OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

マリガンとファーマーのローマ1959

2008-10-21 11:56:44 | Jazz

Gerry Mulligan & Art Farmaer Quartet Live In Rome 1959 (Impro-Jazz = DVD)

これまた先日ゲットしてきた発掘映像DVDのご紹介です。

主役はジェリー・マリガンがアート・ファーマーを相手役にしていた時期に敢行された欧州巡業から、ローマでのライブ映像をモノクロで約70分、じっくりと堪能出来ます。結論から言うと、カメラワークや照明が単調です。それでもステージのホリゾントに伸びたメンバーの影を撮ったり、いろいろと工夫は凝らされているのですが……。

しかし演奏は、なかなか充実しています。つまり画面を観ていると飽きるのが正直な気持ちなんですが、音だけ聞いている分には素晴らしい♪

収録されたのは1959年6月19日のローマ、メンバーはアート・ファーマー(tp)、ジェリー・マリガン(bs,p)、ビル・クロウ(b)、デイヴ・ベイリー(ds) という白黒混成のカルテットです――

 01 Announcement By Gerry Mulligan
 02 As Catch Can
 03 Walking Shoes
 04 Baubles, Bangles And Beads
 05 Just In Time
 06 I Can't Get Started
 07 News From Blueport
 08 Moonlight In Vermont
 09 Spring Is Sprung

――上記の演目は淡々と進行していきますが、まずアート・ファーマーが右に首を傾げながらトランペットを吹く姿が、実になんともいえません。もちろん流麗なフレーズからは独自の歌心が溢れ出て止まらない感じですし、スーツの着こなしも正統派のジェントルな雰囲気が好ましいですね。

で、実際のライブは、ジェリー・マリガンの如何にも白人らしい落ち着いたユーモアもニクイほどのMC、スタート前のチューニングタイムも面白いと思います。

そしてアップテンポの「As Catch Can」、アート・ファーマーがチェット・ベイカーの代役を見事に務める「Walking Shoes」の2連発で、その場は完全にカルテットの支配下に置かれるムードですから、続く「Baubles, Bangles And Beads」のシンミリとして味わい深い世界が、尚更に心に染み入る展開が実に秋の夜長にジャストミート♪

あぁ、ジェリー・マリガンの歌心は本当に素敵ですねぇ~♪

ただし既に述べたように映像的な面白さに欠けるところは残念……。というか、このメンバーの地味な佇まいでは、そうなってあたりまえかもしれませんね。もちろんそれがシブイ、本当のカッコ良さという見方も出来ますが、個人的にはデイヴ・ベイリーの左後頭部にある五百円玉ほどのハゲが気になったりします。

肝心の演奏はジンワリとスタートしてグイノリに変化していく「Just In Time」がモダンジャズ王道の楽しさで、アート・ファーマーが歌心の塊のようなアドリブを披露すれば、ジェリー・マリガンはリズミックな絡みから豪放にして洒脱なフレーズの連なり、そしてオーバー気味のアクションで対抗します。ここはデイヴ・ベイリーのブラシもイブシ銀ですよっ♪

それとジェリー・マリガンは「I Can't Get Started」と「Spring Is Sprung」でピアノを弾きますが、その姿が実にカッコイイ! そのピアノスタイルも流麗ではありませんが、妙に個性的な響きが印象的です。まさに「味」の世界とでも申しましょうか♪

ですから「I Can't Get Started」ではアート・ファーマーのトランペットも柔らかな歌心が全開した名演だと思います。また不思議な和みが醸し出される「Spring Is Sprung」も4ビートの良さが満喫出来る演奏ですねぇ~♪ このあたりは映像を観て、はじめて納得出来るところでしょうから、このDVDのハイライトではないでしょうか。

収録の演奏では他にも彼等流儀のハードバップという「News From Blueport」やシンプルにメロディを追求してアドリブを極めんとする「Moonlight In Vermont」の完成度も高く、通して楽しめば決して派手さは無いものの、やはりモダンジャズの黄金期が楽しめると思います。

気になる画質は「B+」程度で、些かコントラストが強すぎる白黒フィルムの傷みも残念ですが、音質はバランスの良いモノラルミックスですから、繰り返しますが聴いているだけで満足されるでしょう。

その意味からでしょうか、ボーナストラックには音源だけで以下の2曲が入っています――

 10 Blueport (imcomplete)
 11 Utter Chaos

――いずれも同日の録音かと思われますが、「Blueport」は相当に熱いハードバップで、リズム隊のビシッとしたグループが気持ち良く、フロントの2人もノリまくっています。また「Utter Chaos」はバンドテーマの短い演奏ですが、メンバー紹介も兼ねているのでした。

ということで、これもマニア向けのブツでしょうね。しかし見つけたら最後、ゲットせずにはいられない「何か」を秘めています。個人的にそれは、あの1958年のニューポートジャズ祭のドキュメント映画「真夏の夜のジャズ」の夢よもう一度であり、その後に作られる永遠の超名盤「Night Lights (Mercury)」と同じ味わいを求めてしまうからなのですが……。

まあ、それはそれとして、やはりジャズメンはカッコイイ!

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スタン・ゲッツとイケイケリズム隊ライブ!

2008-10-20 11:52:37 | Jazz

Stan Getz Quartet Complete Live at Montreux 1972 (GARBIT = CD)

1960年代前半にボサノバで大当たりをとったスタン・ゲッツは、それゆえ以降の活動に制約がついたのは致し方ないところでしょう。けっこう意欲的なレコーティングセッションがオクラ入りしたり、またステージでは必ずボサノバを演じなければならない宿命が……。

しかしスタン・ゲッツ本人が白人テナーサックス奏者の頂点を極めていたことに間違いは無く、シャリコマな企画ものからオールスタアによる一発セッションが玉石混合のアルバムとして発売され続けた歴史があったとしても、やはりジャズ者の気持ちは、例えば名盤「Sweet Rain (Verve)」の如き新主流派の響きと耽美華麗なアドリブの桃源郷を求めて止まないのです。

それが1970年代に入って最初に結実したのは、今もって人気のアルバム「Captain Marvel (Verve / Columbia)」でした。なにしろ共演メンバーが当時バリバリの上昇期にあったチック・コリア、スタンリー・クラーク、アイアート・モレイラというリターン・トウ・フォーエバーの面々に加えて、ライフタイムからジャズに戻りつつあったトニー・ウィリアムスなんですから、ヒットしないのが不思議です。

そして彼等は実際のライブステージにも登場し、その音源は今日まで数枚のアルバムに分散されていましたが、本日ご紹介のCDはその中から1972年のモントルージャズ祭に出演した時の音源を纏めた嬉しいブツです。しかもボーナストラックとして、1974年のワルシャワ音楽祭の音源まで入っています――

☆1972年7月23日のモントルージャズ祭
 01 Captain Marvel
 02 Day Wave
 03 Windows
 04 Times Lie
 05 I Remember Clifford
 06 Lush Life
 07 La Fiesta
 メンバーはスタン・ゲッツ(ts) 以下、既に述べたとおりチック・コリア(el-p,p,key)、スタンリー・クラーク(b)、トニー・ウィリアムス(ds) という強力なオールスタアズ♪ 演目も前述したアルバム「Captain Marvel」からの曲が中心で、なんとその録音から約4ヵ月後のライブなんですねぇ。つまりこの時点では件のアルバムが発売されたか、あるいはその直前という時期ですから、プロモーションの意味合いも強かったと思われます。
 ここでは「Captain Marvel」「Day Wave」「Times Lie」「Lush Life」「La Fiesta」がそれに該当するのですが、まず初っ端の「Captain Marvel」が完全に煮え切らず、演奏も音のバランスもバラバラでチグハグという??? スタジオバージョンに比べて、もっさりとしたノリも先が思いやられる感じですが……。
 結論から言うと次曲「Day Wave」からはバンド全体が別人のように溌剌としていきますので、ご安心下さい。これは全くの個人的推察ですが、おそらくこの場面ではステージのPAやモニターそのものが不調で、流石に凄腕揃いのバンドメンバーにしても戸惑いがあったのかもしれません。ただし、それゆえに暴走気味のスタンリー・クラークのペースが物凄かったりしますが♪
 そんなこんなでバンドが持ち直した「Day Wave」からはスタン・ゲッツを盛り立てるリズム隊の強靭なグルーヴと瞬発力が素晴らしく、もちろんリーダーのテナーサックスからは激しくも耽美華麗なフレーズが尽きること無く放出されていきます。
 ただし個人的には、どうしてもリズム隊に耳がいってしまうのは否定出来ません。「Day Wave」でトキメキのエレピを聞かせてくれるチック・コリアの背後では、意外にロックっぽいベースを響かせるスタンリー・クラーク! もちろんアドリブソロは破天荒な早弾きですし、トニー・ウィリアムスのパワフルなボサロックも快適です♪
 続く「Windows」は同じく前述した名盤「Sweet Rain」に入っていたチック・コリアのオリジナル曲ですから、久々の共演となるスタン・ゲッツにしても相当に入れ込んだ感じです。強靭な4ビートで煽るリズム隊も凄いですねぇ~。特にトニー・ウィリアムスは、やっぱりこの世界の人だと思いますし、実に楽しそうなチック・コリア! そんなの関係ねぇ~、とばかりにグイノリのウォーキングを聞かせるスタンリー・クラーク! あぁ、これが当時最先端の4ビートでした。ベースソロのバックでビートをキープするトニー・ウィリアムスのブラシもシブイです。
 そして柔らかなテーマメロディを独特の浮遊感でフェイクしていくスタン・ゲッツの真髄が楽しめるのが「Times Lie」です。しかし幻想的なスタートから爆発的なビートの嵐となるアドリブパートに至るとリズム隊が大暴れ! 十八番のスパニッシュモードを使いまくるチック・コリアに大車輪ドラミングで対抗するトニー・ウィリアムスという構図には心底、ゾクゾクさせられます。しかも演奏は途中から、ウェザー・リポートの某曲にクリソツな展開までっ! う~ん、ザビヌル&ショーターは、これを聞いていたのか!?
 こうして盛り上がりきった会場の雰囲気をモダンジャズ本流の深みにクールダウンさせていくのが、名曲「I Remember Clifford」なんですから、たまりません。スタン・ゲッツのサブトーンが魅力の情感溢れるテナーサックスがメロディフェイクの真髄を聞かせれば、力強くて柔軟なリズム隊が素晴らしいバックをつけるという桃源郷の5分間♪
 さらに続くのが、これまた有名スタンダードの「Lush Life」で、ここはようやく普通の音色になったチック・コリアのピアノが潔く、またスタンリー・クラークのアルコ弾きが正統派モダンジャズの響きを強くしています。もちろんスタン・ゲッツも往年のスタイルに近い吹奏ですから、こういう安心感は嬉しいですね。トニー・ウィリアムスのブラシも粘っこくてパワフルですから、好感が持てます。
 そしてよいよいクライマックスとなるのが、チック・コリアの代表曲にしてスパニッシュフュージョンを超えて永遠の定番となった「La Fiesta」です。もちろん導入部は、あの思わせぶりな哀愁が漂うチック・コリアのエレピからワクワクしてくるリフが始まり、躍動的なテーマメロディが情熱的に演じられるという、完全にリターン・トゥ・フォーエバーでの展開を継承していますが、ここでのバンドのノリは幾分ロック色も強い感じがするのは、私だけでしょうか。
 肝心のスタン・ゲッツは豪快な音出しと重厚なフレーズに特有の浮遊感が上手く融合した、まさに唯一無二のアドリブが絶好調! これには流石のリズム隊も押され気味です。しかしそこから4ビートに移行して逆襲していくのが、まさにこのメンツの真骨頂!! あぁ、最高ですっ♪ さらに終盤では、きちんとラテンリズムに戻してスタン・ゲッツに受け渡す律儀さも、実に憎めませんねっ♪
 というここまではモノラルミックスで、リマスターも過去最高だと思いますが、基本となる録音そのものが、今日のレベルからすれば良好とは言えません。特に最初の方は???でしょう。それでも耳が慣れる所為でしょうか、中盤からは問題無く聴けると思います。
 と言うよりも、このバンドの勢いに圧倒されて聞かされてしまうというべきでしょうか……。とにかく興奮させられますよ。

