【社説・01.08】:日鉄の買収阻止/容認できない米国の介入
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・01.08】:日鉄の買収阻止/容認できない米国の介入
合理的な根拠を欠いたまま、政治が民間企業の経営に介入した。受け入れがたい事態である。
バイデン米大統領が、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収を禁止する命令を出した。買収により大手鉄鋼メーカーの一つが外国企業の支配下に入れば、「安全保障と重要な供給網にリスクをもたらす」と主張している。
買収計画は同盟関係にある日米の企業同士が合意したものだ。敵対的な内容ではない。海外からの投資を成長力としてきた米国で、大統領がそれを認めないのは極めて異例といえる。米政府は半導体の対中輸出規制強化に歩調を合わせるよう、日本に求めてきた。半導体で手を組みながら、鉄鋼は安保上の懸念から排除するという理屈は通るまい。
日鉄側が強く反発するのは当然だ。USスチールと共同で大統領らを相手取り、買収禁止命令の無効を求めて提訴した。きのう会見した日鉄の橋本英二会長は「違法な政治介入」と批判し、徹底抗戦する姿勢を鮮明にした。
米国は買収阻止に至った判断を詳細に説明せねばならない。後ろ向きな対応が続けば、対米投資はやがて鈍り、不利益が米国民に及ぶ可能性がある。日米関係への影響も懸念される。
かつて世界最大の鉄鋼メーカーだったUSスチールの買収計画は、2023年12月に発表されるとすぐに政治問題化した。
粗鋼生産量で世界4位の日鉄は、24位のUSスチールを2・2兆円で買収し、3位の鉄鋼メーカーとして競争力を高める戦略を描く。買収後10年は米政府の承認なしにUSスチールの生産能力を削減しない方針も示したが、全米鉄鋼労働組合が強硬に反対してきた。
USスチールが本社を置く東部ペンシルベニア州は、大統領選の激戦州である。昨年11月の選挙では、共和党のトランプ氏、民主党のハリス氏の両候補が、労組票の獲得を狙い、買収に反対を表明した。バイデン大統領は次の中間選挙をにらみ、禁止に踏み切った方が民主党に有利になると判断したようだ。
鉄鋼業界の大型再編は司法闘争に発展した。トランプ次期大統領も買収は不要との考えを示しているが、買収を認めるかわりに他の分野で日本に譲歩を迫るなど、就任後の「取引」の材料にするのではとの懸念は拭えない。
石破茂首相は年頭会見で「(懸念の)払拭に向けた対応を米政府に求めたい」と述べた。政府として日鉄への支援策を検討するという。事態打開に向け、米国に説明を求め、再考を促す努力が不可欠だ。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月08日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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