
とにかく「ルロイ・ブラウンは悪い奴 / Bad, Bad, Leroy Brown」をきっかけに、ジム・クロウチは没後にますますの人気を得たのは確かであり、当然ながら生前の巡業ライプからブートまがいのレコードまで流通していた現実は、それだけ多くの希求があった証です。
ということで、現在でも根強いファン、あるいは新発見的に増殖していくファンの多さという点においても、ジム・クロウチは幸せなミュージシャンだったと思うばかりで、なにも前述した突然の云々は必要ではないでしょう。
何故ならば残された歌には、その全てに本人の魂が宿っているはずですから!
もちろん、それは殊更ジム・クロウチばかりではないんですが、なにか一期一会の真実は、この人の場合、特に強く感じてしまうのでした。