☆1974年10月27日のワルシャワ音楽祭
 08 Desafinado
 09 La Fiesta
 こちらは約2年3ヵ月後のポーランドでのライブ音源で、メンバーはスタン・ゲッツ(ts)、アルバート・デイリー(p)、ジョージ・ムラーツ(b)、ビリー・ハート(ds) という実力派の面々が揃っています。
 まず音質は良好なステレオライン録音なんですが、残念ながらバランスが悪く、右チャンネルからスタン・ゲッツのテナーサックス、真ん中からピアノとベース、ドラムスも右寄りというのが悔しいところ……。
 しかし演奏そのものは好調で、まずはボサノバ定番曲の「Desafinado」が気持ち良く、4分弱の時間ですが、スタン・ゲッツのソフトな歌心が存分に楽しめます。
 また「La Fiesta」はモントルーのバージョンよりも長い15分を超える大熱演で、まずはいきなりアルバート・デイリーのピアノが独り舞台! まあインスピレーションという点では、明らかにチック・コリアの二番煎じですが、それを言っちゃお終いだよ、という雰囲気でしょうか。
 しかしスタン・ゲッツは豪放にしてリラックスしたブロー大会で、このあたりはイケイケでロックっぽいノリもあったモントルーでのリズム隊に比べて、やはりモダンジャズど真ん中のトリオがバックという安心感の表れかもしれません。
 ただしバンド全員に甘えは感じられず、スタン・ゲッツはどこまでも「スタン・ゲッツ」らしく、またリズム隊も自分達だけのパートになると、ますます水を得た魚のような活きの良さを聞かせてくれますから、熱いです!

ということで、あくまでもマニア向けのCDかもしれません。しかし1970年代ジャズの最良の部分を記録していることには違いなく、それが現代では実に楽しいものだと思います。

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キースが暴れたマイルスバンド1971&モア

2008-10-19 12:46:35 | Miles Davis

Miles Davis & Keith Jarrett The 1971 Berlin Concert (Jazz Vip = DVD)

マイルス・デイビス関連の発掘物は近年、ますます奥の細道状態に入ってきましたが、これまた強烈なブツが出ていたので、速攻でゲットしてきました。

内容は1971年のマイルス・デイビス、所謂「電化マイルス」のライブ映像で、タイトルどおりにキース・ジャレットが大活躍! しかもオマケとしてキース・ジャレットがソロピアノを演じた1974年のライブ映像までもが入っています――

マイルス・デイビス・グループ:1971年11月6日、ベルリンでのライブ映像
 01 Berlin Medley
    a) Honky Tonk
    b) What I Say
    c) Sanctuary
    d) It's About That Time
    e) Funky Tonk
 メンバーはマイルス・デイビス(tp)、ゲイリー・バーツ(ss,as)、キース・ジャレット(el-p,key)、マイケル・ヘンダーソン(el-b)、レオン・チャンクラー(ds)、ドン・アライアス(per)、ムトーゥメ(per) という、時期的には例のワイト島音楽祭の直後に再編されたバンドによる欧州巡業から、音源だけは数種のブートが出回っていました。しかし今、あたらためて映像を観るとやっぱり強烈ですねぇ~。ちなみに音はモノラルミックスのカラー版です。
 マイルス・デイビスはトンボメガネのサングラスで下を向きながら、電気アタッチメントがつけられたトランペットでワウワウ、キュウキュウ、ビリビリと意味不明のラップ系フレーズしか吹きません。
 演目は一応、上記の曲名がジャケットに記載されていますが、例えば「It's About That Time」なんかは、あのサンタナみたいな嬉しい後半のリフは出てこない断片であり、他にも様々に知っているメロディやキメのリフがゴッタ煮となっています。
 そのスタイルはマイルス・デイビスのアルバムで言えば「Live=Evil」~「In Concert」のアフロファンキー、そしてサイケロックとニューソウルの混濁期ですから、このあたりが好きな皆様ならば、その怒涛のファンクピートとポリリズムの嵐に翻弄されるでしょう。実はこの時期のマイルス・デイビスのやっていたことは、好き嫌いがはっきりしているはずなのに、一度虜になるとクセになるアブナイ魅力に満ちているのです。呪術的とでも申しましょうか。
 まず冒頭からドンスコトドスコというアフロビートでマイルス・デイビスが俯いてワウワウなペットを吹くというより、独善的な独り言……。その隙間にキース・ジャレットのエレピや電子オルガン、打楽器&ドラムスがオカズを入れまくり、根底はマイケル・ヘンダーソンのペースがしっかり支えるという展開の「Honky Tonk」が激ヤバです。マイルス・デイビスも演奏が進むにつれてキュルキュルキュルキュル~、と一応はフレーズらしい熱い音も出していきますが……。
 ここはキース・ジャケットのエレピソロがモードとファンクのゴッタ煮アドリブで意味不明の凄さを聞かせてくれます。もちろん、あのオーバーアクションとニューソウルな普段着姿、自己陶酔の独り芝居みたいなところは好き嫌いもあるでしょうが、これはこれで私は許します。
 そして次のパート「What I Say」では、ようやくゲイリー・バーツが登場し、激しくテンションの上がったリズム隊をバックに熱血のソプラノサックスを垂れ流し! その直前にマイルス・デイビスと一緒にテーマらしきリフを合奏するところもカッコイイです。
 ちなみにドラムスのレオン・チャンクラーはサンタナからスライ、さらにはウェザーリポート等々でも敲きまくった人気ドラマーですが、個人的にはここでの些か小賢しいドラミングは、前任者のジャック・ディジョネットの野太いビート感に比べてイマイチと感じます。しかしドン・アライアスとムトゥーメという2人の強烈な打楽器組がいますから、結果オーライでしょうねぇ。実際、ここで発散される混濁のファンクピートと土人のリズムは唯一無二の凄さです。
 またここでもキース・ジャレットが大暴れ! それが一転して静謐な「Sanctuary」が始まると、今度は幻想的な伴奏が冴えまくりです♪ もちろんテンションの高さも素晴らしく、マイルス・デイビスも煽られ気味に緊張感溢れるところを聞かせてくれます。さらにゲイリー・バーツのアルトサックスソロの背後を彩る電子オルガンの響きも最高なんですねぇ~~~♪
 ドロドロしたリズム隊のグルーヴの中では、単調なマイケル・ヘンダーソンのペースもハッとするほど良い感じで、演奏はますますディープな展開となっていきますが、キース・ジャレットのエレピがアドリブを始めると、その場は完全にメロウファンクの世界に染まって行きます。それを許すまじと奮闘するドラムス&打楽器組の我儘な攻撃も凄すぎますから、ここは映像で観るとキース・ジャレットの自己陶酔がイヤミなほどですが、私はここも許します。
 演奏はこの後、マイルス・デイビスがスパニッシュ調のフレーズを入れたりして場面転換、これが「It's About That Time」ということになるんでしょうが、ちょいと意味不明……、。しかしバックの面々の遠慮しない自己主張には好感が持てますし、ロック色が強まっていくバンド全体のグルーヴも熱いです。う~ん、ジョン・マクラフリンのギターが出て欲しい!
 という贅沢な夢想を一気に吹き飛ばすのが、続く「Funky Tonk」です。それはキース・ジャレットの思わせぶりな独り芝居に打楽器組が執拗に絡みつく場面転換のパートから、あの快楽的なファンキーフレーズに移行するという最高の展開! オーバーアクションのキース・ジャレットと打楽器のアップという場面を細切れに見せるカメラワーク&画像編集も秀逸ですし、もちろんバンドのアンサンブルもキマッています。
 マイルス・デイビスもいよいよクライマックスとあって、ワウワウトランペットも全開の必死さには鬼気迫るものが漂います。黒と赤を基調としたファッションも、如何にも当時というムードですねっ♪
 ただしここはゲイリー・バーツが些かテンションの低い雰囲気……。まあ、逆に言えば周囲が凄すぎる結果なんでしょうが、それに煽られて後半に持ち直していくフリーキーなアルトサックスの響きが、やっぱりこれはジャズなんだなぁ~、と実感させられたりします。
 そしてついに電化アタッチメントを外したマイルス・デイビスが、あの哀切のミュートプレイを聞かせてくれるのが、本当のクライマックスかもしれません。絶妙の伴奏をつけるキース・ジャレットのエレピの響きも澄んだ世界を醸し出し、じっくりとしたファンクピートと「マイルス・デイビスの世界」が混然一体となったこの瞬間こそが、最高! やるだけやって勝手に去っていく姿にもスーパースタアの輝きがあります。
 演奏は通して、ここまで約1時間ですから、ちょいと疲れるかもしれませんが、この大団円を堪能する通過儀礼として、素敵な時間は保証付きだと思います。ちなみに映像は既に述べたようにカラーで、音質は問題ありませんが、画質は若干の滲みもある「A-」程度です。

