【社説①】:AIと著作権 創作活動を守る規制が必要だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:AIと著作権 創作活動を守る規制が必要だ
生成AI(人工知能)の利便性を重視して活用を推進するあまり、人の知的創作活動に関わる著作権を 蔑 ろにすることは許されない。政府は著作権法の問題点を改めるべきだ。
政府が新たな知的財産推進計画を決めた。AIに関する項目を6年ぶりに取り上げ、著作物への影響に言及したことが特徴だ。
2017年の計画は、AIの活用により、「新たなビジネス創出」を目指す方針を掲げていた。
こうした計画を踏まえ、政府は18年、著作権法を改正した。著作権者の許可がなくても、AIに著作物を学習させることを認める規定を設けた。当時、文化庁はAIによる学習は著作権者の利益を害さない、と説明していた。
しかし、今回の計画では、AIの普及で「クリエイターの創作活動に影響が及ぶ懸念」があると明記した。今後、AIが「著作権者の利益を不当に害する場合」についての対策を検討するという。
米国では、AIに作品を無断で模倣されたとして、イラストレーターらが集団でAIの運営会社を著作権侵害で提訴した。日本でもこうした事態は起きかねない。政府がAIの負の側面に目を向け、軌道修正を図ったのは当然だ。
だが、対策を講じるといっても、著作権者の許可なしにAIによる学習を認めた18年の改正部分は、変更しないという。それでは十分な効果は期待できない。
AIが生成物を作り出す過程は、明らかにされていない。にもかかわらず、大量の著作物をAIに無条件で学習させることは、「著作権者を保護し、文化の発展に寄与する」という著作権法の理念に矛盾していないか。
日本写真著作権協会は、18年の著作権法改正について、「表現活動や作品に対する敬意を欠く」と批判している。
日本の行政は、一度実行した政策に間違いはない、という「 無 謬 性」にとらわれがちだ。そうした姿勢を改めねば、多くの著作権者を保護することはできまい。
日本とは対照的に、欧州では、AIから著作権者を守ることが重要な課題になっている。
欧州連合(EU)は19年、著作権者が希望すれば、AIが学習する対象から自らの作品を除外できる「オプトアウト」制度を設けるよう、加盟国に義務付けた。独仏はすでに制度を導入している。
政府は、生成AIが社会に与える様々な影響を見極め、必要ならば規制に踏み込むことをためらってはならない。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年06月14日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断さい。