◆2世問題噴出の可能性

 5月12日の立憲民主党を中心にした「統一教会」国対ヒアリングが開かれました。最初に、韓国に赴き現地を取材した鈴木エイト氏から話がありました。

 「今回はかなり大規模に行われた催しになりました。清平はリゾート地ですが、視界に入るところに、教団の施設が存在していました。今回、約2600人が(現地で)合同結婚式(祝福)を受けたわけですが、それ以上の人がこの地を訪れていました。多くの2世が合同結婚式に参加していますが、彼らは92年に行われた3万双、95年の36万双の合同結婚式に参加した信者らから生まれた2世と考えられます」

 現地を訪れながら、鈴木氏は「2世問題噴出の可能性を感じた」と話します。

 「2世の8割は離脱しているといわれるなかで、教団の意に沿うような、従順な子どもたちが今回、合同結婚式に参加しているのではないかと思います。今、祝福の相手を決める時に、教団は選択の自由が広がって、選べる余地があるといいますが、信仰が強い(従順な)2世ほど、紹介された人を断れない状況に追い込まれてしまいます。幸せそうなカップルもいたので、それを否定するものではありませんが、その陰で、今後、祝福を受けて生まれた子供たちのなかから、同じような宗教2世問題が起こり得る可能性があります。今後、2世問題が再生産されてしまうことが心配される」と話します。

 今回、オンライン参加を含めて、式に参加した日本人は993人ですので、そこから生まれた子どもたちに対する宗教虐待が繰り返されてしまうことは、絶対に避けなければなりません。

 ◆「私の人生は奴隷だった」と話す、元2世信者

 続いて、母親が現役の信者で、信仰2世として育った、Vチューバ―のデビルさんは「私の家は山上(被告)の家と同じように、ざっとみて1億円もの献金被害を受けています。天苑宮の完成と合同結婚式を、元信者として見て率直に思うことがある」と話します。

 「私の家族は、信者である母が行った多額の献金の肩代わりをするために、おばあちゃん、父親、私も、借金を抱えて返すだけの人生を今も送っています。これは私だけではなく、多くの人(信者を持つ人)たちも借金を返していると思います。そのお金が形になったものが(天苑宮として)建てられた。自分はお金を搾取されるためだけの存在だったのか。そのために生きていると思うと、生きるのが馬鹿らしくなりました」と悔しさをにじませます。

 「安倍元首相の事件のあった後にも、韓鶴子総裁は、日本の伝道10倍化と天苑宮の献金を求めました。被害者のことを何も思っていないと再確認しました。信者らの献金が形になった奉献式を見た時に、”私の人生は奴隷だった”と思い、吐き気をもよおしました。集められた献金のなかには、生命保険のお金や誰かの遺産も入っているはずです。私には、この神殿は墓にしかみえません」と言葉を詰まらせながら話します。

 ◆ステルス信者による誹謗中傷の嵐

 さらに今、次のようなことが起こっているといいます。

 「こうして顔を出さずに、Vチューバーとして活動しているのも、統一教会の信者が怖いからです。ネットでは、誹謗中傷、攻撃の嵐です。(信者らが)一般人のフリをして、正体を隠してやってくる。そして『教会(旧統一教会)は悪くない』というキャンペーンを行います。信者らの攻撃の激しさにより、せっかく声をあげた被害者も口をつぐんでしまうことが多く出てきています。外部の方が思っている以上に、今はひどい状況です。私も『自称被害者』『被害者ビジネスをやめろ』という言葉を毎日のように投げかけられます。私の母もネットでの工作をしています」

 こうした誹謗中傷の攻撃を受けて、精神的に追い込まれて、被害者が声をあげなくなってきている状況があり、デビルさん自身も「今、何をされるのかが、わからない不安がある」と話します。

 ◆「あんたも一時は加担したんだ。あんたみたいなのが一番むかつく」の書き込み

 以前に、元信者である筆者のもとにも、ステルス信者と思しき書き込みがありました。次のような文面です。

 「(旧統一教会の)組織の問題をあえて置いておいて言うけど、自分の意思で入信したんだから、自己責任だろ。クソ体験もこの人が選択した結果。マインドコントロールされたなんて言ってるけど、あんたも一時は加担したんだ。あんたみたいなのが一番むかつく」