キース・ジャレットのソロコンサート:1974年7月26日、イタリアのジャズ祭
 02 Improvisation No.1
 03 Improvisation No.2
 これは白黒映像ですが、イタリアのウンブリア・ジャズ祭でのライブ演奏で、もちろんこの時期のキース・ジャレットが一番のウリにしていたソロピアノ♪ 当然ながら、あの美メロが出まくったゴスペルファンキーな世界が楽しめます。
 しかし残念ながら、前半は約9分弱、後半は5分ほどの短いもの……。
 それでも楽器搬入のドキュメントがあったり、キース・ジャレット十八番の自己陶酔ケツ振りアクションがご覧になれますよ。
 もちろん演奏はファンならば納得して感涙のソロピアノが素敵です。大ヒット盤「Kolm (ECM)」あたりが好きな皆様ならば必見でしょう。ちなみに画質は一応「A」ですが、音質は問題無いモノラルミックスです。
 あぁ、これの完全版が出たらなぁ~。

ということで、タイトルに偽り無し!

つまりキース・ジャレットが主役の映像作品です。それはオマケのソロコンサートはもちろんの事、マイルス・デイビスのライブシーンにおいても、キース・ジャレットの大活躍が本当に顕著なんですねぇ~。

大方のジャズファンは、この時期の電化マイルスに得体の知れないものを感じて、その評価は二極分化されていると思いますが、この映像ライブのようにキース・ジャレット中心に鑑賞すれば、それも「また良し」じゃないでしょうか?

ここはひとつ、キース・ジャレットに免じて楽しむのも結果オーライかもしれません。私は、繰り返しますが、これが好きです。

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トーマとジャスパーの秋のグルーヴ

2008-10-18 11:30:10 | Jazz

Thomas Jaspar Ouintet / Rene Thomas & Bobby Jaspar (RCA Itliana)

最近のオリジナルアナログ盤の価格高騰は、もはや狂乱と思えるほどですが、似たような現象が我が国のバブル期にもありました。そして商うブツに窮したレコード店の陰謀か、どうかは知りませんが、同時期には欧州ジャズの様々なアルバムが市場に流れ込み、真っ当な評価と法外な値段がつけられたのです。

本日ご紹介のアルバムも、そうした中のひとつではありますが、主役のネル・トーマとポビー・ジャスパーは共にベルギー人ながら、本場アメリカでも活躍した名手ですから、それなりの値段があって当たり前の作品かもしれません。

ちなみに私はブームも一段落した頃に入手したのですが、直後に日本盤が出たのには愕然とさせられました……。

メンバーはネル・トーマ(g)、Amedeo Tommasi(p)、Maurizio Majorana(b)、Franco Mondini(ds)、そしてポビー・ジャスパー(ts,fl) となっていますが、リズム隊の3人はイタリアでの録音という事と名前の表記からして、おそらくイタリア人だと思われます。また録音は1962年頃とされています――

A-1 Oleo
 ソニー・ロリンズが書いたモダンジャズの定番曲ですが、その紆余曲折的なテーマメロディを余裕のアップテンポで演じるネル・トーマ以下バンドの面々の実力は、その部分だけで充分に納得出来ます。
 もちろんアドリブパートでのネル・トーマはジミー・レイニー直系ともいうべき流麗な単音弾きで、現代の聞き方では、ジョン・アバークロンビーやジョン・スコフィールドのようなツッコミ鋭いノリも披露! そういうルーツ的な楽しみも結果オーライです。
 また Amedeo Tommasi のピアノが大ハッスルのハードスイング! その硬質のジャズ魂はイタリアのジャズ界が当時、如何にハイレベルであったかの証明だと思います。

A-2 Theme For Freddie
 静かにハードボイルドなテーマを吹奏するポビー・ジャスパーのフルート、アルペジオで上手い伴奏をつけるネル・トーマ♪ もう、このテーマ部分は日活か東宝のアクション映画サントラの世界ですよっ♪ 美女と2人っきりの無言のシーンというか♪
 そして途中から入ってくるリズム隊では、Amedeo Tommasi がビル・エバンスを演じてくれるんですから、侮れません。
 う~ん、まさに澄む秋を彩るような素敵な演奏です。ちなみに作曲はルネ・トーマでした。

A-3 Half Nelson
 一転して、これは典型的なハードバップのグルーヴが横溢した快演ですが、ポビー・ジャスパーはズート・シムズがジョン・コルトレーンしたようなミョウチキリンなスタイルで??? しかし Maurizio Majorana のペースを要としたリズム隊のノリがヘヴィなので結果オーライでしょうか。
 続くネル・トーマのギターも流麗でクールなスタイルの中に黒っぽさが滲み出ていますし、思えばこのセッションより以前、1960年にアメリカで J.R.Monterose のテナーサックスを相手役に吹き込んだ超幻の名盤「Guitar Groove (Jazzland)」を彷彿とさせてくれます。
 個人的には自然体でアドリブを演じる Amedeo Tommasi が印象的♪ 分かり易いアレンジを用いたバンドアンサンブルもジャズの王道を行くものだと思います。

A-4 But Not For Me
 数多の名演が残されている有名スタンダード曲とあって、バンドの面々も腕試しという趣でしょうが、これがなかなかのリラックスした好演です。特にネル・トーマは、おそらくはコピーしまくったと思われるジミー・レイニーのスタイルを見事に再現していて、思わずニンマリ♪
 またポビー・ジャスパーもハードバップな姿勢を貫きつつ、新しい感覚も聞かせる熱演で、個人的には1950年代のモダンスイングのようなスタイルを望みたいところですが、これはこれで熱くさせられます。
 しかしピアノの Amedeo Tommasi はビル・エバンスがハードバップしたような大変に好ましいプレイで、短いながらもカッコ良いアドリブを聞かせてくれるのでした。

B-1 Hannie's Dream
 その Amedeo Tommasi が書いたビル・エバンス調のオリジナル曲で、スローで美しいテーマメロディを独り舞台で演じるイントロ部分が印象深く、続いてギターとフルートが入って奏でられるパートも、これまた素敵♪ アンサンブルも実に上手くアレンジしてあると思います。
 まさに欧州人プレイヤーの面目躍如というか、ビートが強くなったアドリブパートでは Amedeo Tommasi のピアノが、こちらの望むフレーズ展開を先回りして演じてくれるような物分かりの良さで、最高♪ この人は全くの隠れ名手じゃないでしょうか。

B-2 Bernie's Taste
 これまた非常に熱いハードバップのグルーヴが満喫出来る快演で、ビシッとキマったバンドアンサンブルとガサツなビート、如何にもというテーマメロディがたまりません。
 ポビー・ジャスパーのフルートも本領発揮ですし、ルネ・トーマの伴奏もエグイ部分と上手さのバランスが秀逸! もちろんアドリブソロも流麗にしてジャズのビート感を大切した素晴らしさです。

B-3 Smoke Gets In Your Eyes / 煙が目にしみる
 これは良く知られた素敵なメロディのスタンダード曲ということで、最初っからルネ・トーマがギターの独り舞台を演じても安心感があります。というか、逆にその人の個性や技量があからさまになるわけですから、勇気のいることでしょう。ここでは完全なソロギターで演じられています。

B-4 I Remember Sonny
 オーラスはルネ・トーマが書いたグルーヴィなハードバップ! まずはポビー・ジャスパーがハードな音色でモードも使った熱いアドリブを聞かせてくれます。リズム隊の雰囲気が、なんとなく同時期のマイルス・デイビスのバンドのように聞こえるのも意味深ですねぇ♪
 もちろんネル・トーマは意外に粘っこいノリを披露して素晴らしく、ブロックコードを駆使した Amedeo Tommasi のクールで熱いピアノにもグッと惹き込まれます。

