【社説】:介護職らの賃上げ 持続的な財源の議論を/12.16
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:介護職らの賃上げ 持続的な財源の議論を/12.16
政府は、2021年度補正予算案に介護や保育、看護などの現場で働く人たちの賃金を引き上げる財源を盛り込んだ。
いずれも暮らしの維持に欠かせない仕事を担う「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる人たちだが、低賃金や過酷な労働環境に疲弊し、深刻な人手不足が続いている。賃上げによる処遇改善は待ったなしと言える。
介護職員らの賃上げは、岸田文雄首相が看板に掲げる分配戦略の柱でもあり、「最優先課題」と位置づける。まずこれらの職種の賃金アップを呼び水に、広く民間企業の賃上げにつなげたいとの思惑も透ける。
政府はこれまでも保育士や介護職員の処遇改善に取り組んできたが、目に見える成果は上げられていない。
補正予算が成立すれば、来年2月から介護職員や保育士らは収入の3%程度に相当する月額9千円、看護師が収入の1%程度に当たる月額4千円、引き上げられる。とはいえ、とても十分な額とは言えない。
20年の賃金水準をみると、介護職員が月平均29万3千円、保育士は30万3千円で、全産業平均の35万2千円を大きく下回った。看護師は39万4千円と上回ったが、医師の4割程度にとどまる。
今回の賃上げが行われても、介護職員と保育士の月収はなお全産業平均には及ばない。3%や1%の引き上げ率の根拠も不明だ。本当に職務に見合った賃金かどうかを検討し、継続的に底上げしていく必要がある。
共働き世帯が増え、高齢化が進む中、保育や介護に対する社会のニーズは今後も高まるのは確実だ。安定して働ける環境を整え、慢性的な人材難の解消につなげなければならない。
そのためには持続的な財源の確保が欠かせない。補正予算案では、来年2~9月分の賃上げに必要な原資を確保している。問題はその先だ。政府は報酬改定などで対応する方針でいる。
医療の診療報酬や介護報酬、保育所の公定価格は公的価格と呼ばれる。それぞれの事業者が提供するサービスの対価として支払われる利用料で、原則として政府が決めている。原資は公費や保険料、サービスを利用する人の負担だ。
賃上げのために介護報酬など公的価格を引き上げれば、保険料や利用者負担などの増額も避けられない。政府は、必要な財源をどう分かち合って確保していくのかを明確に示し、国民の理解を得る必要がある。
介護保険料の場合、制度が導入された00年当時は全国平均で月3千円程度だったが、今では6千円を超え倍以上となっている。75歳以上の医療費の窓口負担も来秋には1割から2割へ引き上げられる見通しだ。
介護保険料を滞納し、資産の差し押さえを受けた高齢者は年2万人を超えている。負担増に耐えられない人がさらに増えるのではないか。利用控えなどが広まれば、介護事業者の経営も圧迫しかねない。
厚生労働省の推計では、40年度には介護職員が69万人不足する。看護師や保育士も数万人規模で足りなくなる見通しだ。人手不足なのに、賃金が上がらないのはいびつだろう。政府が決める公的価格の在り方や問題点を検証し、制度の見直しも進めるべきだ。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年12月16日 06:57:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。