《社説②・12.04》:ウクライナ和平 苦渋の訴えに応える道を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.04》:ウクライナ和平 苦渋の訴えに応える道を
ウクライナのゼレンスキー大統領が共同通信と単独会見し、ロシアによる占領地の一部を武力ではなく外交で取り戻すと表明した。
2022年2月にロシアによる全面侵攻が始まって以降、全領土の奪還を掲げて抗戦を続けてきた。厳しい戦況を踏まえて現実路線にかじを切る形だ。
最大の後ろ盾だった米国では、支援に消極的なトランプ氏が大統領に返り咲く。占領された領土の割譲を強いてでも、早期の幕引きを図るとの見方がある。窮地に陥りかねず、後手に回らぬよう意思表示したとみられる。
もともと東部ではロシア軍の前進を許し、攻勢にさらされている。実現が難しい武力での奪還に固執すれば、欧米の支援を失いかねないとの危機感は強いだろう。
条件としたのは、欧米の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)への加盟だ。ロシアの侵略を抑止する安全保障環境を整えた上で、外交により領土の回復を目指す考えを示した。
ただ、NATO諸国はロシアとの戦争に巻き込まれる恐れがあり、ウクライナの加盟に慎重論が根強い。ロシアの脅威にさらされるポーランドやバルト3国が積極姿勢を示す一方、米国やドイツは消極的だ。NATOはウクライナの加盟を「不可逆的な道」と支持しつつも、実際には早期加盟は難しいだろう。
トランプ次期政権内では、ウクライナがNATOに少なくとも20年間は加盟しないと約束する代わりに、米国がロシアを抑止するために十分な兵器の供給を続ける案もあるとされる。
ロシアのプーチン大統領は、NATO加盟断念に加え、一方的に併合した東部・南部4州からのウクライナ軍撤退を和平条件として突き付けた。ウクライナに降伏を迫るに等しい要求だ。
ゼレンスキー氏は会見で「一日も早く公正な形で終わらせることが重要だ」と訴えた。欧米をはじめ国際社会は、ウクライナが納得できる条件での早期停戦を追求しなければならない。
終戦後の安全を確保する責務も負う。ゼレンスキー氏は「NATOに代わる案は経験上存在しない」と述べたが、NATOへの早期加盟のハードルが高いのなら、ロシアとの戦争を再燃させない他の方策を模索する必要がある。
徹底抗戦の旗を降ろした意味は重い。各国は国際法に反したロシアの侵攻を容認しないことを前提にしつつ、苦渋の訴えに応える道筋を探る時に来ている。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月04日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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