ということで、なかなかに中身の充実した好盤です。

主役の2人はもちろんのこと、個人的には Amedeo Tommasi のピアノがとても好きになりましたし、ケニー・クラーク系のドラミングを聞かせる Franco Mondini、基本に忠実ながら図太いペースワークを響かせる Maurizio Majorana で構成されたリズム隊は、既に述べたように当時のマイルス・デイビスのリズム隊、つまりケリー、チェンバース&コブのようなクールなグルーヴを追求しているようで、彼等の演奏が残されているのならば、もっと聴きたい気分です。

ところがポビー・ジャスパーは翌年に心臓病で他界……。ルネ・トーマも1970年代中頃に亡くなっていますから、これは何時までも大切に聴きたい1枚です。

ちなみに私有盤は当然ながら傷みもあり、それゆえに音の歪みの顕著な部分があったりしますが、驚いたことに近年、このアルバムが紙ジャケット仕様でCD化され、友人が入手した際に聞かせていただいたところ、これがリマスターも秀逸なモノラルミックス! あわてて店頭に走りましたが、既にソールドアウトでした。

う~ん、ヤフオクでも漁ってみようかなぁ。

気になる皆様は、ぜひとも聴いてみてくださいませ。今時分の秋にはジャストミートのモダンジャズだと思います。

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ゴルソンとモーガンの居たJM '58

2008-10-17 11:47:26 | Jazz

Art Blakey & Jazz Messengers Live In '58 (Jazz Icons / TDK)

「I Remeber Clifford」を吹くリー・モーガンが見たい! という夢が叶ったDVDが、これです。

内容はジャズメッセンジャーズが1958年に敢行した欧州巡業から、モノクロ映像で約55分間のライブを収録していますが、結論から言うと画質もAランクだと思います。

そのステージは1958年11月30日のベルギー、メンバーはリー・モーガン(tp)、ベニー・ゴルソン(ts)、ボビー・ティモンズ(p)、ジミー・メリット(b)、そして親分のアート・ブレイキー(ds) という黄金のラインナップです――

01 Just By My Self
 如何にもベニー・ゴルソン節のメロディが魅力のオリジナル曲で、リー・モーガンも自身のリーダー盤「City Lights (Blue Note)」で前年夏に録音していますから、ベルギーのファンには嬉しい演目だったと思われます。
 もちろんメッセンジャーズの面々も大ハッスル! ちょっと空回りしたような激しいツッコミのリー・モーガンは、アドリブ全体を上手く纏めようなんて姑息な思惑は微塵も無い若気の至りで好感が持てます。それを上手くサポートしていくボビー・ティモンズ、ボンボンビンビンに跳ねるジモー・メリットの剛球べース、さらにリズム的興奮を煽るアート・ブレイキー! やっぱり全盛期のメッセンジャーズは凄いです。
 そしてヒステリックな泣き叫びからモゴモゴとした口ごもりまで、一気に聞かせてしまうベニー・ゴルソン、硬質のスイングに徹するボビー・ティモンズは唸り声までもがハードバップしていますよ♪

02 Moanin'
 今となってはメッセンジャーズの大ヒット曲も、当時はレコーディングしたばかりのピカピカの新演目でしたから、未だレコードも発売されていなかったと思います。
 そんな事情からか否か、演奏前にはアート・ブレイキーのお喋りが黒人芸能の本質として興味深いところでもありますが、こうして始まる演奏は、テーマ部分からゴスペルファンキーな緊張感が最高です。
 そしてリー・モーガンが初っ端から「お約束」のフレーズでキメを入れ、グイノリのリズム隊に後押しされながら、思わせぶりと熱血を出し惜しみせずに山場を作っていくのですから、たまりません♪ 映像で観られる真摯な演奏姿勢、ジャズの情熱に満ちた表情もカッコ良いですねぇ~~♪
 また逆に余裕を漂わせるベニー・ゴルソンの佇まいも潔く、リー・モーガンの映像は幾つか出回っていますが、やはりゴルソン&モーガンが並び立つ場面は格別のものがあります。あぁ、これがハードバップ黄金期の良い時代!
 さらにお待ちかね、ボビー・ティモンズのゴスペル大会が動く映像で観られるという感動は、実際、この巡業中に録音された名演ライブアルバム「Au Club Saint Germain (RCA)」があるだけに、一層強い印象を残すのでした。ジミー・メリットの重量級ベースソロも凄いですよっ♪

03 I Remember Clifford
 そしてこれがお目当ての名場面! 動くリー・モーガンが自身の当たり曲をやってくれるのですから、歓喜悶絶です。現地のファンも曲が紹介されただけで大喜びなんですねぇ。
 もちろん演奏は、あの哀切の美メロがゴルソンハーモニーに彩られ、リー・モーガンの溢れる想いに満ちたトランペットに感動させられます。まあ、正直言えば、スタジオ録音バージョンの「Lee Morgan Vol.3 (Blue Note)」や、同じ巡業中に残されたライブ盤「Olympia Concert (Fontana)」のバージョンには若干及びませんが、それでも動く映像という魅力は絶大! 万雷の拍手喝采という観客と一緒になって、私も拍手をしてしまうのでした。

04 It's You, Or No One
 有名スタンダード曲をハードバップ化した演奏で、「アレンジはハンク・モブレー」と演奏前に親分のブレイキーがMCを入れています。ちなみにそのオリジナルバージョンはホレス・シルバーが在団していた時期の名盤「The Jazz Messengers (Columbia)」に収録されていますが、ここでのライブバージョンも凄い勢いで最高です。
 特にリー・モーガンは前曲「I Remember Clifford」が大ウケしたことから尚更にハッスルしているようで、激しいツッコミから十八番のフレーズを連発して猪突猛進すれば、煽りまくるアート・ブレイキーも怒涛のドラミング! もちろん観客は大熱狂です。
 ベニー・ゴルソンも直線的な狂熱を聞かせてくれますし、ボビー・ティモンズのアドリブソロからジミー・メリットのウォーキングベースを経て、親分ブレイキーのドラムソロに繋がっていく展開は唯一無二の素晴らしさで、まさにハードバップ最良の瞬間が存分に楽しめること請け合いです!
 セカンドリフからラストテーマに入っていく終盤のバンドアンサンブルもビシッとキマって、ステージは一気に熱くなっていきますが、う~ん、それにしてもハンク・モブレーのアレンジは如何にも「らしい」モプレーフレーズがいっぱいでニンマリ♪

05 Whisper Not
 そしてもうひとつのお目当てが、この演目でしょうねっ♪ 説明不要というベニー・ゴルソンが畢生の名曲ですから、リー・モーガンのミュートトランペットが哀愁のメロディをリードし、ベニー・ゴルソンがハスキーな音色のテナーサックスで寄り添う最初からの展開だけで、涙がボロボロこぼれます。
 もちろんリー・モーガンはアドリブパートでも極めてメロディを大切にしたソロを聞かせてくれますし、ペニー・ゴルソンはサブトーンの魅力がいっぱいのテナーサックスで、最高の大名演! あぁ、心底シビレの涙がとまりません。
 おまけにボビー・ティモンズのピアノが「泣き」のフレーズばっかり弾くんですからっ♪♪~♪ ラストテーマのアンサンブルの入りが早すぎるというバチあたりな気分が去来するほどです。
 ちなみにこの曲はリー・モーガン、あるいはベニー・ゴルソン、当然ながらメッセンジャーズも含めて数多のバージョンが残されていますが、やはりこのメンバーで演じられ、それを映像で堪能出来るという喜びは掛け値なしに素晴らしいと思います。

06 A Night In Tunisia
 こうして迎えるクライマックスは、リー・モーガンのMCどおり「ブレイキー親分の大活躍」が見事な熱演となります。演奏のパターンもテーマリフの前にメンバー全員による打楽器の乱れ打ちが最高で、アート・ブレイキーの土人のリズムも絶好調! こういう部分は絶対に当時の白人プレイヤーには出せなかったグルーヴでしょうし、それはバンドメンバーが自然体で放出する本物のジャズの熱気に他なりません。そうした雰囲気の凄味が、この映像でも存分に堪能出来ます。興奮しながらも真剣に演奏を聴き入る観客の姿からも、圧倒されているのが窺い知れると思います。
 もちろんリー・モーガンは血管プレキレ寸前という強烈なアドリブを聞かせてくれますし、ベニー・ゴルソンの露払いも見事です。しかし何といっても、ここではアート・ブレイキーの全身全霊をリズムとビートに傾注した熱演が物凄いです!

