ナット・ヘントフ,木島始訳,晶文社. 原著 Nat Hentoff "Jazz Country" の刊行は1964.翻訳の刊行は1969だったが,読んだのは1981版.その後も何度も廃版になっては新しく出版されるということを繰り返している.
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ぼくはトランペットに夢中。魂をゆさぶるあの響きがたまらない。ミュージシャンになりたいんだ!ニューヨークはグリニッチ・ヴィレッジのジャズメンの世界にとびこんだ白人少年の夢と葛藤をいきいきと描き、「最高の青春小説」と絶賛された話題作。*****
アメリカというカントリーではもちろん白人上位だが,ジャズというカントリーは黒人上位...というより黒人だけに閉ざされたカントリーである.このねじれた環境で,ジャズ・トランペットに夢中な高校生が主人公.登場するピアニスト,モーゼ・ゴッドフリーはセロニアス・モンクがモデル,彼が出入りする白人家庭の女性ヴェロニカはニカ夫人がモデル.しかし地の文にはモンクという有名人が登場する.
この時代,すでにウェスト・コースト・ジャズは存在していたし,ビル・エヴァンスもスターだったはずだが,彼らは主人公の視野には入っていないようだ.
一般の黒人の地位も,オバマが大統領になったりして,今では変化しているはず.そういう意味では,これはある種の時代小説かな.
古くなっていないのは音楽の本質談義かもしれない.しかしそれも青少年向けに単純化されている.著者によるあとがき「ジャズの国に入り込んで」にあるように,男女の性愛,麻薬といった面倒なテーマも,この本は避けて通っている.
そもそも1969年の時点でこの本を読まなかったのは,どうせこどもの本と思ったからだ.今は老境に達しこどもに帰ったので,楽しく読んだ.
巻末の「注と参考レコード」が,思ったより時代を感じさせない.この頃すでにジャズは終わりかけていたのだろうか.