《余録・12.15》:はがきに肉筆で書かれた文面は筆者の人柄や…
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《余録・12.15》:はがきに肉筆で書かれた文面は筆者の人柄や…
はがきに肉筆で書かれた文面は筆者の人柄や、置かれた状況をしのばせることも多い。森鷗外記念館(東京都文京区)で開催中の「111枚のはがきの世界」は、そんな関心をそそる企画展だ。明治から昭和まで、89人の文化人が差し出したはがきを展示している
▲作家、夏目漱石が自作の絵について年下の画家に「明日(中略)来て見てくれませんか」と丁寧に論評を頼んだ便りがある。岩手県出身の歌人、石川啄木は勤めていた北海道・小樽から「さすらひ来し北の浜辺の冬は寒く候」と哀切につづった年賀状を出した。1908(明治41)年、同郷の言語学者、金田一京助にあてたものである
▲「はがき文化」の退潮を象徴するかのような、年賀状の現状である。15日から受け付けが始まるが、はがきの郵便料金を日本郵便が63円から85円に引き上げて初めて迎えるシーズンだ。年賀はがきの発行枚数は10億7000万枚と、前年より25%減った
▲2003年のピーク時、発行は約44億6000万枚に達した。それがSNSの普及とともに、4分の1程度に減ったことになる
▲近年は、年賀状を今回限りで終える一文を添える「年賀状じまい」も増えている。文面を印刷してあるはがきや、その旨を印字するスタンプが文具店などで売れ行き好調という
▲ネット利用の浸透、値上げと物価高、人口減少と取り巻く環境が厳しさを増す年賀状である。それでも年に一度、近況を書く時間くらいは、はがき文化のためにも取っておきたい気がする。
元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【余録】 2024年12月15日 02:03:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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