【社説】:マイナカードの混乱 不備認め立ち止まる時だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:マイナカードの混乱 不備認め立ち止まる時だ
マイナンバーカードを巡る混乱が泥沼化してきた感がある。
今度はカードに他人の口座がひも付けされたものが多数あることが明らかになった。希望していないのにマイナ保険証が登録された事例も確認された。
政府は「ミスはない」と言ってきたのに、驚くべきトラブルの連発である。現場の準備や国民の理解も進まないままに普及を急いだ弊害としか思えない。
情報漏えいや管理の不備は、かねてより懸念されてきた。政府が「万全の対策を迅速かつ徹底する」と言ったところで、具体策を欠いたかけ声だけでは問題解決にはつながらない。
政府のデジタル社会推進会議はきのう、記載内容を見直す新たなカードを2026年にも導入する方針を示した。目の前の問題に向き合わず、次の話をするのは順序が逆ではないか。
デジタル庁は、他人の口座がひも付けされた事例があることを2月には把握していた。あろうことか、国税庁からの情報提供を最近まで河野太郎デジタル相に伝えていなかったというから、何をかいわんやである。
そんな中でマイナ保険証を事実上強制する改正法が先週、国会で成立したことにはあきれてしまう。優先して取り組むべきは不備が相次ぐ制度の再構築である。政府が問題を隠したまま法整備を進めたのは、国民への背信行為と言わざるを得ない。
全国知事会は法改正前に、政府にチェック体制強化などを申し入れた。全国保険医団体連合会は不備を数多く指摘し、マイナ保険証の見直しを求めている。政府はトラブルを「自治体の運用のせい」としていた態度をまずは改めるべきだろう。
他人の口座とひも付けられたのは、カードの情報と口座名義の突き合わせができない点に起因する。カードのチップに入っているのは名前、住所、生年月日、性別で、名前の読み仮名はない。一方で口座の名義照会は読み仮名が頼りだ。照合できない関係なのに、ひも付けを進めようとすればトラブルが起きることは目に見えていた。
その失敗を補うために、今回の法改正で戸籍に読み仮名を登録することも決められた。しかし、国民一人一人の読み仮名を確定する作業は膨大で煩雑だ。
例えば濁点一つ違っても本人のものとはされない。本人や金融機関が読み仮名を誤記した口座もあるだろう。しかも、これで解決が進むのは、口座の誤ったひも付けに限った話である。
マイナカードを巡るトラブルは今回の2例以外にも、コンビニでの住民票の誤交付や、マイナ保険証の別人情報とのひも付け、マイナポイントの別人への付与などが既に明らかになっている。
改めて済む小さな不備ならいいが、制度設計自体が問われるとすればそれ以前の問題だ。不備が多岐ならば、対応に十分に時間をかけるのは当然だろう。
マイナンバー制度は「消えた年金」問題の教訓を受けて設計された。国民の年金情報を失った過去を反省したものならば、ずさんな管理があらわになったあの時の不手際を繰り返すことは許されるものではない。
保険証や運転免許証の一体化の検討は少なくとも立ち止まるべきだ。求められるのは迅速さではない。国民の信頼を得られる制度とその運営に尽きる。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年06月07日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。