OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

暫し別れのジミーとルー

2008-10-11 12:03:35 | Jazz

Rockin' The Boat / Jimmy Smith (Blue Note)


ジャズの名門インディーズ「ブルーノート」で一番、リアルタイムの売上に貢献したのはジミー・スミスとルー・ドナルドソンじゃないでしょうか。

もちろん今日に至る長期的なところでは、もっと他の名盤が多数売れているわけですが、自前のプレス工場を持たないマイナーレーベルはレコードのプレス代金は現金決済、しかし配給したレコードの代金回収は後払いなのが当時の常識でしたから、店頭で長期間、つまり店晒しになるような商品は、いくら質が高くても困り物でした。

というようなわけで、売れない商品はプレス枚数も少なく、直ぐに廃盤にしていった事情が窺い知れるのですが、これが売れ行きの良い人気スタアともなれば話は全くの逆で、他レコード会社からの引き抜きや契約更新時のトラブル等々、全く「インディーズはつらいよ」の世界です。

で、前述したジミー・スミスとルー・ドナルドソンの場合も例外ではなく、共に1950年代中頃からブルーノートに売り出してもらいながら、1963年を境にあっさりと他のレーベルへ移籍していくのです。

そしてこのアルバムは、その惜別のセッションともいうべき作品でしょうか……。

録音は1963年2月7日、メンバーはジミー・スミス(org)、クェンティン・ウォーレン(g)、ドナルド・ベイリー(ds) というレギュラートリオにルー・ドナルドソン(as) という目論見どおりの面々♪ そしてなんとジミー・スミスが去った後のブルーノートでは大黒柱のオルガン奏者となるジョン・パットンまでもがタンバリンで花を添えるという趣向になっています――

A-1 When My Dreamboat Comes Home
 ゴスペルをカントリー&ウェスタンで煮しめたような、レイ・チャールズが十八番としている曲調が楽しい演奏です。軽いドドンパっぽいリズムのドラムス、ウキウキするリズムギターを仲間に引き入れたジミー・スミスは、ちょいと胸キュンのゴスペルメロディに執着したアドリブでホノボノさせられます。
 もちろん途中から加わってくるルー・ドナルドソンは、得意のオトボケファンキー♪ 脱力して飄々としながら真っ黒なフレーズを吹きまくりです。

A-2 Pork Chop
 一転して粘っこい、これぞブルース&ソウル♪ これも出だしから実に良い雰囲気が広がってきて、グッと惹き込まれます。しかし意外にも作者のルー・ドナルドソンは脂っ気もほどほどのアドリブという肩透かしがニクイところ♪ その分をジミー・スミスがフォローするという展開が「お約束」なのでした。
 また、それを全てお見通しのギターとドラムスも流石ですねっ♪

A-3 Matilda, Matilda
 まるっきりソニー・ロリンズが出てきそうなカリプソ調の演奏ですが、実はこのトボケた雰囲気は、ルー・ドナルドソンしか醸し出しえない楽しさです。3分ほどの短い演奏でフェードアウトするのが勿体ないですね。

B-1 Can Heat
 これもイナタイR&Bがオトボケで味付けされた、往年の我が国ジャズ喫茶では噴飯物の演奏でしょう。気抜けのビールっぽいドナルド・ベイリーのドドンパドラムスにジョン・パットンとされるタンバリンが実際、ど~でもいいような雰囲気で……。
 ジミー・スミスのオルガンも完全に脱力していますし、このあたりは意図的なんでしょうが、ダレダレのムードは賛否両論でしょう……。
 所謂レイドバックした演奏は、後年のスワンプロックにも通じるものですが、ここではどうなんでしょう?

B-2 Please Send Me Someone To Love
 そんな雰囲気をグッと真っ黒な世界に引き戻すのが、この演奏です。
 曲はお馴染みのブルース歌謡ですから、粘っこくて思わせぶりなルー・ドナルドソンのテーマ吹奏、ツボを外さないジミー・スミス・トリオの伴奏は完全に出来上がった状態で、まさにソウルフル♪
 そしてアドリブパートではジミー・スミスのアグレッシブでブル~~~スなオルガンが炸裂し、これぞっ、涙が流れるままの名演を聞かせてくれます。

B-3 Just A Closer Walk With Thee
 これもせつなくて、しかし妙に楽しい有名なゴスペル曲ですから、このメンバーにはジャストミートの演目でしょう。実際、このイナタイ雰囲気は、かけがえのないグルーヴを醸し出し、しかもそれが自然体という感じで好感が持てます。
 ドドンパのドラムスと井上順に引き継がれるようなリードタンバリンが、最高ですねぇ~♪ 真っ昼間からワインを飲み過ぎたようなルー・ドナルドソン、下半身に力が入らないようなジミー・スミス、眠たいようなリズムギターの妙が渾然一体となって、これもモダンジャズの楽しさのひとつという心地良さです。

B-4 Trust In Me
 そして最後に置かれたのが、シンミリと胸キュンの名曲・名演です。ルー・ドナルドソンの艶やかなアルトサックスと低音重視のオルガン伴奏が、最高にしっくりと馴染んだテーマメロディの素晴らしさ♪ もう最高です。
 もちろんジミー・スミスのオルガンアドリブには、過激さと和みが同居する十八番の展開が聞かれますし、短めの演奏ですが、まさにハードボイルド小説のラストシーンのようなドライな感傷が……。ベタベタの甘さに流れる寸前の忍び泣きには心底、シビレます。

ということで、冒頭では「惜別のセッション」なんて書きましたが、聴いてみれば、演じているミュージシャンにはそれほどの感慨や気負いがあったとは感じられません。肩の力の抜け具合が実に良い感じで、和みます。

ちなみにジミー・スミスは以降、ヴァーヴへ移籍して、より大衆的な人気を得るわけですが、一方のルー・ドナルドソンもアーゴと契約して、ますますお気楽な路線を歩むことになります。

そうした経緯から、真っ向勝負のリアルジャズが好まれる我が国では些か軽い扱いとなる2人ですが、道こそ違え、やっていた事は当時の最先端に違いありません。

しかし今更言うまでもなく、ジャズは楽しいもんなんですよねっ♪ このアルバムを軽く楽しんだって、バチはあたらないでしょう。

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やっと会えたね、ケニー・バレル♪

2008-10-10 12:26:12 | Jazz

A Generation Ago Today / Kenny Burrell (Verve)

何時か何処かで、ふぃっと耳にしたメロディや演奏が心を捕らえて放さない、そんな経験は、きっと皆様にもあろうかと思います。

そしてそれに再会、というよりも捜し求めて見つけた時の喜びは、本当にたまりませんね。本日は私にとっての、そんな1枚です。

メンバーはケニー・バレル(g)以下、ロン・カーター(b)、グラディ・テイト(ds)、フィル・ウッズ(as,cl)、リチャード・ワイアンズ(p)、マイク・マイニエリ(vib) が参加し、録音は1966年12月~1967年3月に行われました――

A-1 As Long As I Live (1966年12月20日録音)
 これこそ、私が長年探し求めて再会の喜びに浸った演奏です。
 あぁ、このソフトなボサロックの心地良さ♪ 浮遊感が最高の彩というマイク・マイニエリのヴァイブラフォン、スカッとしたグラディ・テイトのドラムス、そして軽いアレンジメントの妙♪ ケニー・バレルのメロディフェイクも最高です。
 実はこのあまりの feel so good な雰囲気に私は惑わされ、主役のギタリストをケニー・バレルではなく、チャック・ウェインかマンデル・ロウ、あるいはビリー・ストレンジ、もしかしたら我が国の誰かかなぁ……? と思いこんでいたのですから、現物が見つかるわけもありません。
 まあ、これも「一目惚れ聞き」の功罪というか、おかげさまで様々なラウンジ系ギタリストの演奏にも接することが出来て、結果オーライだったわけですが……。それにしてもケニー・バレルだったとは、完全に盲点でした。
 3分にも満たない短い演奏ですが、フィル・ウッズのクラリネットも素敵な隠し味になっていますし、何度聴いても飽きません。全ての音楽ファンに捧げたい、私は本当にそう思っています。

A-2 Poor Butterfly (1967年3月28日録音)
 これも非常にソフト&ウォームな演奏で、まさにラウンジ系にどっぷりの雰囲気ですが、テーマメロディを温かく吹奏するフィル・ウッズのアルトサックスからは、本物のジャズが薫ってきます。
 ケニー・バレルも力まないアドリブを聞かせてくれますし、中盤からのグイノリではフィル・ウッズが本領発揮のウネリ節! ロン・カーターのペースも基本に忠実なウォーキングで快感です。
 いゃ~、全くほど良い温かさの美味しいスープのような♪

A-3 Stompin' At The Savoy (1967年3月28日録音)
 これも楽しいスタンダード曲をハートウォームに演奏したソフトパップでしょう。ここでもロン・カーターのペースが素敵な響きとウォーキングを聞かせてくれますよ。
 そしてケニー・バレルのギターが実にツボを押さえた快演で、アドリブソロはもちろんのこと、伴奏も上手いですねぇ~♪ フィル・ウッズも肩の力が抜けた感じで、こういう雰囲気こそがロックやフリーに押されていた1960年代後半のジャズ本流の中では、実用的に求められていたものかもしれません。
 地味な演奏ですが、これぞっグルーヴィ!

