【社説①・01.06】:国際情勢と日本 安定に多国協調が必要だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・01.06】:国際情勢と日本 安定に多国協調が必要だ
第2次大戦終結から80年を迎える世界を不穏な雲が覆う。「力による支配」から「法の支配」を目指した戦後の国際秩序が大きく揺らいでいる。
波乱をもたらす要素は各地に存在し、国際協調は試練にさらされそうだ。日本も外交力が問われる一年となるだろう。
■トランプ政権に恐々
最大の注目は今月20日の米トランプ政権の再スタートである。
自国第一主義を掲げ、敵視する中国などに強硬な姿勢で向き合うのは1期目と変わらない。
不安材料は尽きない。一つは高関税だ。トランプ氏は当選後に自身の交流サイト(SNS)で、中国からの輸入品のほぼすべてに10%の追加関税を課し、カナダとメキシコには25%の関税をかけると表明した。
米国の貿易赤字削減を目指す自国優先の発想のようだ。対象国の拡大もあり得る。2023年の米国の輸入相手国で、メキシコ、カナダ、中国、ドイツに次ぐ第5位の日本も決して安心できない。
米政府の歳出削減のため、日本に在日米軍駐留経費の大幅な負担増を迫る可能性もある。
トランプ氏は多国協調の枠組みに否定的だ。バイデン政権で進展した日米韓の連携をはじめ、日米に韓国やオーストラリア、フィリピンを加えた協力枠組みなどを軽視しかねない。
中国や北朝鮮への抑止力が弱まり、アジアの平和と安定が揺らぐ事態が懸念される。
石破茂首相はトランプ氏との直接会談を早期に実現させ、意思疎通を図るべきだ。同盟国の立場から日米連携の価値と国際協調の重要性を説いてほしい。
ウクライナでの戦闘にも影響があるかもしれない。トランプ氏は「(大統領に復帰すれば)戦争を24時間以内に終わらせる」と豪語する。どのようにして停戦に導くかは不明だ。
ウクライナに対して支援停止の脅しをかけ、ロシアに占領された領土の返還を諦めさせるような停戦だと、国際秩序を乱したロシアを利する。
パレスチナ自治区ガザでの戦闘停止にも意欲を示す。イスラエル寄りの停戦合意になっては、戦闘がいつ再燃するか分からない。米国にはイスラエルに強く自制を促す責務がある。
■韓中との関係前進を
アジアで最も目が離せないのは隣の韓国だ。
韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は昨年12月に宣言した非常戒厳で国内を混乱に陥れ、国会は尹氏の弾劾訴追案を可決した。憲法裁判所が弾劾は妥当と判断すれば罷免され、大統領選が行われる。
憲法裁の判断には2、3カ月を要するとみられる。尹氏は内乱罪の疑いで捜査も受けている。
トランプ政権の再始動が日米韓の連携に影響を及ぼす不安がある中で、日韓の協力関係が弱まる事態は避けたい。
折しも日韓国交正常化から60年の節目である。尹氏のリーダーシップで、極度に悪化していた両国の関係は劇的に好転した。この流れを止めてはならない。
トランプ氏の再登板で米国との対立激化が予想される中国は、日本産水産物の輸入再開へかじを切るなど、このところ日本との関係改善を探る動きを強めている。日本は官民両面で中国への働きかけを強めたい。
石破首相は中国の習近平国家主席との会談を通じ、反スパイ法の是正や中国で身柄を拘束された邦人の早期解放を要求すべきだ。
昨年は日本原水爆被害者団体協議会(被団協)がノーベル平和賞を受賞するうれしいニュースがあった。
広島、長崎に原爆が投下されて以来80年近く、世界の戦争で核兵器が使われなかったのは、被爆者の身を削る訴えが「核のタブー」を確立させたからだ。
被爆体験を国際社会で共有し、「核兵器なき世界」へ近づく外交に尽力することが日本政府の役割である。当面は核兵器禁止条約への対応に注目したい。
元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月06日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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