《社説①》:泊原発の運転差し止め 安全軽視を糾弾した判決
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①》:泊原発の運転差し止め 安全軽視を糾弾した判決
北海道電力泊(とまり)原発の運転を禁じる判決を札幌地裁が出した。
津波対策の不備が理由である。11年前の東京電力福島第1原発事故の教訓を重く見た判断だ。
泊原発には防潮堤が設けられているが、判決は津波に対する安全性を欠いていると結論づけた。
周辺住民ら原告側は、地震が起きれば地盤が液状化し、防潮堤が沈下する危険性を指摘していた。
北電は、そのリスクは低いと反論しながら、資料を基にした証明をしてこなかった。新たな防潮堤を建設すると説明したが、その構造は決まっていなかった。
判決がとりわけ問題視したのは、安全対策を巡る姿勢だ。
提訴から10年以上たつにもかかわらず、いたずらに主張を続けようとしていることを批判した。裁判の引き延ばしを図っていると判断したといえる。
住民側がいつまでも振り回される状況は、許容できないと指摘した。こうした北電の態度は「安全面での問題の多さ、大きさをうかがわせる」とも言及し、不信感をあらわにした。
北電は9年前、泊原発の再稼働に向けた安全審査を原子力規制委員会に申請した。今も審査が続いていることを、裁判で明確な対応が取れない理由にしていた。
だが、規制委からは度々、説明不足や体制の不十分さを指摘されてきた。
審査中の原発は他にもある。これまでに申請された原発27基のうち、審査を通過したのは17基にとどまる。
原発の再稼働を推進したい自民党からは、審査の効率化を求める声が上がっている。
しかし、現在の審査体制や安全基準は、福島第1原発事故のような惨事を二度と起こさないために導入された。安全性を最優先することは当然だ。
福島の事故後、原発の運転を認めない司法判断は9例目である。原発に対する裁判所の見方は、ますます厳しくなっている。
脱炭素化や世界的なエネルギー不安を受け、政府・与党内では原発回帰を探る動きがある。だが、電力の安定的な供給源として位置づけることは現実的ではない。
原発に依存しないエネルギー政策こそが求められている。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年06月02日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。