A-4 I Surrender Dear (1966年12月20日録音)
 原曲は胸キュン系の素敵なメロディですから、ケニー・バレル以下、バンドの面々もシンミリと味わい深い演奏を心がけているようで、特にギターのソフトな響きと黒いフィーリングの融合は実に見事だと思います。このあたりが同時代の黒人ギタリストの中でも飛びぬけた魅力なのかもしれません。

B-1 Rose Room (1967年3月28日録音)
 このアルバムの中では一番、ジャズっぽいというか、演奏の妙技が味わえるトラックで、まずロン・カーターのペースワークが素晴らしいですねぇ~♪ フィル・ウッズが、ある有名なメロディを引用してリフを作る稚気も微笑ましく、グイノリながら必要以上に熱くならないアドリブとか、上手く聞き易い方向性を維持しているのは流石だと思います。
 もちろんケニー・バレルも熱気と巧さのコントラストが絶妙で、決して「濃い」ハードバップは演じないという意図が感じられますが、それが完全に成功した稀有な例かもしれません。
 このあたりはプロデューサのクリード・テイラーが、さもありなんの手腕でしょうね。

B-2 If I Had You (1967年1月31日録音)
 これまた古いスタンダード曲を素材にソフトなモダンジャズを聞かせる名演で、強いビートを伴いながら決して熱くならないところは、素敵なホテルの夜のラウンジ♪ 美女といっしょにグラスの世界です。

B-3 A Smooth One (1966年12月16日録音)
 ペニー・グッドマン(cl) やチャーリー・クリスチャン(g) の名演が歴史になっている曲ですから、バンドの面々も意気込みが違う感じで、まずはグラディ・テイトが本領発揮のビシバシドラミング♪ フィル・ウッズが艶やかに歌いあげれば、ケニー・バレルもソロに伴奏にキメまくりです。
 全体のアレンジも気が利いていて、思わずニヤリですよ。

B-4 Wholly Cats (1966年12月16日録音)
 オーラスもペニー・グッドマンに捧げたような演奏で、アップテンポでスイングしまくったバンドの勢いが素敵です。特にケニー・バレルが、ようやく思う存分に弾けた感じで、アドリブ後半では珍しくもマジギレしたようなコード弾きに熱くさせられます。
 まあ、欲を言えばフィル・ウッズのクラリネットソロが聞きたかったですねぇ~。

ということで、なかなかお洒落なモダンジャズが楽しめる1枚です。なによりもメロディを大切にしているのが良いですねぇ~~♪

そして冒頭の話に戻れば、私が長年探し求めた末に巡り合ったのは、某地方都市へ出張した時に宿泊したホテルの喫茶店で、ハッとした私は早速ウェイトレスに尋ねたところ、このアルバムのCDを持ってきてくれたのです。

あぁ、この時の感激は筆舌につくしがたいところで、これは決して日頃から大袈裟なサイケおやじ的な表現ではなく心底、そうでした。

もちろん、そのまま足はレコード屋へ♪ そして運良く当時は紙ジャケット仕様で売っていたこのブツをゲットしたというわけです。あぁ、思えばこの「As Long As I Live」を最初に聞いたのも、日本橋にあった小さな喫茶店だったなぁ……。

そういうわけですから、このアルバムはモダンジャズでありながら、普段の生活にもしっくりと馴染みます。

如何にも当時の所謂スウィンギン・ロンドンなジャケットデザインもジャズっぽくありませんし、実はダブルジャケット仕様ですから、裏ジャケを見開いた時には粋な仕掛けが用意されていて、なかなか嬉しいですよ。それは現物を見てのお楽しみ♪ 告白すると私は、それゆえにアナログ盤までゲットしてしまったです。

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これで暗黒!? メッセンジャーズ

2008-10-09 11:20:46 | Jazz

A Night In Tunisia / Art Blakey's Jazz Messengers (Vik / bluebird = CD)

CD時代になって特に顕著となったのが未発表発掘音源のオマケ付き発売です。これは長時間収録可能というCDの特性を活かした企画ですが、同様な事はLP時代にもありました。しかしもうひとつの時代の要請というか、やはり黄金期の大物ミュージシャンの演奏を、もっと聴きたい! というファンの気持ちの代弁は、つまりは「金になる」という本音であったとしても、やっぱり嬉しい企画です。

そして私のような者は、そんな目論見には簡単にひっかかってしまうわけで、本日ご紹介のCDも今更ながら先日発見し、即ゲットしてきたブツです。

主役はアート・ブレイキーとジャズメッセンジャーズという、ジャズ界では屈指の名門バンドで、この作品そのものはアナログLP時代から我が国では廉価発売の定番だったものです。しかし決して名盤ガイド本に載ることは少ないアルバムで、それは誰が言ったか、所謂「メッセンジャーズの暗黒時代」に作られたからだとか……。

う~ん、そうかなぁ……。実は告白すると、そんな事を知らなかった若き日の私は前述の廉価盤に飛びつき、けっこう愛聴している1枚でした。

録音は1957年、メンバーはビル・ハードマン(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ジョニー・グリフィン(ts)、サム・ドッケリー(p)、スパンキー・デブレスト(b)、アート・ブレイキー(ds,per) という、ピアノとベースが些か無名で弱いのは確かですが、それでも夢のようなバンドです――

01 (A-1) A Night In Tunisia / チュニジアの夜
 アート・ブレイキー、そしてジャズメッセンジャーズと言えば、まずこの曲でしょう! これが出なければ治まらないほどのライブ定番曲になっていますが、それは出だしからメンバー全員が打楽器を持ってアフロビートの饗宴、さらにアート・ブレイキーが十八番という土人のリズムを炸裂させるという最高のツカミから、お馴染みのリフとテーマメロディが合奏される展開で、そのパターンが最初に公式レコード化されたのが、ここでの演奏です。
 もちろん曲そのものは以前から、例えば特に有名な「A Night At Birdland Vol.1 (Blue Note)」でも聴かれますが、このイントロからの打楽器乱れ打ち大会があってこそ、ジャズメッセンジャーズのバージョンが決定版として世間から認知されたのではないでしょうか。
 しかもここでは強力な3管編成とあって、ビル・ハードマンがリードしてジャッキー・マクリーンに受け渡すテーマの合奏も厚みがあり、いよいよアドリブへ突入するところのブレイクも、ジャッキー・マクリーンの若気の至りが何とも憎めません。
 また落ち着きのないケニー・ドーハムという感じのビル・ハードマン、強引で放埓なジョニー・グリフィンと続く熱演アドリブパートは、やっぱりハードバップ保守本流の魅力がいっぱい! キメにキメまくるアート・ブレイキーのドラムスも圧巻です。
 ただしピアノが確かに弱いです。小型ホレス・シルバーという狙いは分かるんですが……。
 ちなみにこのCDのリマスターは素晴らしく、特に打楽器やベースの音のキレが私有する日本プレスの廉価盤とは雲泥の差! それゆえに弱いと書いたピアノ響きさえも熱気に満ちた感じに仕上がっていて、結果オーライでしょうね。

02 (A-2) Off The Wall
 ジョニー・ブリフィンが書いた豪快至極なハードバップ曲で、とにかくガサツな熱気に満ちたテーマの合奏から、バンドが一丸となったグルーヴは強烈! 個人的にはこのアルバムの中で最高の演奏だと思っているほどです。
 アドリブパートでも、まさに青春の情熱というジャッキー・マクリーンの号泣節♪ B級グルメの味わいも深いビル・ハードマン、意気込み過ぎてリズムを踏み外しながら熱い思いを表現するジョニー・グリフィン! 親分のアート・ブレイキーも強烈なバックピートを生み出すハイハットや効果的なリムショットで存在感を強烈にアピールしていますから、危なっかしいサム・ドッケリーにも必死さがあって、好感が持てます。

