ジュリー オオツカ,岩本 正恵・小竹由美子訳,新潮クレスト・ブックス (2016).
「あの頃,天皇は神だった」に続いてぼくには2冊目のジュリー・オオツカ.この「屋根裏...」のアメリカでの出版は2011年,「あの頃..」は2002年だが,日本での出版は順序が逆になった.
訳者が2人だが,岩本さんが翻訳途上で急逝され,小竹さんが引き継いだのだそうだ.その後「あの頃...」を小竹さんが翻訳されることになった.
題材は2作とも似ている...文壇に認められるには同じようなテーマで書かなければならないのかもしれない.
ヒロインは「写真花嫁」たち,20世紀初めに写真交換だけの「見合い」で渡米した女性たちである.はなしと違って結婚相手は下級労働者たちだったが,苦労の末,子供たちも成長して生活はなんとか軌道に乗ったところに,戦争が起こる.彼女らが収容所に連れ去られたところで終わる.
最初のほうの主語は「わたしたち」で,センテンスが変わるごとに違う女性のことが語られたりする.新聞の見出しを続けさまに読むような感じでもあるが,半面 改行がない詩を読んでいるようでもある.こんな小説が過去にあったのだろうか...浅学のぼくにはわからない.
熟読玩味しなければもったいない文章.原語では韻を踏んでいる...なんてことはないかな.
特定のヒロインがいないにもかかわらず,引き込まれて読んでしまったのが,不思議である.
全8章の第7章「最後の日」は日本版12ページにわたって全部がひと続きの段落で,改行がない.本のタイトルは,この章の「ハルコは,小さな真鍮の,笑っている仏さまを屋根裏の片隅に置いてきたが,仏さまは今でも,まだそこで笑っている」から取られている.
最後の第8章「いなくなった」では視点がわたしたち=アメリカ人になり,かれら=いなくなった日本人たち に入れ替わる.彼らがいなくなった後,わたしたちはしばらくは空虚に感じるが,それも時間の問題である.
「あとがき」の表現を借りれば,正史には登場しない女たちの人生を拾い上げた,スリムだが重い歴史小説,ということになるのだろう.
つぎはもっと楽しい本を読みたい.
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