Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

内田百閒「大貧帳」

2023-11-22 10:40:42 | 読書
内田百閒「大貧帳」六興出版 (1981/3).

古書店で購入.トップ画像右は挟み込みのチラシ.ここに「極貧の金ヅマリにあって,人力車 (今で言えばタクシー) で学校へ通う」とあるが,別な例では金を借りに行くのに2等車 (今で言えばグリーン車) で行く.要するに金がないのに贅沢をすることをおもしろがる文章ばかり.それをおもしろがって読む人にはおもしろい という本.

「いつも金を絶やさない様に持ってゐるのは,私などよりも一段下の貧乏人である.さう云う人達は貧乏人根性が沁みついてゐて,お金を持たなければ心細くてゐられないのであらうと思はれるが,私などはお金はなくても腹の底はいつも福々である.」...「夏の鼻風邪」より.

全 36 編で 2-3 ページで終わるものも多い.
ただし「大人片傳」は8篇の連作で毛利田惣兵衛 (森田草平) 大人が登場.当時の鳳生 (法政) 大学には教授室などというものはなく,小学校の職員室みたいなところで皆んなで昼飯を食ったらしい.お午の 11 時になると給仕がお辯当の註文をきいて廻る.どれにしようかと考える毎に「毎日毎日目に見えて,人間の根性が卑しくなり行くのを覚えるのである」.
トップ画像のチラシの「学校」は大学のことだろう.

そうそう威勢のいい話ばかりではない.「志道山人夜話」では知人に金を借りる屈辱が切々と描かれている.志道山人とは著者の別キャラだそうだ.「百円札」のように高利貸から借りるのとなると,著者の文章でさえ,私小説作家のそれらしくなる.
宮部みゆき「火車」を連想した.

巻末に「平山三郎 記」として,「随筆集「大貧帳」は昭和 16 年 12 月 拓南社から刊行された」とある.続いて初出一覧があり,昭和 8 年から 14 年に分布しているが,「吸ひ殻」一作だけ昭和 19 年とあるのは,誤り ?
2017/10 中公文庫入り.

「可可貧の記」の冒頭にはカバーの漢詩が引用されている.これは寒山 (あの寒山拾得の片割れ) の作で,解説がネットにあった.志道山人書とあるが,好みではないので,自分なりに書いてみようかと思う.
挿画 谷中安規.

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 三島由紀夫 x ミステリ | トップ | 昼の贅沢 特撰 籠御膳 @ 鉄... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事