《社説①》:GoToで不正 背景含め徹底的に解明を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①》:GoToで不正 背景含め徹底的に解明を
旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)の子会社2社が、政府の観光支援事業「Go To トラベル」を悪用し、給付金などを不正受給していた。
ほとんど実態のない宿泊実績に基づいて給付金や地域共通クーポンを申請するという、詐欺罪の可能性もある手口だ。国交省は刑事告訴を視野に入れている。
HISの調査委員会の報告によると、不正受給額は最大6億8300万円に上る。悪用を2社に持ち掛けたのは、ホテル運営会社のJHAT(東京)とされる。
一方、JHATは、HISによる調査委の報告に対し「非常に困惑し、不満を感じている」とのコメントを出している。
全体像がまだはっきりしない。国交省やHISは引き続き調査を進め、不正が起きた背景も含め徹底的に解明する必要がある。
HISの創業者である沢田秀雄会長兼社長は記者会見で、あくまで子会社の不祥事であり、HIS本体は関与しておらず、最近まで知らなかったと強調した。
当初は自身の処分はしない考えを示し、数日後に一転して減俸処分を発表している。問題に対する本気度が疑われる対応だ。
JHATはHISの前社長、平林朗氏がHISを離れて設立した。両社に資本関係はないという。同氏はHISで2008年から16年に社長を務め、就任時は40歳。沢田氏の抜てき人事だった。
沢田氏は会見で、自身は現在、平林氏とは何の関係もないと繰り返し、不正への関与について「むかついている」と批判した。
事件には、かつてのHISグループの人間関係が絡んでいるとみられる。JHATは早急に説明責任を果たさねばならない。
「Go To トラベル」は、コロナ禍で落ち込んだ観光業を支えようと昨年7月に始まり、感染拡大で同年12月に中断に追い込まれた事業だ。政府は来年1月末以降の再開を目指している。
事業自体の問題もあろう。給付金などの事務は大手旅行会社などでつくる団体に委託している。国交省は担当者の増員など審査体制を強化するとしたが、不正を生んだ構造が解明されなければ、繰り返される懸念が拭えない。
この事業ではこれまでも、うその宿泊で給付金を申請するといった不正が相次いでいた。それが業界をリードするHISの子会社にも広がっていたことになる。
もともと急ごしらえの支援制度だった。十分な防止策が再開の前提なのは言うまでもない。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 ニュースセレクト 社説・解説・コラム 【社説】 2021年12月30日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。