【社説】:映画界の働き方 「やりがいの搾取」改めよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:映画界の働き方 「やりがいの搾取」改めよ
映画は私たちの人生を豊かにしてくれる娯楽、文化である。その製作現場では過酷な労働環境やハラスメントが問題になってきた。
厳しい労働環境が原因で志を持つ人が業界を去り、人手不足が現場の負担をさらに重くする悪循環を止めなくてはならない。作り手が魅力ある作品を生み続けるには、能力を発揮できる環境整備が必要だ。認定制度をその一歩にしてもらいたい。
経済産業省の調査では、映画製作のスタッフはフリーランスが7割を超える。契約書や発注書を交わしていない人は6割を超え、長時間労働、低収入、報酬の未払いなどが横行している。
製作現場では監督やプロデューサーらに権限が集中し、スタッフは発言しにくいという。旧態依然とした男性社会であり、徒弟制度のような慣習も根強い。フリーの人たちの団体によると、ハラスメントに遭った経験がある人は半数に上る。
映画製作への意欲につけ込み、不当な労働を強いる状況は「やりがいの搾取」といわれる。芸術の世界だから特別という考えは通用しない。
ガイドラインは、全てのスタッフの作業や撮影の時間を1日13時間以内と定め、週1日は撮影を休みとした。安全管理とハラスメントの相談窓口を整え、契約書や発注書を交わすことも明文化した。
ルール化は評価できるが十分ではない。ガイドラインに強制力はない。13時間は依然として長く、社会全体の働き方改革に目を向けるべきだ。
実効性も気になる。「映適マーク」の審査をする日本映画制作適正化機構は寄付や審査料で運営される。財源は限られ、初年度の審査は20本程度にとどまる見込みだ。
マークの定着には映画を見る人の後押しが欠かせない。製作現場への関心が広がることが認定作品を増やし、環境改善を促すのではないか。
映画界では昨年、性加害の告発が相次いだ。監督らが優越的な立場を悪用し、俳優に卑劣な行為に及んだことが明るみに出た。業界全体が問題に取り組む契機になった。
監督有志は反暴力の声明を出し、フランスや韓国にある映画専門の支援機関のような組織づくりを提言した。
興行収入の一部などを財源にして、業界のために活用する仕組みだ。小規模の映画に助成するほか、労働時間を定め、ハラスメントを防ぐ研修をしている。日本でも検討に値する組織だろう。
セクハラや性被害がないように、性的描写がある撮影に助言をする専門家が日本には少ない。人材育成が課題だ。多様な人材が活躍してこそ、映画文化は発展する。
元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【社説】 2023年05月26日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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