■Respect / Jimmy Smith (Verve)
このジャケットデザインだけで、我国の全盛期ジャズ喫茶からは敬遠される事必至であったLPなんですが、現在ではソウルジャズの人気盤という位置付けも不思議ではないのですから、時の流れは偉大です。
まあ、そのあたりの経緯云々は長くなりますので、今回はご容赦願いたいわけですが、実際問題として昭和40年代後半から昭和50年代の中古屋にはカット盤も含めて、かなりの捨値で売れ残っていましたし、サイケおやじにしても、何かバーゲンの三枚千円みたいな員数合わせでゲットしたのが本当のところです。
しかし収録演目は基本的に気になる曲ばっかりですし、その輸入盤だった裏ジャケ解説に演奏参加ミュージシャンのクレジットがきっちり記載されていないところが、もしかしたらのスケベ心を刺激してくれたんですねぇ。
というのも、これが世に出たであろう1967年頃のソウルジャズセッションには、必ずしもモダンジャズを専門職にしていない、R&B系のスタジオミュージシャンや助っ人がノンクレジットで参加している事例が夥しく、特にニューヨークやハリウッドでの仕事がメインの連中には、それが日常でありました。
そして案の定、後に知ったところによれば、ここでのメンバーはジミー・スミス(org) 以下、ソーネル・シュワルツ(g)、エリック・ゲイル(g)、ロン・カーター(b)、ボブ・ブッシュネル(b)、グラディ・テイト(ds)、バーナード・パーディ(ds) の参加が判明!
ただし、どのトラックに誰が参加しているかは、どうにもはっきりせず、とりあえずサイケおやじの独断と偏見の耳によって判断した推察は各々述べさせていただきますが、録音セッションが1967年6月2&14日と2回に分かれているところからして、特定の組み合わせがあったのかもしれません。
A-1 Mercy, Mercy, Mercy
説明不要、ジョー・ザビヌルが書いたファンキーソウルジャズの聖典として、1967年初頭に出たオリジナルは作者も在団していたキャノンポール・アダレイ・グループの人気インスト曲であり、歌詞付きのバージョンとしてはバッキンガムズが同年夏に大ヒットさせていますが、このジミー・スミスのセッションはその直前の6月ですから、まさにリアルタイムの衝動がそのまんま演奏に表れている感じです。
それは冒頭からミディアムテンポで重心の低いグルーヴがじっくりと醸造されていく過程において、もう……、本当に最高♪♪~♪
ジワジワと効いてくるファンキーゴスペルなテーマリフはもちろんのこと、ブレイクやアドリブに入って行く瞬間のゾクゾク感、さらにグリグリにエグイ味わいのフレーズを切れ味鋭く積み重ねていく連続技には、思わず冷静さを失ってしまいますねぇ~♪
また主役と一体になって演奏を盛り上げていくバックの面々なんですが、おそらくはロン・カーター(b) にグラディ・テイト(ds)、そしてソーネル・シュワルツ(g) というセットではないでしょうか。
あぁ、このグルーヴの本気度の高さは、何度聴いても、たまりませんっ!
A-2 Respect
これまたリアルタイムのR&Bヒットのカバーで、オーティス・レディングの作者バージョン、あるいはアレサ・フランクリンの教会グルーヴ系熱唱が超有名とあって、ジミー・スミスも油断がならないという感じでしょうか。
ですからイントロからテンションの高いソウル&ファンク風味が全開のリズム隊に導かれ、真っ向勝負でテーマからアドリブに突進していくストレートな感性には素直にシビれて正解だと思います。
ちなみにそのリズム隊なんですが、エリック・ゲイル(g)、ボブ・ブッシュネル(b)、バーナード・パーディ(ds) の参加が濃厚に感じられるものの、実際にはギターが2本聞こえるところは、エリック・ゲイルの多重録音なんでしょうか? またベースは完全にエレクトリックな音色とノリが明確ですよ。
う~ん、しかし、それゆえに演奏が良いところでフェードアウトしてしまう短さが残念無念……。
A-3 Funky Broadway
おぉ、実はこれがサイケおやじの一番期待していた演目で、ご存じ! ウィルソン・ピケットの十八番というファンキーダンサーですから、中途半端なソウルは許されません!
そこでやはり特筆されるのがギターのサイドプレイで、執拗な定型リフ攻撃や合の手リズムカッティングは必須というところでしょうか。また意外に小技が大切なソウルドラミングのお手本と言うべきスタイルは、おそらくバーナード・パーディだと思われます。
またギターが絶妙にスタッフしているところからして、これはエリック・ゲイルなんでしょうねぇ。
肝心のジミー・スミスはサイドではボトム重視のリフを演じ、アドリブソロでは凝ったフレーズを排除するという方針を貫いているだけに、これもフェードアウトが勿体無いとしか……。
B-1 T-Bone Steak
ジミー・スミスのオリジナルブルースで、4ビートの正統的ハードバップの香りも憎めない展開は、しかし同時にナチュラルなソウルグルーヴの噴出も極まっていますよ。
なによりもジミー・スミスのアドリブラインがアグレッシヴとしか言いようがないほど、時には破天荒なフレーズとリズムアプローチが本当に強烈で、しかし次の瞬間、慣れ親しんだ「お約束」に戻ってみせる手練手管は流石のカタルシス! それをアップテンポでやってしまうジミー・スミスの天才性が楽しめると思います。
そして気になるリズム隊はソーネル・シュワルツ(g)、ロン・カーター(b)、グラディ・テイト(ds) と推察出来ますが、もしかしたらベースは参加していないかもしれず、それが高い自由度のキメ手かもしれません。
あぁ、このドライヴ感、最高~~~~♪
B-2 Get Out Of My Life
これまたブルースなんですが、やはり作者がニューオリンズR&Bの立役者というアラン・トゥーサンだけあって、演奏の流れに刺激的なシンコペイションを導入するリズム隊の活躍に耳を奪われてしまいます。
う~ん、このシャープに横揺れするドラミングは絶品ですねぇ~♪ グラディ・テイトなんでしょうか? またギターも素敵なアドリブを演じてくれますが、エリック・ゲイルのようでもあり、またソーネル・シュワルツと言われれば、それで納得する他はない雰囲気……。と、すれば、ドラムスがバーナード・パーディと思えないこともありません。
ただ、何れの参加メンバーであったとしても、ジミー・スミスの確固たる主演スタアとしての貫録と実力は圧倒的な存在感で、オルガンプレイと呼応する掛け声がソウルフィーリングを尚更に高めているんですから、実に楽しい演奏というわけです。
ということで、ジャケ写には道着姿で空手の型を披露するジミー・スミスが登場しているとおり、当時はこのような趣味に浸っていたのでしょうか? サイケおやじとしては、収録演奏の潔さに一脈通ずるものをなんとなく感じるんですが、逆に言えば分かりが良すぎて、名盤と認定されない要因という気もしています。
しかし実際に聴いていただければ、ジミー・スミスのファンならずとも、グッと惹きつけられる瞬間はテンコ盛り♪♪~♪ もうジャズとか、ソウルだとかに拘るのがバカらしく思えるほど痛快ですよっ!
それもジミー・スミスの魅力のひとつだと思います。