03 (B-1) Theory Of Art
 初っ端から猛烈なアート・ブレイキーのドラムスがイントロとなって始まるのが、この熱気に満ちたビル・ハードマンのオリジナル曲です。サビのアフロな混濁も最高のアクセントですねっ♪
 そしてジャッキー・マクリーンが痛快に疾走して突入するアドリブパートには、これぞハードバップの黄金期という勢いが満点で、何故にこれが「暗黒時代」だなんてっ!? ビル・ハードマンも前傾姿勢の熱演ですし、ジョニー・グリフィンに至ってはリズム隊を置き去りにしそうな唯我独尊! う~ん、ピアノのサム・ドッケリーが……。
 ですから、ついにアート・ブレイキーが怒りのドラムソロを大噴火させる展開が見事な大団円に繋がっています。

04 (B-2) Couldn't It Be You ?
 これはジャッキー・マクリーン特有の「節」が出まくったオリジナル曲で、ちょいと凝ったアレンジの合奏もたまりません。もちろんアドリブパートでの熱演は当然が必然という雰囲気ですが、いきなりジョニー・グリフィンがカッコイイ熱血を演じてしまいますから、ジャッキー・マクリーンは危うい青春物語です。あぁ、これが実に胸キュンというか、せつない片思いのような感じで高得点♪ その狭間にあって見事なアドリブ構成を聞かせたビル・ハードマンが、実は一番曲想に合っている感じがします。
 各人のアドリブの背後で景気をつけるホーンのリフもツボを押さえていますし、アート・ブレイキーのドラミングも全篇に冴えわたりで、リーダーの貫禄を示しています。
 ちなみにサム・ドッケリーも合格点ですよ。

05 (B-3) Evans
 ソニー・ロリンズが書いた猛烈な勢いのハードバップ曲ですから、ジャッキー・マクリーンがいきなりの過激な姿勢を聞かせても、それはニンマリしてしまうだけです。
 ビル・ハードマンの直線的なトランペットも好き嫌いはありましょうが、ここでは結果オーライだと思いますし、ジョニー・グリフィンの如何にも「らしい」アドリブも最高です。
 それと大技・小技を駆使したアート・ブレイキーのドラミングが本当に素晴らしいですねっ♪ クライマックスのソロチェンジの部分は、ここでもニヤリとさせられる仕掛けの連続です。

06 A Night In Tunisia (alternate take)
07 Off The Wall (alternate take)
08 Theory Of Art (alternate take)
 以上の3曲がお目当ての未発表テイクで、まず「A Night In Tunisia」は演奏前の打ち合わせからスタートします。そして豪快なドラムソロと打楽器の饗宴というパターンは同じですし、全体にマスターテイクと比べても遜色が無い出来だと思いますが、ビル・ハードマンのアドリブはこちらに無軌道なエネルギーが溢れている感じで、私は好きです。
 ちなみに音質もマスターテイクに比べて、さらに鮮やか! パーカッションを敲く音のニュアンスが実に生々しいですねぇ~。もちろん各楽器の鳴りも太くなっている気がします。
 続く「Off The Wall」は、些かバンド全体のノリがマスターテイクに比べてもっさりした感じですが、これはこれで充分に凄いハードバップでしょう。ジャッキー・マクリーンが尚更にギスギスしていて、グッと惹きつけられます。またジョニー・グリフィンも、こちらの方が凄いと私は思います。
 そして「Theory Of Art」が、これまたオクラ入りしていたとは思えない仕上がりで、アート・ブレイキーのドラミングはさらに派手になっていますし、サビの混濁した雰囲気やジャッキー・マクリーンのアドリブブレイクも冴えたテーマ部分の勢いは最高! う~ん、これが聴けるとは長生きはするもんですねっ♪

ということで、アルバム本篇の素晴らしさは言わずもがな、ボーナストラックの充実度も圧巻の再発CDです。既に述べてようにリマスターも秀逸ですから、まさに真正ハードバッパー達の生々しさに接する喜びがいっぱい詰まっているのです。

ちなみにブツそのものはデジパック仕様で12頁のブックレットも付属♪

繰り返しますが、これで「暗黒時代」と呼ばれていたら、アート・ブレイキーも草葉の陰でなんとやらでしょう。傑作や名盤の多いジャズメッセンジャーズの諸作中でも、その場の勢いや熱気に関しては上位の1枚ではないでしょうか? このCD再発を機会に、ぜひとも聴いてみてくださいませ。

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チャーリー・パーカーを聴く

2008-10-08 12:27:10 | Jazz

Charlie Parker On Dial Vol.4 (Dial / Spotlite)

ジャズを聴き始めると必ず突き当たるのが、チャーリー・パーカーという偉大な山脈です。

とにかくジャズの歴史書やガイド本には必ず出てくる名前ですし、実際、ビバップと呼ばれた元祖モダンジャズを創成し、以降のジャズ演奏家は絶対にその影響力から逃れられないという神様ですから!

しかしそういう偉人であるにも関わらず、私が通い始めた1970年代のジャズ喫茶では、チャーリー・パーカーのレコードは鳴らないのです。それは結論からいうと、鳴らすべきレコードが無かったということなのですが……。

つまりチャーリー・パーカーがバリバリで活躍していた1940年代から、その死に至る1955年頃までの音楽は、SPという3分間前後の演奏しか収録出来ないメディアによって記録されていたのです。

当然ながら音質も一般的なレベルでは良いとは言えず、マスターの劣化によってチリチリバチバチのノイズが当たり前という世界でした。

さらにその天才性ゆえに、あらゆる音源が求められた結果、所謂海賊盤が尽きることなく出回り、加えてオリジナルマスター音源が契約の関係等もあって廃盤&散逸状態……。もちろん当時の諸事情から、きちんとアルバムを制作する企画もなく、これでは普通のジャズファンが聴こうとしても無理からん状況が続いていたのです。

ところが実際に聴いてみると、チャーリー・パーカーという天才のエネルギッシュなアドリブ、豊かで野太いアルトサックスの音、驚異的なリズム感、複雑でスリル満点のフレーズの妙、感情の起伏をストレートに表現する瞬間芸……、等々に圧倒されるのが最終到達地点です。しかしそこへ至る道は険しくも遠いのが、もうひとつの真実でした。

さて、そんな実情の中、私は当時のNHKラジオのジャズ番組でチャーリー・バーカーの特集を聴くことが出来ました。その解説をされたのが、先日の訃報も記憶に新しい、ジャズ評論家の大和明氏です。

それは非常に分かり易く、しかも要点に沿った代表的な名演を聞かせてくれたのですから、私のような者は大いに勉強になりました。というよりも、感動して薫陶をうけたというべきでしょう。そしてその中で、「ダイアル」というマイナーレーベルに残された音源が、その全盛期と言われている事を知ったのです。

しかし問題は、その演奏を聴くためのレコードの存在です。ちょうどその頃、イギリスの研究家が編纂したダイアル音源の集大成LPが6枚、輸入盤で売られていましたが、これが1枚三千円ほどしていましたし、国内盤は7枚組の箱物で定価も一万四千円だったと記憶していますから、とても……。

それでも青春の情熱というか、執念に突き動かされていた私は、なんとか中古でイギリス盤をまずは1枚入手して、それこそ修行のように聴いていた日々が確かにありました。

録音は1947年10月28日、メンバーはチャーリー・パーカー(as)、マイルス・デイビス(tp)、デューク・ジョーダン(p)、トミー・ポッター(b)、マックス・ローチ(ds) という黄金のレギュラークインテットです――

 A-1 Dexterity / D 1101-A
 A-2 Dexterity / D 1101-B (master) / SP1032
 A-3 Bongo Bop / D 1102-A (master) / SP1024
 A-4 Bongo Bop / D 1102-B / SP1024 (alt.)
 A-5 Dewey Square / D 1103-A / SP1056 = Air Conditioning
 A-6 Dewey Square / D 1103-B
 A-7 Dewey Square / D 1103-C (master) / SP1019
 B-1 Hymn / D 1104-A (master) / SP1056
 B-2 Hymn / D 1104-B = Superman
 B-3 Bird of Paradise / D 1105-A / SP1032 (alt.)
 B-4 Bird of Paradise / D 1105-B
 B-5 Bird of Paradise  / D 1105-C (master) / SP1032
 B-6 Embraceable You / D 1106-A / SP1024 (alt.)
 B-7 Embraceable You / D 1106-B (master) / SP1024

――という収録曲目からも分かるとおり、このアルバムの企画そのものはチャーリー・パーカーが同レーベルに残した音源を極力、纏めたものです。それはマトリックスと呼ばれる演奏録音毎に付された番号順による編集ですから、バンドがひとつの曲を完成させていく過程も興味深く、当然ながら未完成の演奏も含まれています。

しかしチャーリー・バーカーのような天才は、その全てに必ず聴きどころがありますから、鑑賞しようと気持ちを入れれば、後は自然に感動する時間が過ごせるのです。

ちなみに各演目の後ろにつけた記号はオリジナルSP、つまり初出のマスターテイクを示すために私が調べたものですが、なんと驚いたことに、複数の資料で重複するカタログ番号と演奏の違い! これは、どう解釈するべきなんでしょうか……?

