単行本「タイガー理髪店心中」に収められた,表題作ではないほうの一編.99 歳の夫を持つ 75 歳の妻・日出代の目線で語られる.日出代の母の秘密と,日出代の夫の秘密が次第に明らかになるというとミステリーみたいだが,著者としてはそんなつもりはないだろう.
ネタばらしをしてしまうと,北満からの引き揚げの際,足手まといとなる小さい子を処分することが行われた.日出代の母は,日出代の妹を処分した (らしい).また (おそらくは) ペつな部隊で,夫は軍人として,小さい子どもたちを処分した.
日出代の回想場面で,母が彼女に山に行って首をくくれと (幼い子は首をくくればどうなるかわからない) 命じる場面がある.
陰惨な小説だが,場末の食堂を切り回している日出代の性格づけもあり,あっけらかんとした読後感.
「タイガー理髪店心中」所収の2編の初出は「小説トリッパー」で,これは (株) 朝日新聞出版が発行する季刊小説誌で,週刊朝日別冊という位置づけだそうだ.それぞれ 2018年,2019年に発表されたが,後発のこの「残暑の...」のほうが奥行きがあると思う.朝日文庫に入ったら買おうかな...