07 NY Theme
 私はこのメッセンジャーズのラストテーマが、実は大好きで、ここでも短いながら気持ち良い幕切れに快感を覚えるのでした。

ということで、かなり以前に出たブツなんですが、なんとなく最近、廃盤の噂があるので取り上げました。こういうアイテムは権利関係が複雑なのかもしれませんね。

気になるカメラワークは普通というか、基本に忠実で凝ったところもありませんが、なにしろこのメンツの映像ですから、観飽きるなんて心配もないでしょう。音質も部分的なダメージはありますが、概ね良好です。

また映像中の発見として、やはり現場監督はベニー・ゴルソンらしく、演奏開始の合図や背後に控える親分ブレイキーへの気遣い、そしてメンバーに打楽器を配ったりする姿は貴重です。

そして細身のスーツでビシッとキメたメンバーのカッコイイ勇姿! 如何に当時のモダンジャズがヒップな最先端だったかがわかりますねぇ~♪

ちなみにこうしたハードバップ全盛期の映像は、本場アメリカではほとんど残されず、それは人種差別という事象を抜きには語れないわけですが、それゆえに当時の素晴らしいドキュメントとして感謝感激! そして何時かはハンク・モブレーやジャズテットの映像発掘を決死的に熱望しています。

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ホレス・シルバー1968&モア

2008-10-16 12:46:50 | Jazz

Song For My Father / Horace Silver (Impro-Jazz = DVD)

先日の連休に発見した映像物です。

タイトルはホレス・シルバーになっていますが、オマケとしてシェリー・マンとテディ・エドワーズの演奏も入ったトータル約90分! おそらくホレス・シルバーのパートは初DVD化と思われます――

Horace Silver Quintet : 1968年4月、デンマークでのスタジオライブ
 01 Nutville
 02 Song For My Father
 メンバーはビル・ハードマン(tp)、ベニー・モウピン(ts)、ホレス・シルバー(p)、ジョニー・ウィリアムス(b)、ビリー・コブハム(ds) という物凄いバンドです! 特にビル・ハードマンは多分、ホレス・シルバーとは公式レコーディングを残していないですから、極めて貴重じゃないでしょうか。
 それと剛腕ドラマーのビリー・コブハムが正統派モダンジャズを敲く映像というのも、観る前から心が踊らされます。
 まず「Nutville」は隠れ人気盤「The Cape Verdean Blues (Blue Note)」でやっていた激しいハードバップですから、ここでもメンバー全員が一丸となって、15分51秒の大熱演! 4ビートとラテンリズムがゴッタ煮となったグルーヴが強烈ですし、硬派なモード節を押し通すベニー・モウピン、我が道を行くビル・ハードマン、猫パンチみたいに鍵盤へ挑みかかるホレス・シルバー、千手観音みたいなビリー・コブハム、そしてひとり黙々としたジョニー・ウィリアムスという面々が凄い自己主張に徹しています。
 特に日頃地味だ、地味だと思われがちなビル・ハードマンが相当に入れ込んだ熱血のトランペットで、これにはちょいと吃驚ですよ。もちろんビリー・コブハムは大暴れで、クライマックスの怒涛のドラムソロは、完全に嵐を呼ぶ男です!
 肝心のホレス・シルバーは汗ダラダラで嬉々としてピアノを弾くというよりは、叩くという感じが素晴らしく、これは映像作品ならではの醍醐味でしょう。
 ちなみに画質はモノクロですがAランクだと思います。また音質は当然ながらモノラルミックスで、一部のドロップダウンはありますが、それほど気にならないレベルでしょう。
 そしてお目当ての「Song For My Father」が、これまた素晴らしい♪ 永遠不滅のリズムパータンとリフ、哀愁のテーマメロディ、シャープなラテンビートを敲くビリー・コブハムの印象も強く、あぁ、テーマ部分だけで喚起悶絶させられます!
 さらにアドリブパートではホレス・シルバーが、せつなくもファンキーな「節」を存分に聞かせてくれますし、特に中盤からの倍テンポっぽい展開にはワクワクさせらますよ。抜群のコンビネーションというペースとドラムスの存在も、映像で観ると尚更に印象的ですねぇ~~♪ カメラワークもメンバー各人のアップから手足の動き、さらに鍵盤やシンバルのイメージショットが照明までも考えられた鮮やかさで、飽きません。
 気になるビル・ハードマンは、ここでもなかなかの味わいですし、ベニー・モウピンは静寂から混濁までを熱く演じきって、見事です。またビリー・コブハムの、自分が楽しんでいるようなドラミングも大いなる見ものでしょうね♪ 演奏時間は、これも長尺で18分53秒です。

Shelly Manne and His Men : 1962年10月、ロスでのスタジオライブ
 03 Theme & intorduction
 04 The King Swing
 05 Fan Tan
 06 The Isolated Pawn
 07 Speak Low
 08 Theme & closing
 これは今までも度々パッケージ化されてきた映像で、元ネタはアメリカのテレビ番組「Jazz Scene U.S.A」からの演奏です。メンバーはコンテ・カンドリ(tp)、リッチー・カミューカ(ts)、ラス・フリーマン(p)、モンティ・バドウィック(b)、シェリー・マン(ds) という西海岸オールスタアズ♪ 司会はオスカー・ブラウンです。
 演奏は1962年という時代からハードバップとモード系の上手い折衷という感じですが、バンドは流石の名手揃いですから、各トラックは短いながらも完成度の高い纏まりが楽しめます。
 特に「The King Swing」と「The Isolated Pawn」はモード風味に染まっていますが、演奏のキレの良さとビシッとキマッたバンドアンサンブル、豪快にしてカッコ良いところは、モダンジャズのひとつの魅力かもしれません。
 個人的には大好きなリッチー・カミューカとラス・フリーマンが観られるだけで感激もんなんですが、画質もこれまでで最高の仕上がりというAランクのモノクロですし、音質はモノラルミックスですが、ドラムスやベースの音もバランス良く録れています。
 気になるスタンダード曲「Speak Low」は、もちろん爽快なハードバップに仕立てられ、メリハリの効いたリズム隊が痛快至極! シェリー・マンはやっぱり凄いと実感させられました。
 しかし最も良いのは、最初と最後のテーマ演奏のグルーヴィなところなんですよねぇ……。正直、これを完奏して欲しかったです。ちなみに収録時間は約27分強です。

Teddy Edwards Sextet : 1962年11月、ロスでのスタジオライブ
 09 Theme & announcement
 10 The Cellar Dweller
 11 Sunset Eyes
 12 Afraed Of Love
 13 Good Gravy
 14 Velvet Mist
 15 Theme & closing
 このパートも前述同様「Jazz Scene U.S.A」からの映像で、メンバーはテディ・エドワーズ(ts) 以下、フレディ・ヒル(tp)、リチャード・ブーン(tb)、ジョン・ヒューストン(p)、スタン・ギルバート(b)、ダグ・サイズ(ds) という些か地味な面々ですが、演奏はなかなかに充実しています。
 ご存じのようにテディ・エドワーズは西海岸ハードバップの中心人物として、クリフォード・ブラウン&マックス・ローチのバンドレギュラーも務めた実力派ですから、ここでも黒人らしいハードドライヴィングなテナーサックスは最高で、加えてタイト&グルーヴィなバンドアンサンブルもご機嫌です。
 しかも演目が秀逸な作曲能力を証明するオリジナルばかり♪ ラテンとアラビアがゴッタ煮の「Sunset Eyes」にはグッと惹きつけられますし、感傷的な「Afraed Of Love」やカッコ良すぎる「Good Gravy」は、これぞっ、ハードバップというテナーサックスの真髄が楽しめます。実に黒っぽい歌心と豪快なフレーズ、そして正統派の音色! これもジャズ王道の響きでしょうねっ♪ 景気の良いオーラスの「Velvet Mist」も痛快です。
 そして画質はこちらもAランクのモノクロで、もちろん音質はバランスの良いモノラルミックスですから、この機会にテディ・エドワーズの再評価に繋がればと思います。

ということで、やはり最初のホレス・シルバーのクインテットが目玉でしょう。ビル・ハードマンの映像も珍しいところですが、一心不乱にピアノに向かう全盛期ホレス・シルバーの勇姿、また強烈な存在感を映像でも証明するビリー・コブハム! これだけで私は満足してしまいました。

現実的にはこの頃を境にしてホレス・シルバーの人気は下降線……。吹き込まれるアルバムもイマイチ煮え切らない作品が多くなっていきますが、実はライブの現場では連日、熱演を繰り広げていたんですねぇ~。

ですからこれは、レコード中心にしかジャズの最先端に触れることが出来なかった大部分のファンの溜飲が下がるブツだと思います。

もちろんオマケ扱いのシェリー・マンやテディ・エドワーズのパートも凄いレベルですから、全くのお徳用のDVDでした、

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オリバー・ネルソンの大風呂敷

2008-10-15 12:04:30 | Jazz

The Blues And The Abstract Truth / Oliver Nelson (impulse!)

邦題「ブルースの真実」とは大風呂敷ですが、決してサイケおやじは大風呂敷が嫌いではありません。いや、むしろそういう姿勢は妙に潔くて好きかもしれません。

このアルバムも、実はそのタイトルに惹かれて大いに気になっていた1枚で、ジャズ喫茶に通い始めた頃、最初にリクエストした記念すべきものです。

もちろんこの作品は、モダンジャズ名盤の中の大名盤!

録音は1961年2月23日、メンバーはオリバー・ネルソン(as,ts,arr)、フレディ・ハバード(tp)、エリック・ドルフィ(as,fl)、ジョージ・バロウ(bs)、ビル・エバンス(p)、ポール・チェンバース(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という超豪華な面々です――

A-1 Stolen Moments
 おそらくオリバー・ネルソンの諸作中では最も有名な曲でしょう。
 この静謐にしてグルーヴィな雰囲気の良さは、ジャズを本格的に聴き始めた私を完全に虜にするミステリアスな魅力に溢れていましたが、それは何時までも変わらぬものと確信しています。
 曲そのものは16小節の繰り返しによる変則ブルースという感じですが、クールで黒っぽいフレディ・ハバードのトランペット、アグレッシブにブッ飛びながら違和感の無いエリック・ドルフィのフルート、ミディアムテンポで強靭なビートを作り出すリズム隊の存在感!
 そしてまるで書き譜のようなオリバー・ネルソンのアドリブは、その硬質なテナーサックスの音色も同様にウェイン・ショーターを連想させられますが、実際に同じ手法を目指しているのかもしれません。
 これは後になって気がついたのですが、この演奏のムードはマイルス・デイビスが畢生の名演・名盤とされる「Kind Of Blue (Columbia)」の色合いに近く、それはビル・エバンスのピアノがアドリブを始めて尚更に強くなります。ポール・チェンバースの柔軟にしてグイノリのベースウォーキングも、その雰囲気を強く醸し出していますね。

A-2 Hoe-Down
 冒頭の「ホウダウンッ、ワン・ツー」なんていう掛け声も気分良くスタートするゴスペル調の楽しい演奏です。アップテンポでキメまくりというロイ・ヘインズのドラムスが、まず最高ですねっ♪
 もちろんアップテンポで溌剌としたフレディ・ハバード、グリグリにエグイ感性のエリック・ドルフィーはアルトサックスで激しく飛翔しています。そしてオリバー・ネルソンの執拗な反復フレーズ! 正直に告白すれば、これを最初に聞いた私は、全くイモとしか思えなかったのですが、今はなんとなく分かったような気分にさせられる妙な説得力!。
 それにしてもロイ・ヘインズのドラミングが凄いすぎます!