ここでは「Bongo Bop」「Bird of Paradise」「Embraceable You」の3曲が、それに該当するのですが、おそらくSPの初回プレスとセカンドプレスでマスター音源が変えられたのは、意図的だったと思います。

それはプレス用スタンパーの劣化による事もあるでしょうが、チャーリー・パーカーの天才性に感銘を受けていたレーベル主催者のロス・ラッセルが、少しでも多くのテイク=アドリブを聴いて欲しいという熱意の表れかもしれません。

とにかくそれが後世のチャーリー・パーカー鑑賞&研究に面白みと混乱を招いたことは賛否両論! ダイアルレーベルで纏められたLPはもちろんの事、権利が移って他社から出されたアルバムでも徹底した編集は極めて僅かだったと思われます。

その中で、どうにかマスターテイクとされるものを集めたのは「Bird Symbols (Charlie Parler Records)」という、チャーリー・パーカーの未亡人のドリスが設立したレコード会社から、1960年代に入って発売されたアルバムが1枚、あるだけでした……。

肝心の演奏は、どれもモダンジャズの真髄といって過言ではないトラックばかりです。特にチャーリー・パーカーのアドリブは短い演奏時間の中に極力、自分の表現と強い意志を込めたもので、個人的感想では最初のテイクが一番、スリルとインスピレーションに溢れていると感じます。しかし他のバンドメンバーは些か纏まりが無かったり、ミスったり……。ですから完成マスターとされるのは、たいていは最後のテイクとなるのです。

まず「Dexterity」は、いきなり Take-A からチャーリー・パーカーが全開した猛烈アドリブ! 破綻寸前の緊張と緩和の極北に圧倒されます。そしてそれが Take-B になると絶妙の纏まりになっているんですねぇ~~♪ マイルス・デイビスも中庸の音色で、明らかに Take-B が優れていますし、溌剌としてグルーヴィなリズム隊も黒人らしいビート感に溢れています。

それは「Bongo Bop」にも継承され、微妙にラテンビートを混ぜこんだ、本当に黒っぽいリズム感が聞かれますから、チャーリー・パーカーのアドリブにもブルースとソウルがいっぱい♪ これは明らかに Take-A の方がインパクトが強いですから、マスターテイクになるのもムベなるかなです。しかし Take-B も捨て難い魅力がありますから、会社側が両テイクを発売したのも当然という感じです。それをこうして続けて聴ける幸せ♪ 大切にしたいですね。

続く「Dewey Square」はエキセントリックな黒人アングラ音楽とされていたビバップにしては和みのあるテーマメロディとグルーヴィなリズムが一体となった、これぞモダンジャズという曲です。実際、テイク毎に別アレンジがあったりして侮れません。もちろんチャーリー・パーカーは何れも完璧なアドリブですが、バンドの纏まりとしては、やはり最後の Take-C に軍配が上がります。マックス・ローチのシンバルワークとデューク・ジョーダンの好演も印象的♪

そして強烈なハイライトが「Hymn」です。いきなりスタートするチャーリー・パーカーの猛烈なアドリブ! まさに大嵐という、めくるめく世界は圧巻です。それがブチ切れ気味に終った直後に合奏される讃美歌みたいなテーマメロディも素敵ですねぇ。曲タイトルに偽り無しで、両テイクともにモダンジャズの宝物でしょうね。

しかし一転して和むのが「Bird of Paradise」で、一応はチャーリー・パーカーの作曲されていますが、明らかに有名スタンダード「All The Things You Are」の作り返しというか、モロに同じメロディがいやはやなんともです。しかしチャーリー・パーカーのフェイクの上手さは流石ですし、マイルス・デイビスも演奏テンポが緩い所為もあって、落ち着いた好演でミュートの魅力を聞かせてくれます。う~ん、それにしてもスタンダードを吹くチャーリー・パーカーも最高に素敵ですねっ♪

そのあたりの究極が「Embraceable You」で、なんとチャーリー・パーカーはお馴染みのテーマメロディを最初っからアドリブに変奏して最後まで吹ききってしまうのです。あぁ、この絶妙のせつなさと優しい雰囲気! 両テイクともに、何回聴いても感動して震えがくるほどです。もちろん今では歴史という最高のイントロを作った畢生のデューク・ジョーダン、シミジミとしたミュートの得意技を完成させつつあったマイルス・デイビスの味わい深さも印象的♪ 特に Take-B はチャーリー・パーカーというよりも、モダンジャズ至高の名演だと断言してしまいます。

ということで、かなり思い入ればっかりの文章になってしまいましたが、修行的な聴き方云々は別にして、やはり「ジャズを聴く」という喜びが、びっしり詰まった名演集だと思います。

CD時代の今日では、この中からマスターテイクだけを簡単に抽出して聴くことも出来ますから、疲れることもないはずですが、やはり気分によっては一気にセッション全体の雰囲気に浸るのも、また快感でしょう。

ちなみに録音は今日の水準からすれば稚拙かもしれませんが、その生々しい音の粒立ちはリアルな素晴らしさ! ダイアルというレーベルはもちろんインディーズでしたが、レコーディングには最新の技術を要求していたのでしょう。実に生々しい音作りだと感じます。

思えば当時の私は、「ジャズを聴く」というイノセントな行為に、それも素直に没頭出来た幸せな時期でした。それが時を経るにしたがってオリジナル盤がどうの、ジャケットがどうのと、物欲と執着の迷い道から泥沼に落ち込むジャズ地獄……。

そんな私は時々、このあたりのチャーリー・パーカーを聴ける盤を取り出しては救いを求め、懺悔するのでした。

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ハンコックの二番煎じも芸のうち?

2008-10-07 14:11:01 | Jazz

The Prisoner / Herbie Hancock (Blue Note)

ハービー・ハンコックと言えばハードバップ末期から新主流派、そしてブラックファンクからフュージョン、ネオ4ビートやヒップホップまで、何時の時代も名盤&人気盤を幾つも残してきたピアニストですが、それゆえに日陰者扱いのアルバムも確かにあります。

例えば本日の1枚は傑作盤「Speak Like A Chile (Blue Note)」の続篇というよりも、その進化形かもしれなのに、ジャズ喫茶でも敬遠気味だったと記憶しています。

なんとも言えないメタリックでブラコンみたいなジャケットデザイが、正統派ジャズっぽくなかったのも原因でしょうか。

録音は1969年4月、メンバーはハービー・ハンコック(p,el-p)、バスター・ウィリアムス(b)、アルバート・ヒース(ds) のピアノトリオを核に、ジョニー・コールズ(flh)、ガーネット・ブラウン(tb)、ジョー・ヘンダーソン(ts,fl)、ヒューバート・ロウズ(fl)、ジェローム・リチャードソン(fl,bcl)、トニー・スタッド(tb)、ロメオ・ペンケ(bcl)、ジャック・ジェファーズ(tb) が参加しています――

A-1 I Have A Dream
 この脱力したボサロック♪
 シャープさとズンゴトが同居した8ビート、それとモヤモヤしたテーマメロディが、ジャズ喫茶のもうひとつの楽しみである居眠りモードを誘います。トロンボーンやフルート、バスクラリネットで作りだされるカラフルなホーンセクションの響きも、実に良いですねぇ~~~♪
 もちろんハービー・ハンコックのピアノからはタイトルどおりに夢見るようなフレーズ、フワフワとして刹那的なアドリブが放たれ、些か小技に執着するアルバート・ヒースのドラムスや重心の低すぎるバスター・ウィリアムスのベースとの相性もバッチリじゃないでしょうか。
 そしてジョニー・コールズのフルューゲルホーンが「マイルスもどき」を演じれば、ジョー・ヘンダーソンが浮つきながらも狂おしいテナーサックスを聞かせるという展開ですから、演奏はどこまで煮え切りません。
 しかし、それが本当にかけがえのない雰囲気で、聴くほどに味わいが深まるのでした。

