《社説②・12.08》:トランプ氏の高官人事 「帝国」を築くというのか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.08》:トランプ氏の高官人事 「帝国」を築くというのか
米国のかたちが変わるのか。トランプ次期大統領の就任を来月に控え、ただならぬ空気が漂う。
来年1月20日の就任初日は「独裁者」になると豪語し、大量の大統領令に署名するという。伝えられるその内容に耳を疑う。
米下院共和党との会合で話すトランプ次期大統領=ワシントンで2024年11月13日、ロイター
軍改革に向けて、忠誠を誓わない軍高官を更迭対象としてリストアップするチームを発足させる。
国家非常事態を宣言し、軍も動員して史上最大の不法移民の一斉検挙と国外追放を強行する。
司法省に対して、自分を訴追した検察官を排除し、政敵を捜査するよう命令する。
いずれも人権などの観点から憲法との整合性が問われる。それを意に介さず、実行に向けて忠実な腹心を閣僚や高官に起用し、着々と態勢を整えている。
とりわけ懸念されるのが、法執行機関の人事だ。
2020年大統領選開票作業への不正介入などで訴追されたトランプ氏は、バイデン政権と民主党による不正捜査と主張してきた。
司法長官には、トランプ氏と対立する行政機関を「影の国家」と呼び、幹部らの摘発を主張する側近の弁護士を充てる。
トランプ氏を捜査した連邦捜査局(FBI)の長官には、FBIを「閉鎖」すると訴える元連邦検事を起用する。
捜査機関を道具に報復するというなら、警察国家になる。独裁者として君臨する「トランプ帝国」を築こうとしているかのようだ。
深刻なのは、立法や司法が行政を監視するチェック機能を果たせなくなる恐れがあることだ。
上下両院は与党の共和党が過半数を握る。連邦最高裁も保守派が多数を占める。権力の乱用を抑制できず、米国の政治システムが危機に陥りかねない。
自由や平等の理念を追求し、法に基づく秩序の下で安定と平和に尽力する。それが「世界の道標」たる米国の姿ではなかったか。
「トランプのアメリカ」は、同じ価値観をこれからも引き継いでいけるのか、という疑問を生じさせている。
米国の民主主義が問われる局面である。ロシアや北朝鮮に象徴される専制国家のように振る舞うのであれば、国際社会の信頼を損なうだけだ。
元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月08日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。