【大谷昭宏のフラッシュアップ・06.12】:藤井7冠、この師匠にしてこの愛弟子あり 新幹線ミニ将棋講座
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【大谷昭宏のフラッシュアップ・06.12】:藤井7冠、この師匠にしてこの愛弟子あり 新幹線ミニ将棋講座
先週の「ひるおび」(TBS系)の控室。さっそくゲストの棋士、杉本昌隆八段に「先日はありがとうございました」のごあいさつから始まった。愛弟子の藤井聡太さんが20歳10カ月で史上最年少の新名人、そして7冠となった翌2日。そう、あの大豪雨の日。東京で「ひるおび」に出演された杉本さんを、私は名古屋の東海テレビでお待ちしていた。
ところがせっかく組んだ特番開始の約50分前の午後3時過ぎ、「新幹線が掛川駅で止まったままです」と局に厳しい声の電話。いま動いたとしても番組には間に合わない。スタッフは肩を落とし、割られるはずのくす玉が寂しくぶら下がっている。
だがその時、杉本さんは「電話でやりましょう」。番組開始から10分近く、藤井新7冠とはこれからゆっくり電話で話すこと。タイトルが念願だった愛知の将棋界に7つも冠を持ってきてくれたこと。最後尾16号車のデッキから話し続け、最後の言葉は、なんと「すごい雨です。どうか視聴者のみなさんも気をつけて」。
その豪雨の日から4日後。「師匠、あのあとどうされたんですか?」「ハイ、掛川駅で、ずっと車内に」「ええっ、あのままだったんですか?」
聞けば翌朝5時過ぎに動き出すまで14時間、新幹線車内に缶詰めだったという。配られたのは水とサプリメントだけ。「でもね、名人戦の長野からの帰りというファンに見つかって、午前2時から新幹線ミニ将棋講座。楽しかったですよ~」。
折にふれて「万里一空」(困難があっても、まっすぐ目標に向かうこと)と揮毫(きごう)する藤井7冠。この師匠にして、この愛弟子あり。梅雨の雲間に、やわらかな日の光を見た思いだった。
◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)
ジャーナリスト。TBS系「ひるおび!」東海テレビ「NEWS ONE」などに出演中。
■大谷昭宏のフラッシュアップ
元読売新聞記者で、87年に退社後、ジャーナリストとして活動する大谷昭宏氏は、鋭くも柔らかみ、温かみのある切り口、目線で取材を重ねている。日刊スポーツ紙面には、00年10月6日から「NIKKAN熱血サイト」メンバーとして初登場。02年11月6日~03年9月24日まで「大谷昭宏ニッポン社会学」としてコラムを執筆。現在、連載中の本コラムは03年10月7日にスタート。悲惨な事件から、体制への憤りも率直につづり、読者の心をとらえ続けている。
元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【話題・連載・「大谷昭宏のフラッシュアップ」】 2023年06月12日 08:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。