A-2 The Prisoner
 このアルバムタイトル曲も、やっぱりフワフワとしていながら落ち着きのないリズムパターン、不安感を醸し出すホーン隊のハーモニー、アルバート・ヒースの加熱気味のドラミングというミスマッチが……。
 しかしジョー・ヘンダーソンが熱血のアドリブに突入すれば、あたりは完全に新主流派の激烈モード節! ホーン隊がタイミング良くぶっつけてくるリフも刺激的です。
 さらにハービー・ハンコックのパートに至っては、バスター・ウィリアムスがハッスルしたペースワークで後押しする所為もありましょうが、何かに急き立てられるようなアドリブ展開が珍しく、アルバート・ヒースのドラムミングも怖さが増していくのです。
 そして一端は収束しかけた演奏が、ジョニー・コールズのリードによって再び混濁していく終盤の勢い! ラストで仕掛けられたバンド全員の稚気もニクイです。

B-1 Firewater
 このアルバムは当然ながら、ハービー・ハンコックのオリジナルがメインになっていますが、この曲だけはバスター・ウィリアムスが書いたもので、それゆえに普通のハードバップ&モード系の演奏になっています。
 メンバー各人のアドリブも平凡といっては失礼かもしれませんが、安心感があるのは高得点でしょう。ハービー・ハンコックも多彩な伴奏の上手さ、アドリブの冴えはマイルス・デイビスのバンドでの演奏と同じ味わいがあって、充分に納得出来るものでしょう。
 アルバート・ヒースがトニー・ウィリアムスを演じているのは、言わずもがな、思わずニヤリですよっ♪

B-2 He Who Lives In Fear
 これが前述した名盤「Speak Like A Chile」から直結している演奏で、ハービー・ハンコックの浮遊感に満ちたピアノが堪能出来ます。しかしそれが決してフワフワしたものだけになっていないのは、ベースとドラムスに厳しさがあるからで、それはもちろんハービー・ハンコックの指示によるものでしょう。
 トリオは意図的にテンポを変えそうで変えないという、こちらの期待を裏切ったりしてスリル満点! このあたりは「マイルス・デイビス」を簡単にやらないぞっ、という決意表明かもしれません。ラストテーマ直前に入ってくるジョニー・コールズがマイルス・デイビスに聞こえるのも意図的でしょうね。
 ちらりと響くハービー・ハンコックのエレピが、実に憎たらしいです♪ 

B-3 Promise Of The Sun
 オーラスも「Speak Like A Chile」を継承したサービス路線♪ 刺激的なアルバート・ヒースのドラミングに煽られて、如何にもハービー・ハンコックというピアノのアドリブがたまりません。バスター・ウィリアムスのペースもグイノリです♪
 しかし正直言えば、やっぱり二番煎じでしょうね……。これなら本家「Speak Like A Chile」を聴いたほうが良いというのが本音です。まあ、このあたりに作品の評価の低さがあるような気もしています。

ということで、結局は不人気(?)なのも実感されるアルバムではありますが、個人的には裏を返したというか、捨て難い魅力を感じる1枚です。

ちなみにハービー・ハンコックはこれ以降、レーベルの移籍やレギュラーバンドの不安定さもあって試行錯誤の時代へ入るのですが、近年ではそこでの演奏も局地的には評価されているようですから、この作品も……。まあ、無理でしょうか?

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ジャッキー・マクリーンの陰鬱と情熱

2008-10-06 13:14:45 | Jazz

Destination Out! / Jackie McLean (Blue Note)

ジャッキー・マクリーンは説明不要というモダンジャズの人気スタアで、名演&人気盤も多数残していますが、反面、ほとんど聴かれていないリーダー盤も多いんじゃないでしょうか?

例えば、本日の1枚なんて、結論から言えば陰鬱な雰囲気に支配された、ある意味では昭和40年代のジャズ喫茶にはジャストミートしている内容だと思うのですが、否、やっぱりねぇ……。

しかしジャッキー・マクリーンに対する一般的なイメージの「青春の情熱」は、ここでも絶対の存在感! そしてそれゆえに聴きとおさずにはいられない「何か」を秘めた作品だと思います。

録音は1963年9月20日、メンバーはジャッキー・マクリーン(as)、グラチャン・モンカー三世(tb)、ボビー・ハッチャーソン(vib)、ラリー・リドレー(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という新旧入り乱れの過激な面々です――

A-1 Love And Hate
 非常に重苦しい、淀んだ空気が支配する陰鬱なスロー曲です。作曲はグラチャン・モンカー三世という、当時は新進気鋭の若手トロンボーン奏者で、この人はジャッキー・マクリーンに見出されたかのようにバンドレギュラーとなって頭角を現しました。
 ちなみに一緒にジャッキー・マクリーンに引き立てられたのは、あの天才ドラマーのトニー・ウィリアムスでしたが、ジャッキー・マクリーンのバンドではアルバム1枚に参加した直後、マイルス・デイビスに引き抜かれ、グラチャン・モンカー三世だけが取り残されたような雰囲気ですが……。実はそんなこんなで、この作品ではオリジナルを3曲も提供するという厚遇を受けています。
 名前の読み方にしても、「Grachan」という綴りなので、私の世代ではおそらく「グラチャン」と呼んでいるのが普通だと思われますが、実際には「グレィシャン」と発音するらしいですね。
 まあ、それはそれとして、ここでは「グラチャン」で統一しておきますが、その名前同様に些か保守本流から外れたようなトロンボーンの響きには、明らかに当時台頭してきた「新主流派」としての主張が込められているようです。
 しかしアドリブパートに入っては、やっぱりジャッキー・マクリーンの変わらぬ「青春の情熱」が迸ります。演奏全体を覆う不気味な雰囲気に臆することのない真っ向勝負! 太めの音色でギスギスとしたフレーズはジャズ喫茶のような暗い空間で、じっとスピーカーと対峙している時こそが最高に魅力的という瞬間を、それこそ何度も作りだしています。。
 さらに豪放なひねくれという感じのグラチャン・モンカー三世、クールに甘いメロディをひけらかすボビー・ハッチャーソン、地味でもヤバいロイ・ヘインズのブラシ、我儘なラリー・リドレーという自己主張の強さも、流石はブルーノートという響きが楽しめるのでした。

A-2 Esoteric
 変態的なテンションの高さが楽しめる、これぞ新主流派という演奏で、随所に施された厳しい仕掛けをすり抜けながら熱血のプローを聞かせるジャッキー・マクリーン! 緊張感を煽るロイ・ヘインズのシャープなドラミング、全く新しいボビー・ハッチャーソンの伴奏と合の手もエグイと思います。
 それにしても全く聴かせるためだけにあるようなジャズですねぇ~。グラチャン・モンカー三世も自作曲だけあって、爆裂のアドリブが内側に向かって沈澱していくような自虐の展開! 今となっては些か時代錯誤の雰囲気ですが、実はこういう部分こそがリアルタイムでは求められていたのかもしれません。
 しかしロイ・ヘインズのドラミングだけは、今でも実に新鮮で刺激的です。特にボビー・ハッチャーソンのアドリブの背後で刻まれるシンバル&ハイハットの潔さ!

B-1 Kahlil The Prophet
 このアルバムで唯一というジャッキー・マクリーンの自作曲も、その実態はドロドロしてスパイスが効いた、まさにリアルな新主流派がモロ出しのテーマが怖い感じです。
 しかしアドリブパートではスピード感満点に突進するジャッキー・マクリーンの激情節が堪能できますよっ♪ まさにA面の憂さを晴らすような快演だと思います。フレーズの息継ぎで思わず出してしまう、あの唸り声も良い感じ♪
 もちろん共演者も熱演で、些かスピードに乗り遅れ気味のグラチャン・モンカー三世は怒ったような音色で対抗していますが、ボビー・ハッチャーソンは新鮮なハーモニーの伴奏と痛快無比なアドリブソロで圧巻の存在感を示します。
 そして何よりも凄いのが若々しいロイ・ヘインズのドラミングで、オカズが多くてメシが無いような独特のビート感が冴えまくり! シンバルワークの物凄さはトニー・ウィリアムスも真っ青でしょう。それをがっちりと受け止めて逃げないラリー・リドレーのウォーキングも流石だと思います。
 ですからラストテーマのテンションの高さも強烈!

