Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

千霊一霊物語

2019-06-15 08:51:22 | エトセト等
アレクサンドル・デュマ 著 前山悠 訳 ,光文社古典新訳文庫 (2019/5).

「モンテ・クリスト伯」「三銃士」の著者大デュマ 1849 年の作品の初めての全訳.この頃から彼の没落が始まっていた.すなわち前年の二月革命で後援者のルイ・フィリップは国を追われ,その混乱で市民は劇場へ足を運ばなくなり,彼の劇場経営は大赤字を生み出した.長年の浪費生活でそれまでに稼いだ金も使い果たし.1851 年には裁判所から破産宣告が降りる.

千夜一夜の語り手はシェラザードただ1人だが,ここでは数人の語り手がこもごも自分の怪奇な体験を語るという「百物語」形式.27歳の若きデュマは聞くだけである.もうひとりの聞くだけは,科学を信奉しそれを盾に怪奇現象を拒否する医者で,狂言回しを務める.
全 15 章で構成されるが,「千夜一夜」同様に複数章がひとつの物語を扱うこともある.

訳者による解説の小見出しがこの小説の性格を的確に表している.

「枠物語」の幻想文学・生首の科学
枠物語とは,複数の (怪奇) 譚をそれぞれ作中人物たちに語らせる形式.百物語も枠物語だろう.
生首の科学の主題は,斬首後の頭部に意識は残るかということ.もっとも最後には科学談義はどこかに行ってしまい,吸血鬼伝説が前面に出てくる.
思い出したのが,小泉八雲「怪談」中の「かけひき」.ストーリーは Wikipedia にあるが,原文も ibiblio で読むことができる.洋の東西を問わず関心をひくテーマらしい.

擬似歴史小説
フランス史に通じていたらなるほどと思う部分が多かったことだろう.
物語のそれぞれが異なる時代と地域を背景にしている.
物語の語り手には実在の人物であることもあり,政治にコメントする.

貴族を愛する共和主義者
フランス革命で実現した市民社会に身を置きながら,貴族社会へのノスタルジーが感じられる書き方.著者自身,革命派の蛮行に閉口したようだ.ただし実際のデュマは銃を担いで七月革命に参加した共和主義者として伝えられているという.

図書館で借用.☆☆☆☆

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