【主張②・01.05】:日鉄の計画阻止 米大統領の判断は疑問だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【主張②・01.05】:日鉄の計画阻止 米大統領の判断は疑問だ
米国にとって、同盟国とはどんな存在なのだろう。そんな疑問を強く抱かせる判断となった。
日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画について、バイデン米大統領が買収を阻止する決定を下した。極めて残念な判断である。
USスチールの工場=米ペンシルベニア州(AP=共同)
日鉄は買収後も工場を閉鎖せず雇用を守ると訴えてきた。USスチールの製鉄所に27億ドル(約4200億円)の設備投資を行う計画も示していた。買収が実現すれば、日鉄の先端技術を共有しUSスチールの競争力を高める効果が期待できた。
世界の粗鋼生産の過半を占める中国企業に対抗する手段でもある。バイデン氏は買収が「安全保障と重要な供給網にリスクをもたらす」としたが、日鉄の計画は経済や軍事の基盤となる鉄鋼を米国内で安定的に生産することにも資する。今回の判断は中国を利するだけである。
これまで米大統領が外国企業による買収阻止を命じたケースの多くは中国企業だった。同盟国である日本の企業では例がない。日米両政府は中国を念頭に、半導体など幅広い分野で経済安保上の協力を進めている。鉄鋼分野では連携できないという判断は整合性を欠く。
日鉄は「法的権利を守るためにあらゆる措置を追求する」とし、訴訟も辞さない構えだ。同盟国という関係も、買収を求める地元自治体の意向も無視した今回の判断に納得がいかないのは当然である。
USスチールに対する買収計画を巡っては、全米鉄鋼労働組合(USW)が一貫して反対してきた。米大統領選を控え、労組票を取り込みたい民主、共和両党の大統領候補とも買収に否定的な考えを示してきた。
このため、日鉄は政治的な影響を避けようと、いったん買収計画を取り下げ、昨年9月に対米外国投資委員会(CFIUS)に対し再申請を行った。CFIUSは買収に安全保障上の懸念があるかどうか審査していたが結論を得られず、バイデン氏に判断を委ねていた。
合理的な根拠がないまま、日本企業による買収計画が阻止されたことで、日米の信頼関係への影響も懸念される。米国ではトランプ次期大統領が1月20日に就任する。日米両政府には、改めて強固な同盟関係を構築することが求められよう。
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