B-2 Riff Raff
 こうして迎えるオーラスも、変態メロディと熱いグルーヴが蠢いたブルース! まずビシバシにキメまくるロイ・ヘインズのドラミングが強烈ですし、ボビー・ハッチャーソンの伴奏と合の手も、実にたまりません。
 もちろんジャッキー・マクリーンは期待を裏切らない号泣ですし、グラチャン・モンカー三世も野太い咆哮を聞かせてくれますが、サイケおやじはどうしてもリズム隊中心に聴いてしまうほど、ここでのグルーヴは強烈です。
 う~ん、ロイ・ヘインズ恐るべし!
 ですからボビー・ハッチャーソンのクールなカッコ良さが尚更に目立つという好結果が、さもありなん♪ 思わず腰が浮いてしまいます。

ということで、微妙な先入観もあったりして、あまり人気が無いアルバムかもしれませんが、個人的には愛聴盤のひとつになっています。テンションが低い時に聴くA面、逆に「ここは一番」という景気付けにはB面という使い分けが、その実態です。

その全篇を支配するのは、「ずぶとい」としか言いようのない音の魅力で、モノラル盤では団子状に凝縮された迫力が、ステレオ盤では個々の楽器の鳴りがエッジ鋭く聞かれますから、両ミックス共にジャズの基本的な魅力がいっぱい♪ ついついボリュームを上げてしまいます。

そしてその中では、ロイ・ヘインズの若々しいドラミングが本当に圧巻です。皆様が良くご存じのとおり、この人はモダンジャズ創成期から活躍していた、この時点では中堅のドラマーなんですが、そのシャープな感性はジャズの中ではひとつのジャンルに押し込めることが出来ないスタイルで、どのような演奏にも確固たる存在感を示すことが出来る証明が、ここでも存分に楽しめます。

あっ、ジャッキー・マクリーンは、もちろん最高ですよっ♪

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エディ・コスタの青い灯の家

2008-10-05 12:15:23 | Jazz

The House Of Blue Lights / Eddie Costa (Dot)

個性派が多いジャズピアニストの中でも、ひときわ印象的な低音打楽器奏法で人気なのがエディ・コスタという白人ピアニストです。

その活動では名ギタリストのタル・ファーロゥと組んだバンドが一番有名でしょう。実際、凄い名盤を何枚も残していますし、恐ろしいばかりにエキセントリックなピアノの響きと蠢き、そして痛快なタッチと硬質なアドリブの妙は、何時までも心に残ります。

しかしそのジャズ人生は31歳で交通事故のために終ってしまい……。それも決して本人が望んだような仕事は出来なかったようです。なにしろ残された録音はヴァイブラフォンでの演奏が多く、それもスタジオワークが中心でした。

確かにエディ・コスタはヴァイブラフォンでも、その音楽的に優れたセンスは発揮していましたが、やはりジャズ者の本音は独創的にエグイ魅力のピアノに惹かれるのではないでしょうか。

さて、このアルバムは、そんなエディ・コスタの強烈なピアノスタイルが堪能出来る作品です。しかし決して、一般的なピアノトリオ盤にあるような和みを求めてはなりません。恐ろしいばかりの緊張感の中に、突如として浮かびあがるホッとする瞬間! それがここに収録された全6曲の結論だと思いますが、それがクセになる魔力なんですねぇ~♪

録音は1959年1月29日&2月2日、メンバーはエディ・コスタ(p)、ウェンデル・マーシャル(b)、ポール・モチアン(ds) という、これは当時のレギュラートリオだったと言われているのですが――

A-1 The House Of Blue Lights
 いきなり重低音域のピアノが蠢き、どんよりとしたメロディを弾いていくエディ・コスタ! ネクラでハードなピアノタッチが定型的なペースウォーキングと呼応するようにスイングし、その隙間を埋めていくような地味なドラムス……。
 あぁ、これが1959年の演奏でしょうか!?
 何時聴いても、全く新鮮さを失っていないどころか、実に衝撃的です。
 もちろんアドリブパートの山場は、炸裂するピアノの恐ろしい低音打楽器奏法! そこにぶっつけてくるカウンターメロディが中高音で弾かれてるという、通常とは逆もまた真なりという展開が温故知新です。これぞ、エディ・コスタ!
 しかも決してグイノリでなく、勿体ぶった「間」の取り方や思わせぶりなメロディのフェイク、さらに媚びないアドリブ展開という中に、一瞬だけ浮かんでは儚く消えていく美メロのフレーズ♪ 実に辛抱たまらん状態が、なんと10分近く続くのですから、快感♪♪~♪
 ただし告白すると、最初にこれを聴いた私は全く魅力が理解出来ず、??? 場所が暗いジャズ喫茶だったこともあり、これってセシル・テイラーかダラー・ブランド? なんて思ったほどです。
 つまり後年のピアニストにも大きな影響を与えたのは明白で、例えば我が国の大西順子は、モロですよねっ♪

A-2 My Funny Valentien
 これは良く知られたメロディのスタンダード曲ですから、エディ・コスタのエグイばかりのフェイクと思惑がタネ明かし的に楽しめる演奏です。
 もちろん最初はソロピアノで原曲メロディを意地悪く弄び、しかし美しいフレーズや緊張と緩和の妙を聞かせてくれるんですねぇ~♪ 絶妙のスイング感と強靭なピアノタッチを基本とした低音域の蠢きも衝撃的に楽しめます。
 そしてドラムスとベースを呼び込んでからは、危険と和みの裏表っぽいフレーズとアドリブ構成が、ハッとするほど良い感じ! こんな演奏が出来るピアニストって、今も居ないんじゃないでしょうか? エディ・コスタ、最高!

A-3 Diane
 一転してグイグイとスイングしていく痛快な演奏ですが、決して通常の、所謂グルーヴィな4ビートというわけではなく、クールで突き放したようなノリが痛快です。
 もちろんエディ・コスタのピアノは快適にスイングしていく部分と緊張が強いブレイク、トリオとしての一体感も抜群で、その中に強烈な低音域奏法を混ぜ込むという仕掛けが、本当にたまりません♪
 このアルバムの中では一番分かり易い演奏かもしれませんが、普通っぽさなど微塵もなく、それでいてジャズ者の心を掴んで放さない何かが、確かにあると思います。

B-1 Annabelle
 B面に入っては一瞬、楽しいスイングのハードバップを聞かせながら、演奏が進んでいくうちに怖いものがジワジワと広がっていくという、ロマンポルノで言えば小沼勝監督作品のようなヌメヌメした魅力が楽しめます。
 分かり易さの中に禁断の表現を入れた、ある種のサブリミナル効果というような感じでしょうか。しかし、やっぱりこれは痛快至極な演奏で、A面を聴くよりもB面から楽しんだほうがアルバム全体に親しめるような本音が、ここに集約されていると感じます。

B-2 When I Fall In Love
 これも良く知られたスタンダード曲を意地悪く解釈した名演です。その遣り口は些か陰湿というか、A面に入っている「My Funny Valentien」と同じような展開ながら、美しい原曲メロディを自分の都合で作り変えていくのですから、これはエディ・コスタのセンスが如何に素晴らしいかの証明かもしれません。
 う~ん、このイヤミ寸前り勿体ぶった雰囲気の良さ! 明らかに賛否両論でしょうけど、私は中毒症状に陥っています。

B-3 What's To Ya
 オーラスはゴスペル味も滲むエディ・コスタのオリジナル曲で、ここでも思わせぶりな出だしから刺激的なピアノの蠢きとトリオ3者のテンションの高さが圧巻です。
 クールな4ビートで突っ走る無機質なスイング感と強引なアドリブフレーズ、敲きつけるように蠢くピアノタッチの魅力、一瞬の隙をついて飛び出すノリの良いメロディフェイク♪
 怖さと楽しさが同居した、これも激ヤバの演奏でしょうね。

ということで、鑑賞には気合と根性が必要なアルバムかもしれませんが、痛快にして中毒性のある仕上がりは保証付きです。極言すれば、エディ・コスタはこのアルバムを残したがゆえに不滅の存在になったと、私は不遜にも思い込んでいるほどです。

ちなみに演奏のステレオミックスは左にベース、右にドラムス、そしてピアノが左から右へ高音域と低音域が自然に広がっている定位ですから、エディ・コスタの特徴的な低音打楽器奏法と高音域のカウンターメロディの魅力が存分に楽しめます。

たまには、こんな緊張と緩和の名盤(?)を聴くのも、秋の喜びのひとつじゃないでしょうか。それにしても青い灯の家って?

