九段理江の芥川賞受賞作を (単行本ではなく) 文春3月号で選評とともに読んだ.
出版社による単行本 (新潮社 2024/1 : 芥川賞発表以前の刊行) の紹介*****
ザハの国立競技場が完成し、寛容論が浸透したもう一つの日本で、新しい刑務所「シンパシータワートーキョー」が建てられることに。犯罪者に寛容になれない建築家・牧名は、仕事と信条の乖離に苦悩しながら、パワフルに未来を追求する。ゆるふわな言葉と実のない正義の関係を豊かなフロウで暴く、生成AI時代の預言の書。*****
東京都同情塔は公式名称シンパシータワートーキョーの言い換え.牧名がナンパした美青年・拓人の英文和訳案である.牧名は,東京同情塔ではなく東京都同情塔でなければならないと強調する : 16 トンもそう思う.こうした言葉へのこだわりが随所に見られる.例えば犯罪者・受刑者に対しては牧名の造語ホモ・ミゼラビリスが用意されている.
AI が作った文章が随所に現れ,ゴチックで表記される.選評で島田雅彦はこの作品を「生成 AI とその基盤である大規模言語モデルに対する批評意識を中心に据え,現実を大いに反映した脳化社会のディストピアに生きる憂鬱を語った作品」と言っている.小川洋子の選評は「牧名にも拓人にも人間的な息遣いを感じることができなかった」と言い,松浦寿輝は「ここに出てくる生成 AI の言語は徹底徹尾人間そっくりだが,同時に徹底徹尾日人間的でもあるという怖さ」があり,主人公の名前自体が牧名 = マキナ = 機械であることを指摘している.
選考委員諸氏のいうことはどれも小難しいが大同小異なんだろう.
かっての石原慎太郎のように,作品を読まずに選評を書いているのが見え見えな選考委員がいない (らしい) のは救いだ.
作品そのものは意外にサクサクと読めた.ラストで牧名はコンクリート像となって後世に残ることを妄想するのがケッサクだ.
文春の表紙が J 子のお気に召している.2022 年から担当している日本画家・村上裕二の表紙の題材はバラエティに富んでいて,紅富士に龍といったイカニモな題材もある.子供たちの登場は 2023 年 3 月号以来.表紙になったことはないと思うが,ゴジラの絵も.
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