A-3 Cascades
 これもロイ・ヘインズの刺激的なドラムスに導かれ、タイトルどおりに「そうめん流し」のようなテーマメロディが素敵です。妙に昭和歌謡曲のような味わいは好き嫌いがあるかもしれませんが、なんか憎めないんですよねぇ。そして右チャネルからの主メロディに対抗する左チャンネルのホーンアンサンブルが、全く別なテーマを演じているところが、実にカッコ良いです♪
 さらにアドリブパートが猛烈なフレディ・ハバード! 新感覚のブルースというビル・エバンスのハードなジャズ魂も不滅でしょう。
 しかしやっぱりここではオリバー・ネルソンのシンプルで分かり易く、カッコイイ曲作りやアレンジが流石だと思います。 

B-1 Yearnin'
 そのあたりの雰囲気が濃厚に表出したのが、このゴスペルっぽい名演・名曲です。まさにグルーヴィなベースとドラムス、そして真っ黒なフィーリングをソフトな情感に置き換えて素晴らしいイントロから全体の雰囲気を決めるビル・エバンス♪
 あぁ、ここだけで充分に満足させられてしまいますが、いよいよ出てくるホーンアンサンブルによるテーマメロディの高揚感! 適度な混濁と粘っこい感触、しかしクールで熱いところが凡百のハードバップとは一線を隔しています。
 さらにアドリブ先発のエリック・ドルフィが激ヤバのアルトサックス! ブルースというよりは天空の魔術師の独り言です。実はテーマ部分は良く聴くと28小節構成なんですが、そんな複雑を感じさせないアドリブパートの潔さか、さらなる自由度を高めているようです。
 もちろんフレディ・ハバードも好演ですが、その背後で蠢き、キメまくるビル・エバンスやロイ・ヘインズも快演で、特にビル・エバンスは全く「らしくない」事を聞かせてくれますが、それが実に「ビル・エバンス」していると思います。ズバリ、名演でしょうねっ♪

B-2 Butch And Butch
 ハードバップというよりもビバップという感じの幾何学的なテーマ、そして重厚で分かり易いアレンジ、しかしアドリブに入ると意味不明という演奏です。特にオリバー・ネルソンは空の徳利のように浮き上がった感じが!?
 そしてフレディ・ハバードがそれを軌道修正するのも一瞬の事で、続くエリック・ドルフィがまたまたの激ヤバ節です。おまけにビル・エバンスがクールに構えたカッコマンを演じてしまいます。
 う~ん、それなのにこの分かり易い熱さはなんだっ!?
 チキショーって思うほどにキメまくりのロイ・ヘインズのドラミング!
 全てが最高です♪
 
B-3 Teenie's Blues
 オーラスに至って初めて出てくる正統派の12小節ブルースは、ポール・チェンバースの強靭なペースウォーキングからシャープなロイ・ヘインズのドラミングという、このアルバムの土台が再確認されるスタートです。
 しかしテーマメロディは決して一筋縄ではいかないアブナサで、見事に常軌を逸したエリック・ドルフィのアルトサックスを呼び込んでいます。あぁ、この一瞬が実に快感ですねぇ~~~♪ バックのビル・エバンスも、ハッとするほどに刺激的な伴奏ですよっ♪
 また続くオリバー・ネルソンの煮え切らなさには逆に凄味が漂い、ここではロイ・ヘインズが怒りのオカズを連発! そしてビル・エバンスがクールなアドリブを披露して、演奏は大団円を迎えるのでした。

ということで、一聴、ハナからケツまでシビレまくった傑作盤でした。

なによりも過激なアドリブがいっぱいなのに、テーマのカッコ良さと雰囲気の素晴らしさ、全体の分かり易さが最高です。そしてそれでいて、何時聴いても新鮮なんですねぇ~~♪ これぞっ、名盤だと思います。

そして聴くほどに凄味を感じるリズム隊は驚異です。シャープで過激なロイ・ヘインズ、グルーヴィなポール・チェンバース、一般的なイメージとは逆の演奏をしながら、全く「らしい」ビル・エバンス! 実は告白すると私は最初、ここでのビル・エバンスがビンっとこなくて、ウイントン・ケリーあたりだったらなぁ……、なんて事も思っていましたが、今ではビル・エバンスでなければ、絶対にダメです。というよりも、ビル・エバンスが弾いたからこその「ブルースの真実」だとも思えるのです。

もちろんフレディ・ハバードやエリック・ドルフィというスタアプレイヤーも個性的な魅力を存分に発揮していますが、その彼等にしても協調性が表裏一体となった実力を証明して感が強いようです。

肝心のオリバー・ネルソンもアドリブでの変態性とキマり過ぎのアレンジの妙が最高のコントラストですし、決して全曲でアドリブソロを演じない潔さも流石だと思います。また表ジャケットには参加したスタアプレイヤーの名前が特別に出ていますが、ここに載らなかったバリトンサックスのジョージ・バロウが、実はホーンアンサンブルでは絶妙のスパイスになっていると確信するサイケおやじは、判官贔屓ではないつもりです。

そのあたりは皆様が実際に聴いて感じることではありますが、これは絶対の名盤ですし、もちろんジャズの入門用にも最適かもしれません。

ちなみにジャズ喫茶では、こういう分かりきった名盤が鳴り出すと席を立つお客さんも散見されるのですが、このアルバムに限っては、あまりそんな事もなかったというのは、私の言い訳でしょうか……。

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パド・パウエルにCDを

2008-10-14 12:29:26 | Jazz

The Bud Powell Trio (Roost / 日本コロムビア=CD)

1980年代の音楽大革命といえば、やはりCDの登場でしょう。音をデジタル化してアナログ盤とは比較にならないほど小さな円盤に押し込めてしまうその技術は、それまでとは格段に明瞭な音が楽しめると宣伝されました。

中にはマスタテープの音がそのままに聴けるとまで!?

しかし私はそうした定義には懐疑的で、なぜならば自分のように「OLD WAVE」な音楽ばかり聴いている者には、マスターテープよりもオリジナルアナログ盤の音こそが憧れだったのですから! まあ、これはあくまでも個人的な思い込みかもしれません。

少なくとも1970年代中頃までの音楽制作現場では、マスターテープからレコードを制作する過程で、カッティングマスターというレコードプレスの基になる素材が作られていました。それは当時のオーディオ機器の性能に合わせてマスターテープの音を補正・抑制したもので、何故ならば、例えばマスターテープでは自然に再生出来ていた重低音が、家庭用のカートリッジでは針飛びや歪みを誘発するといった事情によるものです。

また出力の小さな電蓄プレイヤーでも迫力のある音が楽しめるように、各社では様々な裏ワザが使われているのですから、それを自然に受け入れて楽しんでいたファンの前に、いきなり「オリジナルマスターの音」が出されても……。

それとCDには、アナログ盤では当たり前のチリチリパチパチという針音ノイズが無い♪ というのもウリになっていましたが、それじゃ、マスターテープの痛みとかはどうするの? という疑問もありました。

実際、某社から出されたジャズピアノトリオの大名盤は、日本に保管してあったマスターコピーをそのまんま、つまり曲と曲とのプランク部分までも忠実にデジタル化していたのですから、今となっては聴けたもんじゃありません。確かにアナログ盤とは一線を隔したクリアーな音にはなっていましたが、その後は言わずもがなでしょう。

そんな試行錯誤が繰り返されていたのが、初期のリマスターの現状でしたが、そこに私が共感出来る結果として提示されたのが、本日ご紹介のCDです。

アルバム自体の内容については今更、私のような者が稚拙な筆を弄するまでもないほどに凄い演奏集で、モダンジャズでのピアノの役割を確立させたとして歴史の残るパド・パウエルの全盛期を記録したものが8曲♪ そしてその対極にある、些かボロボロの時期の演奏が8曲という構成です――