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忘れちゃいけないジミー・ヒース

2008-10-04 11:53:37 | Jazz

Picture Of Heath / Jimmy Heath (Xandu)


ジミー・ヒースは所謂「実力者」という感じでしょうか、テナーサックス奏者としては黒人らしいハードな音色と重厚なフレーズのコンビネーションが流石ですし、なによりも秀でた作曲能力でモダンジャズのカッコ良さを表現していたと思います。

しかしそのキャリアには空白期間が多く、それは残念ながら悪いクスリによるものです。特にハードバップの全盛期だった1950年代後半を塀の中で過ごしたことは痛恨の極みでしょう。

そして社会復帰した1960年頃からはリーダーアルバムを吹き込み、作編曲の仕事もやっていますが、時代はモードやフリーの大嵐! さらにポップスやロックが大衆音楽の主流となった業界の勢いもあって、どうしても一流のプレイヤーとしては認められない感じが……。

実際、その頃の録音では数枚残されたリーダーアルバムが忽ち廃盤で入手困難度が異常に高く、また助演として参加したレコーディングも妙にシャリコマな作品が多く……。

ですから、ジミー・ヒースという名前はパーシー&アルバートを兄弟に持つヒース・ブラザースの一員というのが、一番有名かもしれません。

しかしそんな不遇な人物が書き残した名曲はジャズファンの心をとらえて離さないメロディが多く、例えばチェット・ベイカー&アート・ペッパーの「For Minors Only」、リー・モーガンの「CTA」、ドン・スリートの「All Members」あたりは氷山の一角でしょう。

さて、このアルバムは地味なジミー・ヒースがというダジャレみたいな書き方はご容赦いただいて、1970年代のハードバップリバイバル期に吹き込んだワンホーン盤♪ 録音は1975年9月22日とされていますが、これには異説もあるようです。しかしメンバーはジミー・ヒース(ts,ss) 以下、バリー・ハリス(p)、サム・ジョーンズ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) という魅惑の面々で、もちろんジミー・ヒースの代表曲が選びぬかれて演奏されています――

A-1 For Minors Only
 ラテンビートを上手く使った哀愁のテーマメロディの楽しさと胸キュン感♪ そしてタイトな4ビートで展開されるハードなアドリブソロという、まさにハードバップ王道の1970年代的な楽しみが存分に味わえます。
 ジミー・ヒースのテナーサックスは硬質な音色とグイノリのビバップフレーズ、さらにリアルタイムでは流行りはじめていたフラジオ奏法による高音域のキメとか、とにかく温故知新の魅力です。
 またリズム隊の安定感も抜群で、シャープなシンバルワークが最高のビリー・ヒギンズ、素晴らしいアドリブソロを聞かせてくれるバリー・ハリス、そして唯我独尊の4ビートウォーキングというサム・ジョーンズ!
 メンバー間の腹の探り合いも微笑ましく、本当にグッと惹き込まれますよ。

A-2 Body And Soul
 ジャズ史的にはコールマン・ホーキンス(ts) の決定的な名演がありますので、サックス奏者には避けて通れないスタンダード曲ですが、なんとジミー・ヒースはソプラノサックスで些か屈折した表現!
 もちろん独自の歌心はあるんでしょうが、う~ん……。
 と思っているとバリー・ハリスの口直し的なピアノが聞こえてきて、おぉっ、ついにジミー・ヒースがテナーサックスで面目躍如のアドリブを聞かせてくれるんですねぇ~♪
 あぁ、こういう目論見だったのかっ!?
 とネタばれを書いてしまいましたが、この正統派ハードバップの後半こそが実に素晴らしいということで、ご容赦願います。ちょっと短いのが残念なほどに、最後の無伴奏ソロも素敵ですよ。

A-3 Picture Of Heath
 起伏があってモードっぽい味わいもあるジミー・ヒースの隠れ名曲♪ もちろんアドリブパートでもハードバップの王道を邁進する展開が潔く、目隠しテストでは、ちょいとデクスター・ゴードンと間違いそうですが、ここでもフラジオ奏法で新しいところを聞かせるという意気込みも鮮やかです。
 リズム隊も好調で、我が道を行くバリー・ハリスやビリー・ヒギンズのシンバルワークの楽しさも、やっぱり王道だと思います。

B-1 Bruh slim
 ラテンビートと4ビートの交錯を上手く使った隠れ名曲なんですが、ちょっと凝りすぎのテーマメロディは好き嫌いがあるでしょう。
 しかしこれはアドリブパートの充実やスリルを優先させた結果かもしれません。実際、ジミー・ヒースのアドリブには必死さが感じられ、リズム隊からも緊張感が滲み出ています。
 このアルバムの中では一番長い演奏ですが、それが進むうちにバンド全員の意思統一が図られていくという、まさに即興演奏が主目的なジャズの楽しみが味わえるのではないでしょうか?
 個人的には音程が危なくなりそうなサム・ジョーンズの頑張りに拍手です。

B-2 All Members
 トランペットの隠れた人気者=ドン・スリートのリバーサイド盤のタイトル曲ですから、そこに参加していてジミー・ヒースがここでも大ハッスル♪ と言うよりもソプラノサックスで実に素敵な個性を聞かせてくれます。
 またバリー・ハリスの正統派ビバップフレーズも好ましく、軽快なビリー・ヒギンズと落ち着いたサム・ジョーンズのコントラストも安心印です。

B-3 CTA
 リー・モーガンやミルト・ジャクソンの名演が名高いという、ジミー・ヒースでは一番有名な痛快オリジナル曲ですが、おそらく作者にとっては、これが公式リーダーセッションの初演かもしれません。
 その所為か否か、ちょっと意識過剰なところも散見され、まずバリー・ハリスが何故かセロニアス・モンクみたいなイントロを弾き、ジミー・ヒース自身もギクシャクしたアドリブを演じてしまいます。
 このあたりはジミー・ヒースの特徴のひとつである、ちょっとプレスティッジ期のジョン・コルトレーンにようなところの表れかもしれませんが、実際、この2人は駆け出し時代にいっしょに練習していたとか!?
 それゆえ個人的には、あまり気に入ったトラックではないのですが、リズム隊の充実ゆえに最後まで聞いてしまうというか……。

ということで、決して名盤ではありませんし、もちろん人気盤になったという話も聴きません。しかしフリーの混濁やフュージョンの嵐を通り抜けて生き続けんとするバードバップなジャズ魂は、このアルバムに明確に刻まれていると感じます。

ちなみに発売されたのは1975年頃で、右にピアノ、真中にベース、そして左にドラムスが定位した、如何にも当時らしいステレオミックスには安心感がありますし、何よりもジミー・ヒースのテナーサックがハードエッジに録られた魅力盤として、忘れ難い1枚です。

CD化されているかは未知ですが、機会があればジャズ喫茶でA面を聴いて下さいませ。ハードバップ好きの皆様ならば、ド頭の「For Minors Only」で間違いなく魅了されると思います。

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ドーハムで踊るって!?

2008-10-03 15:21:19 | Jazz

Afro-Cuban / Kenny Dorham (Blue Note)

これは私が初めて入手が叶ったブルーノートの10インチ盤です。と言っても大金を出したわけではなく、海外の某コレクターとのトレードだったんですが、その交換したブツがチャーリー・マリアーノと渡辺貞夫が共作したタクト盤LP「イベリアンワルツ」だったんですから、人の価値観というのはわかりません。もちろんそれは一応、オリジナル盤でしたが、1970年代の我が国では比較的容易に中古盤が出回っていましたからねぇ~、なんだか悪いような気がして……。

もっとも件のコレクター氏はブルーノートのオリジナル盤なんてゴロゴロ持っていましたし、この10インチ盤にしても、後に拡大版12インチアルバムとなったピカピカのLPを4枚も所有している果報者でしたから、まあ、いいか♪

ちなみに当時のレコード産業は、片面3分前後のSPから長時間収録が可能なLPにメディアが転換され、さらにそれも10インチから12インチへと規格が変わりつつあった端境期! ですからこのアルバムはブルーノートにしても最後に近い10インチ盤だと思われます。

録音は1955年3月29日、メンバーはケニー・ドーハム(tp)、J.J.ジョンソン(tb)、ハンク・モブレー(ts)、セシル・ペイン(bs)、ホレス・シルバー(p)、オスカー・ペティフォード(b)、アート・ブレイキー(ds)、パタート・バルデス(per) という気力充実の面々です――

A-1 Minor's Holiday
 初期のジャズメッセンジャーズも演目にしていたアフロなハードバップの名曲! そのオリジナルバージョンがこれです。もちろん全篇に鳴り響くパタート・バルデスのパーカッション、強いシンコペーションが特徴的なホレス・シルバーの伴奏、そしてアート・ブレイキーが敲き出す熱いビート! これもハードバップの真髄でしょうねぇ~~♪
 アドリブパートでも充実のケニー・ドーハム、ノリまくったハンク・モブレー、気合の J.J.ジョンソンと、思わずイェ~の快演が連発されます。バックのホーンアンサンブルも実に痛快!

