【社説・12.27】:海自と防衛産業の癒着 解明なくして増税なし
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.27】:海自と防衛産業の癒着 解明なくして増税なし
海上自衛隊の潜水艦修理契約に絡んで、川崎重工業が架空取引で裏金を捻出し、隊員接待や物品贈答に充てていた。防衛省の特別防衛監察の中間報告で明らかになった。
潜水艦の製造・修理は専門性が高く、国内で担えるのは川重と三菱重工業だけ。寡占状態が自衛隊と防衛産業との癒着を生んだのではないか。
川重だけではない。三菱重工も、川重に比べ少額とみられるが、仕様書にない備品を納入していたことが特別監察で判明した。調査を徹底させ、根深い癒着のうみを出し切らなければならない。
中間報告によると、川重が繰り返した架空取引は2018年度からの6年間で約17億円に上る。一部をプールして裏金にする一方、架空取引分は経費に加えて計上し、防衛省に報告していたという。
過剰に払わされた分について、防衛省は川重と三菱重工に返納させる方針だ。隊員向けに使った裏金分まで含めて支払っていたのだから、返却させるのは当然である。
架空取引で捻出した十数億円については、国税局も経費とは認めず、所得隠しをしていたと判断するようだ。厳しい対応が求められる。
海自の潜水艦は25隻全て、川重か三菱重工が製造。1年ごとの運用検査や3年に1度の定期検査と、それに伴う修繕作業、臨時の修理も原則、この2社が担っている。
修繕作業中など、川重社員と潜水艦の乗員が一緒に過ごす時間が長くなっていた。それが長年続き「社員は制服を着ていない自衛官」といった身内意識が双方に芽生えた。こうした環境が「なれ合い」を生み、隊員はけじめを欠き、公務員倫理にもとる行動をとってしまったようだ。
裏金による具体的な金品提供の詳細は、特別監察で調査を続けている。今のところ、飲食接待のほか、商品券や携帯型ゲーム機、ブランド品の作業着、高額の家電製品などを贈ったとみられている。多岐にわたる金品は、両者の深いなれ合いを象徴している。
架空取引は一体いつ始まったのかは分かっていない。中間報告は18年度からと判断したが、10年以上も前からの慣行だったとの指摘もある。川重自身も調査中だ。防衛省の発注額は適正だったのか。金品提供は川重か海自か、どちらの主導か。それらを含めて明らかにすべきことは多い。
自衛隊・防衛省は7月に、特定秘密の不適切運用などで過去最大級となる218人もの大量処分をしたばかり。うち、海自トップの海上幕僚長を含む117人が懲戒処分になった。組織の規律が緩んでいないか。不正を許さぬよう隊員の意識改革や、組織風土の抜本的改善が急がれる。
折しも政府は5年間で43兆円という防衛費の大幅増に向け、法人税やたばこ税の上乗せを決め、所得税の上乗せを検討している。しかし不祥事が相次ぐのでは、防衛増税など国民は到底納得するまい。
まずは、防衛産業との癒着の全容解明が不可欠だ。それをせずして、再発防止も望めないし、防衛増税への理解も進むはずはない。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月27日 07:00:00 これは参考資料です。転載等は、各自で判断下さい。
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