1947年1月10日録音
 01 I'll Remember April
 02 Indiana
 03 Somebody Loves Me
 04 I Should Care
 05 Bud's Bubble
 06 Off Minor
 07 Nice Work If You Can Get It
 08 Everything Happens To Me
 メンバーはパド・パウエル(p)、カーリー・ラッセル(b)、マックス・ローチ(ds) という不滅のトリオ! ジャズの歴史本や入門書にも必ず載っている決定的な名演とされますが、私は最初に聴いた時、完全に???
 というか、確かに圧倒される凄味は感じたのですが、はっきり言えば音が悪いし、どことなく煮え切らないものが……。後に分かったのですが、これらのオリジナル初出はSP盤であり、それがLP化されるまでにマスターが劣化し、またLP盤自体が初回プレスの所謂オリジナル盤であっても、盤質そのものが決して良好ではないという諸問題が……。
 しかし、それでもジャズを聴き始めた頃の私は、どうしてもこの演奏は理解出来ないとヤバイ、持っていないとまずい、という気分に急き立てられ、日本盤を買ったのですが、う~ん……。
 そして時が流れ、CDが音楽産業に登場し始めたある日、偶然にもレコード屋の店頭でこのソフトを聴いて仰天! そのメリハリのある音、マスターに残る傷みの生々しささえも音楽の一部になっている歴史的な勢いに圧倒されました。
 もちろん直ぐに、お買い上げ! 実は告白すると、このCDがあったおかげで、私はプレイヤーを導入する決意をしたのです。つまりソフトを先に買ってからハードを導入したというオチがあるんですねぇ~。
 しかし本当に目からウロコだったのは、この後です。それは買ってしまったCDの付属解説書に記載してあった驚くべき真実で、ピアニストの藤井英一氏と評論家の佐藤秀樹氏によるものでしたが、なんとこのセッションを収めたオリジナルLP、および日本コロムビアから発売されていたアナログ盤はピッチが狂っていたというのです!
 う~ん、私が聴いていて、どこか煮え切らないもの感じていたのは、この所為だったのか!? もちろん私が所有していたのは日本コロムビアからのアルバムでした。
 そのあたりの経緯は本CDの解説書に詳しいわけですが、ここで特筆しておきたいのは、リマスターにあたっては音質というかリスナーの音感を、米国で発売されたオリジナル盤、つまりSPを聴いた時の音質に近づけるような努力がなされたということです。
 これには大いに共感しましたですねっ♪
 さて肝心の演奏は、とにかく猛烈な勢いでブッ飛ばした「Indiana」、歌物でありながら、如何にもビバップに解釈した「I'll Remember April」や「Somebody Loves Me」のテンションの高さ、恐ろしいほどの幻想性を聞かせる「I Should Care」、儚いムードが横溢する「Everything Happens To Me」、そしてセロニアス・モンク(p) の十八番であるにも関わらず、それを凌駕する先進性を滲ませた「Off Minor」や「Nice Work If You Can Get It」、さらにメリハリの効いたオリジナル曲「Bud's Bubble」での颯爽とした雰囲気の良さ! とにかく全曲、敢然することない名演ばかりです。
 共演者ではマックス・ローチのブラシがシャープなキレ味、またカーリー・ラッセルの黒いビートがデジタル化されたことで尚更に強力ですし、パド・パウエルのピアノタッチの凄さも、あの唸り声とともに、ハッとするほどアブナイ雰囲気です。
 あぁ、これがビバップの真髄! モダンジャズの奥儀と納得して感動!
 これはやっぱり、絶対に聞かずに死ねるかのセッションだったのです。そして私はCDの威力に心底、平伏したというわけです。ちなみにカタログ番号は「35C38-7216」で発売元は日本コロムビア、定価は三千五百円でしたが、全く後悔していません。
 現在では発売元が変わっているらしく、当然ながらリマスターもやり直されているでしょうから、「音」も変わっていることでしょう。残念ながら私はそれを聴いたことがないのですが、個人的にはこのCDで満足しているのでした。

1953年9月録音
 09 Embraceable You
 10 Burt Cobers Bud
 11 My Heart Stood Still
 12 You'd Be So Nice To Come Home
 13 Bag's Groove
 14 My Devotion
 15 Stella By Starlight
 16 Woody'n You
 後半は精神病等々で入退院を繰り返していた時期から、一応は社会復帰した1953年のセッションで、メンバーはパド・パウエル(p)、ジョージ・デュヴィヴィエ(b)、アート・テイラー(ds) という当時のレギュラートリオによるものです。なかなか魅力的な演目が揃っていますね♪
 結論から言えば、1947年の演奏のような神がかった冴えは全く聴くことが出来ません。しかし例えば「Embraceable You」や「My Devotion」に顕著なある種の重さや濁りが、人生の澱を感じさせてくれるというか、これは後期パド・パウエルの不思議な人気の秘密かもしれません。
 哀愁というには、あまりにもヘヴィなこのムードは、パド・パウエルという天才だけが醸し出しえる「何か」の表れで、極限すれば指がもつれ、しかもインスピレーションも冴えない演奏であったとしても、ジャズ者だけに訴えかけてくるパド・パウエルの心情吐露にはグッと惹き込まれる他はありません。
 と、ちょっと大袈裟に書いてしまいましたが、突き放したようにクールな「Bag's Groove」や意地悪な「You'd Be So Nice To Come Home」なんて、全くリスナーの期待を裏切り過ぎる感じが逆に凄いのかもしれません。また、もどかしくて狂おしい「Stella By Starlight」とか、往年の片鱗が感じられる「Burt Cobers Bud」や「Woody'n You」には、何が悲しくて……。

ということで、アナログ盤LPでは両セッションがAB面に別れて収録されていましたので、聴くとすればA面ばかりの偏りも当然のアルバムかもしれません。実際、私はそうでした。

しかし繰り返しますが、そのアナログ盤の音の悪さ、そしてこのCDのリマスターの納得度は、あまりにも対照的です。おそらく私は、この「35C38-7216」を聞かなかったら、CDプレイヤーの導入もずっと後の事になっていたでしょう。もちろんパド・パウエルの1947年セッションの凄さを堪能出来るのも、きっと遅れていたにちがいありません。

CDの市場への登場から今年で25周年だそうですけど、パド・パウエルに諸々を教えられたのが、つい昨日のような気分です。

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最高に‘BAD’なベンソン

2008-10-13 12:04:32 | Soul Jazz

Bad Benson / Georog Benson (CTI)

クロスオーバーでのギター名人からブラコンで大衆的なスタアとなったジョージ・ベンソンは、もちろん正統派ジャズギターの達人でもありますから、その腕前を存分に発揮したアルバムも作っていました。本日の1枚は、まさにそうした代表作だと思います。

録音は1974年5月、メンバーはジョージ・ベンソン(g)、フィル・アップチャーチ(g,el-b,per)、ケニー・バロン(el-p,key)、ロン・カーター(b)、スティーヴ・ガッド(ds) を中心にプラス&ストリングスが加わり、そのアレンジはドン・セベスキー、そしてプロデュースはもちろんクリード・テイラーという、CTIが黄金期の名作です――

A-1 Take Five
 デイブ・ブルーベック、そしてポール・デスモンドの代表作にしてモダンジャズを超えた有名曲ですから、お馴染みのメロディと快楽的な変拍子が、本当に素敵な演奏です。
 ここではフィル・アップチャートの強靭なリズムギターと思わず腰が浮くスティーヴ・ガッドのヘヴィなドラミングに支えられたジョージ・ベンソンのハードなギターワークが圧巻です。上手すぎる運指と硬質なピッキングの完全融合は驚異的ですし、アドリブ構成のインスピレーションも冴えわたり♪
 しかも、ここぞっで入ってくるオーケストラの上手いアレンジ、ケニー・バロンのエレピのアドリブも歌心が最高で、さらにアグレッシブな新主流派の趣も強く、これが1970年代ジャズの最先端という確かな響きが楽しめます。
 そしてこの演奏によって、これが当時のジョージ・ベンソンには十八番となり、ライブバージョンも幾つか残されていますが、まずはこのスタジオバージョンをぜひともお楽しみ下さいませ。

A-2 Summer Wishes, Winter Dreams
 いきなりソフトロック調のオーケストラ、そして甘いジョージ・ベンソンのギターが鳴り出せば、あたりは完全にムードミュージックの世界なんですが……。まあ、こういう「品の良さ」がCTIというレーベルの特色のひとつでもありますから、笑って許しての世界かも……。
 次曲につながる「箸やすめ」としては絶品かもしれません。

A-3 My Latin Brothers
 そして始まるのがタイトルどおりにラテンビートを取り込んだジャズフュージョンの名演ですが、個人的にはシカゴソウルっぽいノリやメロディを強く感じます。そういえば初期の山下達郎が、ステージではこんな演奏もやっていましたですね。
 閑話休題。
 ジョージ・ベンソンは抜群のテクニックと強靭なジャズ魂で凄いアドリブを聞かせてくれますよ♪ ケニー・バロンのエレピもジャズ的な快楽としか言えない素晴らしさですし、ドン・セベスキーのアレンジもイヤミなく、そのうえにフィル・アップチャーチのパーカッションが楽しさを倍加させていますから、思わず小皿で「チャンキおけさ」の世界です。もちろんスティーヴ・ガッドのヘヴィなドラミングは最高!
 ちなみにジョージ・ベンソンのギターワークは「Take Five」もそうでしたが、滑るようなフレーズの連続から激しいコード弾きで山場を作るという独自のものが完成された時期にあたると思いますので、やる気の凄さにも圧倒されるのでした。 

B-1 No Sooner Said Than Dane
 これがまたソウルフルにメロウな旋律が心地良すぎます♪ しかも強いビートと妥協しないアドリブの充実がありますから、決して後年の事なかれフュージョンにはなっていません。
 あぁ、ワウワウを使いまくったフィル・アップチャーチのリズムギターとスティーヴ・ガッドのドラムスのコンビネーションが快感ですねぇ~♪ ケニー・バロンの甘いメロディに満ちたエレピも、根底ではジャズっぽさを忘れていませんから、グッときます。
 そしてもちろん、ジョージ・ベンソンのギターは歌いまくってクールに熱いカッコ良さ! ドン・セベスキーのヤバいムードのアレンジも、控え目なのが結果オーライだと思います。

