路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

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《社説①・01.01》:民主主義どこへ 分断を解かす言葉こそ

2025-01-01 09:30:50 | 【選挙・衆院選、参院選、補選・都道府県市町村長・地方議会・公職選挙法・買収事件】

《社説①・01.01》:民主主義どこへ 分断を解かす言葉こそ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・01.01》:民主主義どこへ 分断を解かす言葉こそ

 思い返せば、あの時が予兆だったのかもしれない。

 7年半前の2017年7月1日、東京都議選の投票日前日だ。東京・秋葉原の街頭で自民党の支持を訴えた安倍晋三首相(当時)に、一部の聴衆が「辞めろ」「帰れ」コールを浴びせた。

 安倍氏は言い放つ。「こんな人たちに、私たちは負けるわけにはいかない」と。自分を批判する「こんな人たち」に対抗する「私たち」。「敵と味方」を切り分け、味方の支持を引きつける。

 全国民に責任を負う職務を忘れたような発言は批判され、自民党は惨敗する。ただ、安倍氏は国政選挙では連勝し、「数の力」で強権的な政治手法を続けていく。広く合意を得る民主主義の手法は見られなくなっていった。

 目指したのは、自民党を支える保守層の宿願である改憲だった。対外的な強硬路線はナショナリズムをあおり、あおられる。経済再生を図る手法は、長期化する不況で生活基盤が危うくなっていた人たちの支持も集めた。

 協調外交や民主主義的手法を重視するリベラル系政党や支持者は「左」とひとくくりにされ、旧民主党政権は「悪夢」とされた。

 批判された側も感じたのではないか。安倍氏の支持者を「あんな人たち」と。分断はいつの間にか底が見えないほど深まっていた。

 ■成り立たない会話

 「あんな人たち」と「こんな人たち」との間では、会話が成立しなくなっている。加速させたのがSNSだ。当初は言論の可能性を高めるとされた。現実は弊害が放置できないほど大きくなった。

 SNSは利用者の閲覧履歴を解析し、見たいと思われる情報を表示する。「自分が探し出した」と思った情報の多くは、実際は「SNSに見せられた」情報だ。情報は偏り、異論や別視点に触れる機会が失われる。「フィルターバブル」といわれる現象だ。

 「あんな人たち」に共感される情報は「こんな人たち」には表示されにくい。逆もしかりだ。それぞれの空間では、場の空気に反する言葉や意見は敵視される。中の人たちは空間で共感される言葉だけを発し、言葉は「いいね」という記号をつけられて「消費」され、根拠不明でも拡散されていく。

 負の側面が表れたのが昨年の選挙だ。11月の兵庫県知事選では真偽不明の情報がSNSで繰り返し流された。パワハラ疑惑などで不信任案が可決された斎藤元彦氏の支持につながる情報が多く、再選の原動力になったとされる。

 SNSが結果を左右したのは、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が善戦した7月の東京都知事選や、国民民主党が躍進した10月の衆院選も同様だ。

 ■SNSのリスク

 既存メディアが信憑(しんぴょう)性や公平性への疑念から報じない情報が、SNSで流され、利用者はSNSに「隠された真実」があるとみなした。新聞をはじめとしたメディアも、フィルターバブルの醸成に無縁とはいえない。

 同様の構図は、11月にトランプ氏が再選した米大統領選でもみられた。SNSで世論を操れば選挙の勝利に直結する現実。ノウハウは既に確立されつつある。

 昨年11月のルーマニア大統領選では危険性があらわになった。泡沫(ほうまつ)とされた候補がSNSによる選挙運動で首位に。その後、インフルエンサーが報酬を得て情報を広げたことが判明し、憲法裁判所が選挙無効を宣言している。

 この候補はロシアのプーチン大統領を称賛していた。躍進の裏にはロシアの介入があったとされ、選挙の2週間前に約2万5千のアカウントがこの候補に関する投稿で突然活発になったという。

 ■時間をかける意味

 SNS選挙がさらに一般化すれば、特定勢力が資金とノウハウを活用し結果を操ることが可能になりかねない。国民に分断があれば危険はさらに高まる。フィルターバブルをもたらす仕組みだけでなく、投稿が注目されれば広告収入が増える「アテンション・エコノミー」の弊害検証する時だ。

 新たな年。民主主義の危機を乗り越えられるのか。

 社会の同調圧力をテーマとした作品を多く手がける作家の星野智幸さんは、キーワードとして「消費されない言葉」を挙げる。

 「いまは言葉が一瞬の快楽や共感をもたらす手段としてしか使われていない」と指摘。「時間をかけて、言葉や言説の意味を考える喜びや体験を増やしていくことが一番の有効な道だ」とする。

 民主主義は、異なる考えを持つ人たちが互いの意見に耳を傾け、取り入れながら調整し、制度を作っていく仕組みだ。異なる言葉や意見を「消化」し、新たなものを練り上げるには時間がかかる。

 自民と公明の政権が少数与党となった国会はその意義を示す「最善の機会」と考えたい。今月召集される通常国会で、与野党が「消費されない言葉」をどれだけ交わすことができるか。民主主義の価値を国民が確認する重要な時だ。

 元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2025年01月01日  09:30:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。


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