 最初は、一般人からの書き込みと思いましたが、この人をフォローしている人たちは、ほぼすべて旧統一教会関係者でした。この場合、頭隠して尻隠さずなので、わかりやすいですが、巧妙に一般人を装ったステルス信者からの攻撃もあるでしょうから、被害の声をあげた人たちは本当に苦しんでいます。

 元エホバの証人3世である夏野ななさんが代表を務める、宗教2世支援団体である一般社団法人スノードロップでも、メンバーに対しての誹謗中傷があり、先日、警察庁の方に相談したのことです。これは旧統一教会だけはなく、カルト思想団体の組織的行動の一つとして捉えるべきものかもしれません。

 デビルさんの話を受けて、立憲民主党の山井和則議員は「これまでも統一教会によるヒアリングを47回行ってきて、20数名の被害者の方に話を聞いてきましたが、被害を訴えると、激烈な誹謗中傷、嫌がらせを受けます。被害者は苦しみを受けます。被害を受けた人は命がけで発言をされます。デマを流されて、大変な苦労のなか、発言をしていることを私たちは重く受け止める必要がある」と話します。

 絶対に、被害者が声をあげられない世の中にしてはなりません。

 ◆反対する者をサタンとみて、攻撃を仕掛ける形は電話から、ネットへシフト

 これまで旧統一教会は、組織的に霊感商法を行い、信者らは判を押したような形で霊界にいる先祖を救うためという名目で高額献金をさせてきました。こうした組織的な形で、自分たちの行為に反対する者たちをサタンとみて、攻撃的な言動を行うのは常套手段です。

 1980年代霊感商法が騒がれ出した頃、被害者を救済する弁護士らに対する攻撃は尋常ではありませんでした。弁護士の家には嫌がらせの電話が1日100件以上もかかって、注文をしていない商品が届く。さらには近所に顔写真は載ったビラがまかれたこともあったといいます。その手法は、今ネットに移っただけで本質は何も変わっていません。

 信者らは被害者や反対する人たちを悪魔、サタンといいますが、個人を攻撃して、心を傷つける。どちらが悪魔の所業といえるでしょうか。それは、その行動を見ればわかるはずです。

 今、必死になって、元信者や被害を受けた人たちは声をあげています。しかし声を上げればあげるほど、多くの攻撃にさらされて苦境に立たされてしまうのです。宗教2世問題は終わっていません。始まったばかりです。本気になって、国はこうした苦しみにあえぐ彼らをサポートしてもらえないでしょうか。

 ◆「霊感商法等対応ダイヤル」では宗教2世の問題を受けていますが…

 日本司法支援センター(法テラス)では、昨年11月14日より、霊感商法や高額献金等でお困りの方を対象に相談窓口情報を案内する「霊感商法等対応ダイヤル」0120-005931(フリーダイヤル)を開設しています。国対ヒアリングでは、霊感商法等対応ダイヤルに寄せられたの相談の分析状況も発表されました。

 しかし議員からは「『霊感商法等対応ダイヤル』の名前では、宗教2世問題を相談してよいかわからない。宗教2世の方で被害を受けた人が、たどり着けないのではないか」との質問もありました。

 法務省の室長は「霊感商法等対応ダイヤルでは、『等』とありますので、宗教2世の相談も受け付けております。今後、更に周知をはかりたい」と答えました。

 確かに、霊感商法等ダイヤルだけでは、金銭的な相談するところと思い、宗教虐待の相談窓口と思わずに、悩んでいる2世たちが多くいることが考えられます。名称を変えるなど、もっとわかりやすい形で告知することが必要です。

 ◆誹謗中傷の相談は52件と、まだ氷山の一角

 今、元信者らが誹謗中傷を受けているとの元信者からの報告もありましたが、昨年11月から2月末までに寄せられた4738件相談内容のなかにも、誹謗中傷・嫌がらせの相談が52件と、大きな割合を占めています。金銭被害などに続く、大きな被害の一つですが、これはあくまでもこの相談先(霊感商法等対応ダイヤル)にたどり着いた人の数字であり、まだまだ被害を受けて心を痛めたままの人は多くいると思われます。

 1980年代の霊感商法のように放置されて被害が大きくなるようなことがないように、こうした組織的な攻撃的な行動に対して、しっかりとした対策が施される必要があります。