A-2 Lotus Flower
 彩豊かなアレンジも冴えた、ケニー・ドーハムのオリジナルバラード♪ それにしても曲名ある「Lotus」って、この人はこれが好きなんですかねぇ? 後には有名な「Lotus Blossom」なんてのも演じていましたが。
 まあ、それはそれとして、ケニー・ドーハムのソフトで枯れた味わいのトランペットが絶大な魅力を発揮しています。ただしパーカッションが些か不用意というか……。

B-1 Afrodisia
 今やラテン系ハードバップの聖典となったこの曲も、それは1980年代にロンドンあたりのクラブシーンで頻繁に鳴らされるようになってからの出来事ですが、しかしそれにしても、ここで発散されているグルーヴは、確かに凄いものがあります。
 アドリブパートでは特にハンク・モブレーが素晴らしく、独特のノリとメロディ感覚が冴えまくり♪ ラテンビートと4ビートの交錯を上手く利用しています。また何を吹かせても上手い J.J.ジョンソンも流石ですねぇ~。
 そしてクライマックスはアート・ブレイキーとパタート・バルデスの打楽器対決なんですが、あまりにも短いのが残念……。しかし、これが長かったらダレるかもしれませんね。
 ちなみに前述したロンドンのクラブシーンの出来事では、この曲で踊っているとかいう話でしたが、ちょっと自分的には??? まあ、ロンドンのソーホーあたりはスノッブな奴らが多いですから、誰かがやって真似しないと仲間はずれ、あるいはオクレた奴と見なされるのかも……。
 そのへんを律儀に踏襲する我が国も、ねぇ……。私はついていけません。

B-2 Basheer's Dream
 これも楽しいラテンビバップで、なかなか凝った曲調が賛否両論かもしれません。実際、ここに揃った名プレイヤー達が押し並べてアドリブに腐心している感じがします。
 しかし、それを吹き飛ばすのがリズム隊の熱気でしょう。バンド全体の重厚なアンサンブルというか、一丸となったグルーヴは流石に強烈だと思います。

ということで、実に楽しい演奏集ですが、あえて「Afro-Cuban」という趣向のモダンジャズにしたのは、当時のニューヨークではラテンやキューバ系のノリノリ楽団が人気を集めていたからでしょうか? 誰がこのセッションを企画したのかはわかりませんが、アート・ブレイキーが関わっているのは、さもありなんです。

ちなみにここに収められた4曲は後に同タイトルの12インチ盤LPに再収録されますが、その拡大版に追加された演奏は、このセッションと似たようなメンツのセクステットで、録音も2ヵ月ほど早いという正統派ハードバップでした。しかしリアルタイムではオクラ入りしていた事情からして、如何にプロデューサーのアルフレッド・ライオンがアフロでキューバンなスタイルに魅了されいたか窺えるのではないでしょうか。

まあ、それしてもドーハムで踊るって!?

やっぱり OLDWAVE な私は「Minor's Holiday」で体を揺すっているのが関の山です。

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絶対、ソニー・クリス!

2008-10-02 12:40:05 | Jazz

Crisscraft / Sonny Criss (Muse)

それほど読んでいるわけではありませんが、ジャズの解説本とかガイドブックに載っている歴史と、ジャズ喫茶の空間でファンに愛されるプレイヤーとは微妙に異なっている気がします。

例えばアルトサックス奏者ならばモダン期以降、チャーリー・パーカーが別格、神様という扱いなのは当然としても、それに続くのがリー・コニッツとアート・ペッパー、ジャッキー・マクリーンにフィル・ウッズ、エリック・ドルフィやオーネット・コールマン、そしてキャノンボール・アダレイというところでしょうか。

ところがジャズ喫茶では、ノー天気なルー・ドナルドソンや大衆的なポール・デスモンドは例外としても、ソニー・レッドやアルバート・アイラー、あるいはチャーリー・マリアーノやバド・シャンクという些かシブイ面々のアルバムが珍重され、なんとソニー・クリスに至っては人気者扱いにしていたのが、実用的なジャズファンの嗜好だったと思います。

本日の1枚は、その中でも特にリクエストが多かった人気盤で、内容はベタベタに湿っぽい「泣き」と黒っぽいメロディ感覚、琴線に触れまくるアルトサックスの音色という、アクが強くて好き嫌いがはっきりした演奏ばかりですが、これが実にたまらん世界♪

録音は1975年2月24日、メンバーはソニー・クリス(as)、レイ・クロフォード(g)、ドロ・コカー(p)、ラリー・ゲイルズ(b)、ジミー・スミス(ds) という、1970年代に入っても4ビートジャズを守り抜いた実力者達です――

A-1 The Isle Of Celia
 この哀愁のメロディの素晴らしさ! それをソニー・クリスが艶っぽく泣いて聞かせてくれるのですから、これでシビレないジャズ者はいないと思うほどです。ボサロックがズンドコしたようなリズム隊のグルーヴも琴線に触れますねぇ~~♪ テーマのサビで仕掛けられるキメも、実にたまりません。
 もちろんアドリブも美メロの連続で、人目を憚らずに男泣きというソニー・クリスには些かのクサミもありますが、いえいえ、これがモダンジャズの素敵なところでしょう。
 せつない想いに急き立てられるようなドロ・コカーのピアノも冴えていますし、甘いブルースフィーリングを秘めたレイ・クロフォードのギターも味わい深いと思います。
 とにかく一聴して虜の名曲名演! これが鳴りまくっていた1970年代後半はジャズ喫茶の最後の黄金期だったと、今はシミジミ……。

A-2 Blues In My Heart
 これまたクサイ芝居のブルースという感じですが、グルーヴィなリズム隊にサポートされて忍び泣くソニー・クリスには、やっぱり魅力がいっぱい♪ こんなスローなテンポでありながら、強いビート感と粘っこいフィーリングを醸し出していくバンドの熱気にも心底、シビレがとまりません。
 う~ん、それにしても黒いビロードのようなソニー・クリスのアルトサックス♪ こんな感触はちょっと他のアルト吹きには無いところで、如何にも黒人というメロウなカッコ良さです。
 演奏はソニー・クリスの独り舞台に終始しますが、それが正解でしょうね。

B-1 Thes Is For Benny
 B面に入っては、いきなりガッツ~ンと始まる熱血演奏! ガサツなリズム隊と号泣しながら突っ走るソニー・クリスが見事な一体感で、この強引なところがイヤミ寸前の魅力でしょうか。
 ちなみに作曲したのはA面ド頭の「The Isle Of Celia」と同じく、ホレス・タプスッコトという隠れ人気のピアニストで、それはこういう「泣き」のメロディが得意だから!? このアルバムでそれに感づいたジャズ者が、密かに追い続けていたのが、当時の裏の事情でした。

B-2 All Night Long
 これまた艶やかに泣くという、ソニー・クリスの魅力が存分に楽しめる名曲・名演です。あぁ、昭和ムード歌謡の趣も感じられるメロディの素晴らしさ♪ 特にサビにシビレますが、例えばグラント・グリーン(g) の「Idla Moments (Blue Note)」あたりが好きな人には共感していただけると思います。

B-3 Crisscraft
 オーラスは景気の良いドラムスから快調にブッ飛ばすピアノとベースに導かれたアップテンポのハードバップ! もうこのイントロだけでゴキゲンな気分に浸れます。
 もちろんソニー・クリスはチャーリー・パーカー直系のビバップフレーズでブルースを熱く吹きまくる痛快節! 基本に忠実なレイ・クロフォードにも好感が持てますし、自分が楽しんでいるようなベースのウォーキングにもジャズを聴く喜びがいっぱいです。
 ちなみにこの当時の録音は、特にウッドペースに電気増幅のアタッチメントが付けられるのが当然というような感じで、好き嫌いがあるのですが、このセッションでは、それがあまり感じられずに高得点♪ ドラムスの音にも常套手段のコンプレッサーは、それほど使われていないようです。

ということで、特にA面が絶対的な人気盤ですから、ますます我が国での人気が高まったのがソニー・クリスの1970年代だったのですが、好事魔多し! なんと初来日直前に謎の死という悲劇がありました……。

今になって思えば、そんな出来事とフュージョンの大ブームが重なっていた気もしていますが、ソニー・クリス自身もそれに便乗したアルバムを作っていたわけですから、一概には言えません。

しかしジャズ者が一番好きなのは、このアルバムのような、特に「The Isle Of Celia」を情熱的に吹いてくれるソニー・クリスじゃないでしょうか。

コメント (4)
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