《社説②・01.07》:USスチール買収阻止 信頼損ねる理不尽な判断
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・01.07》:USスチール買収阻止 信頼損ねる理不尽な判断
バイデン米大統領が、日本製鉄によるUSスチール買収計画に中止命令を出した。民間企業の取引に介入する異例の事態である。
同盟国からの投資にもかかわらず、安全保障のリスクを持ち出して阻む。米国への信頼を損ねる理不尽な判断と言わざるをえない。
業績不振のUSスチールは生産量が世界24位と低迷している。4位の日鉄による約2兆円の買収提案に応じることで合意していた。
バイデン氏は「基幹産業が外国の支配下に置かれると安全保障にリスクをもたらす」と説明した。だが米政府が過去に買収を認めなかったのは、政治的に対立する中国の企業などに限られる。
米国はこれまで、重要物資と位置付ける半導体で同盟国と供給網を構築し、対中輸出規制で日本に同調を求めてきた。それなのに、鉄鋼で日米双方の企業が同意した連携を覆すのは筋が通らない。
安全保障は方便に過ぎず、自国企業を守る姿勢を国内向けにアピールするのが狙いではないか。
かつて世界最大の生産量を誇ったUSスチールは、米国で「繁栄の象徴」とみなされてきた。外資による買収に抵抗感は強い。とりわけ強硬なのは全米鉄鋼労働組合だ。退職者も含めて約120万人が加入し、影響力は大きい。
昨年の大統領選で勝利した共和党のトランプ氏は買収反対を明言してきた。バイデン氏は民主党の失地回復に向けて、労組に配慮したとの見方がある。
だが、外国からの投資を締め出す保護主義は国益を損なう。
日鉄は米国での収益拡大を目指し、最新設備の増強を表明した。USスチールは買収が成立しなければ、工場閉鎖に踏み切る方針を示唆してきた。労組が重視する雇用も打撃を受けかねない。
経済的な合理性よりも政治的な思惑が優先されれば、日本など各国の企業が対米投資に二の足を踏む可能性もある。
米国経済が発展したのは、自由貿易を掲げ、海外の投資や人材を積極的に受け入れてきたからだ。
「米国第一」を振りかざすトランプ政権の発足で、内向きな姿勢に拍車がかかることが懸念される。開かれた市場に背を向ければ、国際社会に対する大国の責任は果たせない。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月07日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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