B-2 Full Compass
 ドン・セベスキーが怖さを出したアレンジで挑めば、ジョージ・ベンソン以下、バンドの面々が本性ムキ出しで応戦した熱い演奏です。アグレッシブなエレキベースはフィル・アップチャーチによるもので、またドカドカに重いスティーヴ・ガッドのドラムスが抜群の存在感です。
 ジョージ・ベンソンもガチンコにハードなフレーズ、難解なまでにジャズ本流の凄さを聞かせてくれますし、ケニー・バロンの嬉々としてモード節に浸りきったエレピのアドリブ、そこに激しいツッコミを入れるスティーヴ・ガッドという展開は、もう完全に本物のジャズそのものでしょう。

B-3 The Changing World
 オーラスは華麗なドン・セベスキーのアレンジの中で浮遊するジョージ・ベンソンのギターが、泣きのメロディを思うさま聞かせた胸キュン演奏です。
 そしスローな展開の中では、ケニー・バロンのエレピとロン・カーターが寄り添いながら実に上手い伴奏で雰囲気も良く、ここまでくれば、後はもう……。

ということで、本来はジャズ喫茶でも十分に耐えうるアルバムのはずなんですが、実際はそれほど鳴っていたという記憶がありません。世はまさにフュージョンブーム前夜! その中ではジョージ・ベンソンと言えども、今ひとつ中途半端な存在だったような気がしています。

思えば当時はハードバップのリバイバルもあって、ケニー・ドリューあたりの欧州録音盤がジャズ喫茶の花形でしたし、そういうベテラン勢力の復活とクロスオーバーと呼ばれたプレフュージョンの微妙な対立、そしてバリバリの最先端だったチック・コリアやハービー・ハンコック、またはウェザー・リポートあたりの新譜が常に注目されていた混濁期でした。

その中からジョージ・ベンソンが例の「Breezin'(Warner Bro.)」という神がかり的な大ヒット盤を出し、時代は一気にフュージョンへ! しかしそうなっても、このアルバムが評価されたとか、売れたという話も聞きません。まあ、これは私の認識不足かもしれませんが……。

それはそれとして、ジョージ・ベンソンが正統派ギタリストの実力を存分に発揮した忘れ難いアルバムです。何時聴いても、気分は最高!

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ワーデル・グレイの思い出・第二集

2008-10-12 12:17:34 | Jazz

Wardell Gray Momorial Vol.2 (Prestige)

ジャズに限らず、私の若い頃の音楽情報源は、圧倒的にラジオでした。ロックやR&Bの所謂洋楽のヒットパレードやチャート番組はもちろんの事、ジャズ関係では有名評論家の先生方から様々な薫陶を受けたものです。

さて本日の主役、ワーデル・グレイについても、私はそうしたラジオ番組で存在を知り、忽ち虜になった黒人テナーサックス奏者です。その活動時期は主にビバップ期という1955年までですから、当然ながらSP音源が中心となるのですが、同時に幾つか残されたライブ音源も非常に魅力で、SPという3分間芸術の世界では聴くことの出来ない長いアドリブがたまりません♪

というのも、ワーデル・グレイはデクスター・ゴードンに勝るとも劣らないテナーサックスのアドリブ名人で、ハードな音色と豊かな歌心はレスター・ヤングの進化系と思えるほどです。実際、当時はデクスター・ゴードンとテナーバトルのチームを組んで大ウケしていたのです。

私はそうしたジャズのライブ音源を集めた特集番組でワーデル・グレイの演奏を聴き、それはジーン・ノーマンという西海岸の興行師が主催していた「ジャスト・ジャズ・コンサート」というプログラムからの「One O'Clock Jump」でしたが、肝心のレコードはなかなか手に入りません。

しかし完全にワーデル・グレイの虜になっていた私は、ついにリーダー盤で別のライブ音源が入ったブツを入手! それがこのアルバムですが、もちろん内容はタイトルどおり、ワーデル・グレイが早世した後に纏められたもので、スタジオ録音のSP音源とプライベート録音に近いライブ音源が楽しめます――

1950年8月27日録音:ジャムセッション
 A-1 Scrapple From The Apple
 A-2 Move
 これを誰が録音したのかは不明ですが、ロスにあった「ハイハット」という店で行われたジャムセッションです。それはレギュラー出演していたソニー・クリス(as)、ジミー・バン(p)、ビリー・ハドノット(b)、チャック・トンプソン(ds) というカルテットにワーデル・グレイ(ts)、クラーク・テリー(tp)、そしてデクスター・ゴードン(ts) という豪華な面々が加わった熱演大会!
 まず「Scrapple From The Apple」はチャーリー・パーカーが自作自演で十八番にしていたビバップの有名曲で、初っ端からワーデル・グレイの寛いで良く歌うアドリブが圧巻です。飄々として、どこかせつないフレーズの妙、そしてハードで黒いテナーサックスの音色のコントラストが、もうたまりません♪ 続くクラーク・テリーは、あの駆け足のようなアドリブ展開の中に、これも十八番というマーブルチョコレートのCM曲みたいメロディを演じてくれますから、これには何時もながらニンマリです。しかしソニー・クリスはチャーリー・パーカーへの果敢な挑戦というか、勇猛に突進する妥協の無いスタイルですから、その場は些かギスギスした雰囲気へ……。まあ、こういうモーレツなところが、ソニー・クリスの良くも悪くも凄いところでしょうか。
 演奏はこの後、ジミー・バンのピアノからビシバシにハッスルしたリズム隊の様子が楽しめますが、気になる録音状態もバランス良好で、普通に聴けると思います。
 それは「Move」も同様のレベルで、いよいよお楽しみというデクスター・ゴードンとワーデル・グレイの共演が実現しています。おそらく最初のアドリブソロがデクスター・ゴードンだと思われますが、ハードで熱血なブローには観客も大喜び! 続くクラーク・テリーもノリノリで、ウケ狙いのフレーズを吹きまくりですが、決して憎めません。そしていよいよ登場するワーデル・グレイが負けじと派手なフレーズを演じようとするのですが、ちょいと無理があるというか、やっぱりこの人には、もう少し余裕のある演奏が合っているのではないでしょうか。しかしお客さんは、ここでも熱狂しているのですから、如何に当時のファンが、こういう熱い演奏を望んでいたかがわかります。そして西海岸にもハードバップが萌芽していたこともっ!
 ただし残念ながら、この演奏にはテープ編集の痕跡がはっきり残っています。なにしろ熱いソニー・クリスのアドリブがプチ切れですし、後半にはドラムスとのソロチェンジやゴードン対グレイの対決もあったような雰囲気が……。

1951年12月録音:ワーデル・グレイとロスのスタア達
 B-1 April Skies (SP840A)
 B-2 Bright Boy (SP840B)
 B-3 Jackie (SP853B)
 B-4 Farmer's Market (SP770A)
 B-5 Sweet And Lovely (SP853A)
 B-6 Lover Man (SP770B)
 これは必ずしもプレスティッジがプロデュースしたセッションではなく、バンド側からの持ち込みを買い取った音源と言われていますから、録音年月日についても諸説があるようです。しかしきちんとしたスタジオ録音ですから、音質は良好で、ビバップがハードバップに進化していくような貴重な演奏が楽しめます。
 メンバーもアート・ファーマー(tp)、ワーデル・グレイ(ts)、ハンプトン・ホーズ(p)、ハーパー・コスビー(b)、ローレンス・マラブル(ds)、ロバート・コリアー(per) という面々ですから、興味深々♪ もちろん最初はSPで発売され、後に10インチ盤「Wardell Gray Los Angeles Stars (Prestige 147)」に纏められたものの再収録です。
 肝心の演奏は、まず「April Skies」がアート・ファーマーの泣きのミュートにワーデル・グレイのシブイ歌心という、素敵にスイングしまくった快演♪ ハンプトン・ホーズの歯切れのよいタッチも良い感じです。
 そして「Bright Boy」「Jackie」「Farmer's Market」は、ロバート・コリアーのパーカッションも最高のスパイスという、実に鮮やかな楽しい演奏で、メンバー全員の明るく溌剌としたアドリブが如何にも西海岸です。ただしこれが後の所謂ウエストコーストジャズに直結しているかと言えば、些か疑問なのが面白いところで、個人的には、むしろ東海岸のハードバップに通じていそうな感じです。それはやはり黒人特有のハードでグルーヴィな雰囲気が横溢しているからで、ワーデル・グレイの歌心とノリは唯一無二の素晴らしさ♪ ハンプトン・ホーズもホレス・シルバーっぽいシンコペーションを聞かせてくれます。中でもアート・ファーマーが書いた名曲「Farmer's Market」が、ハードバップ時代にも演奏され続けたのは、さもありなんでしょう。
 しかし「Sweet And Lovely」と「Lover Man」の歌物パラードはパーカッションの存在が些か無用の長物という感じ……。まあ新機軸を狙ったのかもしれませんが、ワーデル・グレイの歌心とメロディフェイクが見事すぎるだけに、ちょっと……。

ということで、今となっては完全にマニアックなアルバムかもしれませんし、好きな人だけが聴けば良い作品というのが、些か正直な気持ちです。ワーデル・グレイの大ファンという私にしても、もしあの時、前述のラジオ番組を聴かなかったら果たして……。

おそらくジャズ喫茶でも鳴ることは、ほとんど無いでしょう。ただしジャズの歴史本あたりでは、けっこう高評価されているようです。

ちなみにこのアルバムのアメリカ盤にはAB面が逆になったブツもあるらしく、それは風景写真がジャケットに使われたものかもしれませんが、未確認です。

そしてこのアルバムの兄弟盤として「Vol.1」も同様に素晴らしい内容ですから、機会があれば、ぜひどうぞ! 拙文がそのきっかけとなれば、望外の喜びです。

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