【社説①・01.07】:2025年問題 社会保障の改革に道筋を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・01.07】:2025年問題 社会保障の改革に道筋を
福岡県朝倉市の高齢者施設「さわやかいずみ館」で、インドネシア人の女性2人が介護職として働く。入居する女性に顔を寄せ、流ちょうな日本語で優しく声をかけるエレンさん(31)は施設に欠かせない人材だ。
2年半前に来日してから、まだ一度も帰国していない。「1カ月ぐらい休みがあればいいけど、勤務シフト上は難しい」と話す。6歳の子どもは母国で両親が世話をしている。
政府の外国人介護人材受け入れ策として入国し、就労は通算5年に限られる。介護福祉士の資格を取れば延長が認められる。エレンさんは入居者の笑顔にやりがいを感じつつも、日本で働き続けるかは思案中だ。
介護従事者の不足に、どの地域も頭を痛めている。介護だけではない。高齢化と少子化が急速に進むこの国で、年金や医療を含む社会保障をどのようにして持続させればよいか。難問が重みを増す年を迎えた。
■九州の支え手3割減
かねて「2025年問題」と呼ばれている。
第1次ベビーブームの団塊世代(1947~49年生まれ)の全員が75歳以上になる節目の年で、総人口のおよそ6人に1人が後期高齢者になる。
社会保障の給付費は大きく膨らむ。25年度の約140兆円から、65歳以上の人口がピークに達する40年度には約190兆円になる見込みだ。これを保険料や公費で賄う必要がある。
支え手である生産年齢人口(15~64歳)は減る一方だ。95年は総人口の7割程度を占めたが、22年は約6割にまで減っている。
この基調は当分変わらない。九州7県で、50年までの30年間に3割減るという推計もある。半減する自治体も少なくない。既に医療や福祉の人手不足が深刻な地域では、さらに厳しい状況になることが懸念される。
単身の高齢者や認知症になる人が増えるなど、課題は多様化している。人口減少や住民の結びつきが弱くなった影響で、かつてのような見守り支援ができない地域もある。
人手不足を改善する手だてを急ぎたい。介護職の処遇改善を着実に進めるとともに、貴重な担い手の外国人が働きやすい環境を整えるべきだ。
支援が必要な人に適切なサービスを届けるには、健康寿命を延ばし、元気に過ごせる高齢者を増やす取り組みも欠かせない。
■応能負担を徹底せよ
若い世代は社会保障制度の将来に不安を抱いている。安心して負担を分かち合えるように、痛みを伴う改革に早く着手しなくてはならない。
経団連は昨年12月、団塊ジュニア世代(71~74年生まれ)の全員が高齢者となる40年までの中期ビジョン「フューチャー・デザイン2040」を発表した。
財源不足を克服するため、富裕層の所得税の負担強化など個人の経済力に合った応能負担の徹底を提言した。若い世代の社会保険料の伸びを抑えるのが狙いだ。
金融資産への課税強化などで34年度に5兆円程度の財源が確保できると試算し、足りない場合は消費税増税や企業負担で補う。
提言は検討に値する。研究機関などの改革案と併せて、国民的な議論を活発化させたい。
忘れてはならないのは、社会保障の本質である支え合いだ。超高齢社会の共通認識としたい。
誰もが老い、体の機能が低下する。いつ支えられる側になってもおかしくない。
エレンさんは「周りのみんなが優しく、日本が大好きです」と笑顔を見せる。福祉は現場の人たちの情熱で成り立っている。そこにも思いを寄せる必要がある。
社会福祉や公的扶助は、さまざまな境遇の人たちを包摂する共生社会の基盤である。
どこに住んでいても支援を受けることができ、制度から漏れる人をつくらない。福祉国家への道筋を確かにする年にしたい。
元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月07日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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