【決別 金権政治】:池上彰さん「記者たちが怒りを持って取材し続けた成果」 河井夫妻買収事件追った新刊「ばらまき」書評
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【決別 金権政治】:池上彰さん「記者たちが怒りを持って取材し続けた成果」 河井夫妻買収事件追った新刊「ばらまき」書評
中国新聞「決別 金権政治」取材班による書籍「ばらまき」の刊行を受け、分かりやすいニュース解説で知られるジャーナリストの池上彰さんに書評を寄稿してもらった。
▶河井夫妻の買収事件を追った2年 書籍「ばらまき」15日に出版、中国新聞取材班の軌跡を一冊に
▶特集 ・決別 金権政治
2019年7月の参院選広島選挙区に立候補した自民党の河井案里候補と夫の河井克行衆院議員が、選挙区の多数の議員に買収のための金をばらまいた事件。これを中国新聞の記者たちが怒りを持って取材し続けた成果をまとめたのが、この本だ。
ジャーナリストの池上彰氏
「いまだにこんなことが行われていたのか」と怒りを持った人も多かったことだろう。「広島は、いまもこんな状態なのか」と感じた人もいたことだろう。ところが、読み進むと、決して広島だけの問題ではないことが分かってしまうから深刻だ。
この事件が判明することになったきっかけは「文春砲」だった。河井陣営が選挙中、選挙カーから名前を連呼する車上運動員への報酬を、上限の2倍の3万円を渡していたと週刊文春が報じたことだった。
これは、地元紙にとって屈辱だったろう。地元で起きていた選挙違反に気付かず、東京の週刊誌にすっぱ抜かれたのだから。特ダネを抜かれたら、なんとしても追いかけなければならない。ところが、「思うように情報は集まらなかった」。
そこで週刊文春の記事を引用する形で報じなければならなかった。その悔しさ。中国新聞の記者は「完敗だ」と思ったという。
本書は、その経緯を正直に書いている。それは、その後、中国新聞独自の取材によって、広島県内の県議や市議に買収資金が渡っていたことを突き止めることができたという自信があるからだろう。
週刊文春の特ダネをきっかけに、中国新聞は取材チームを結成。県議64人全員に総当たりで現金を受け取っていたかどうかの確認に動いた。しかし、現金授受を正直に認める議員はわずか。取材は思うように進まない。
一方、検察が捜査を開始したはずだが、検察官の口は堅い。途方に暮れる記者たち。
しかし、ある記者が「小さな痕跡」から検察が本格的な捜査を開始したことをつかむ。まるで推理小説を読むようだ。
やがて河井夫婦は逮捕され、東京地裁で公判が始まるが、東京支社の記者は少ない。そのハンディをカバーすべく、新型コロナウイルス禍で感染の心配をしながら東京に長期出張し、取材を続ける記者たち。
読み物としても面白いが、やがて記者たちは、巨大な闇を探り当てる。それは、選挙資金として自民党本部から投入された1億5千万円とは別の裏金が買収に使われたという疑惑だ。
河井夫婦には有罪判決が言い渡されたが、「政治と金」の問題は終わっていない。
そしてこれは、広島県だけの問題ではないのだ。全国の地方紙にとっても刺激的な読み物になっている。
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■いけがみ・あきら 1950年、長野県生まれ。73年、NHKに記者として入局。松江、呉での勤務を経て東京の報道局社会部。94年から11年間、「週刊こどもニュース」キャスター。2005年に独立。現在、名城大学や東京大学など九つの大学で教える。
■「決別 金権政治」
2019年夏の参院選で河井克行、案里夫妻が100人に計2901万円を配ったとされる買収事件では、選挙に絡んだお金のやり取りが浮き彫りとなりました。令和の時代も変わらない「金権選挙」。皆さんの地域でも耳にしたこと、目にしたことはありませんか。体験、情報、意見をぜひお寄せください。(中国新聞「決別 金権政治」取材班)
元稿:中國新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【決別 金権政治】 2021年12月14日 16:08:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。