Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

小沼 丹による日夏 (耿之介) 先生像

2022-11-01 09:40:23 | 読書
推理短編集が良かったので,小沼丹のエッセイ集
 庄野潤三編「小沼丹 小さな手袋 / 珈琲挽き」みすず書房(2002/2)
を図書館で借りてきた.
中に「日夏先生」の項.小沼が早大時代に教わった日夏耿之介 (こうのすけ) のことである.

日夏先生の英文学の講義は
「人類の最古の痕跡は地質学上第4期,これを洪積期・沖積期の2期に分ち,洪積氷河の陸氷は西方部が北海を渡って...」
という調子で進行し,マンモスやネアンデルタールは出で来るが,肝心の文学は一向に顔を見せなかったと,生徒・小沼くんは恐れ入っている.

ポオについて話しているとき,自分の訳した「大鴉」を朗読したことがある.この訳は甚だ難解でポオの原詩のほうが遥かに判りやすい.朗読されたら,活字で見るよりもっと判らない.みんな中途半端な顔をしていたら,悪戯っぽい笑顔を見せた...と思う.

卒業に際し英文科の先生生徒で記念写真を撮ることになったが,日夏先生が現れない.呼びに行ったら「その写真には某 (偉い先生) も入るのだろう ?  俺はあんな俗物と一緒に映るのは御免だ」とそっぽを向いて二度とこっちを向かない.....とか.

日夏訳の「大鴉」は今ではミステリの雰囲気を盛り上げるために引用されることが多い.じつはぼくが大鴉のことを聞いたのは,中井英夫 経由だと思う.訳文をちゃんと読んだことはないのだが,ネットの引用から孫引用すると,こんな感じ,

跳り起ち声振りしぼりこの儂は、
「禽よ、この言葉をこそ袂別の符ともせよ。
大雨風や夜の闇の閻羅の界の海涯にとたち還れ、
その心の譚りたる誑誕の印として、かのかぐろき羽をな賂ひそ。
儂がこの閑情をな攪乱しそ。扉口なる石像の上を郤退け。
儂が胸奥よりはその鳥喙を去り、この扉口よりはその姿相を消せ。」
大鴉いらへぬ 「 またとなけめ。」

小沼は 1942 年,早大を繰り上げ卒業.戦前の大学はこんな雰囲気だったのだろう.1958 年からは小沼自身も早大で教鞭を取るが,このエッセイ集から伺う限りでは真面目につとめたようだ.

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