【社説①・12.08】:滋賀県警証拠放置 「公有財産」の意識徹底せねば
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・12.08】:滋賀県警証拠放置 「公有財産」の意識徹底せねば
客観的な証拠を重視する刑事司法の土台を崩し、捜査への不信を招きかねない。重大な不祥事と認識すべきだ。
滋賀県警の7警察署で、3800点を超す大量の証拠品が、署の倉庫などに放置されていたことが明らかになった。
見つかった物品の約6割が何の事件の証拠か不明だった。残りは300件超の事件への関係が特定できたが、その9割超はすでに公訴時効を迎えていた。
多くは窃盗や薬物事件で、県警は捜査に影響はなかったとしている。警察官による意図的な放置や隠蔽(いんぺい)はないとするが、証拠の中には40年超も前に押収したとみられるものもあった。
放置は県内12署の過半に及び、ずさんな管理が常態化していたとみられても仕方ない。
県警は謝罪し、押収品の所有者返還などを進めるという。
本当に捜査に影響しなかったのか。組織に根付く問題はないのか。第三者も交え、点検と再発防止を進めるべきだ。
押収した証拠品は、頻繁に出し入れする「短期保管」と、押収から一定の期間を経た「長期保管」に分けて管理簿に記録する決まりになっている。各署では月に一度、管理簿と保管庫の証拠品の一致点検も行う。
ところが、放置証拠品はそもそも記録がされておらず、段ボールなどに入れられたまま保管庫外に残されていた。人事異動でも引き継がれていなかった。
県警は2016年から、近江八幡署内に開設した「証拠品等管理センター」で長期保管する証拠品を一括管理する取り組みを進めていた。時効が近づくと、パソコンに警告が表示されるシステムも取り入れている。
見つかった放置証拠は、こうした取り組みが始まる以前の押収品とみられる。
だが、システムを機能させるのも個々の捜査員であり、押収したまま記録もせずに放置する体質が残っているなら、捜査への疑念が生じかねない。
証拠品の管理はますます重要になっている。10年に刑法や刑事訴訟法が改正され、殺人など死刑になりうる罪の公訴時効が撤廃され、傷害致死罪なども延長された。
捜査機関が保管する証拠品の数が増える上、DNA鑑定などの進歩に合わせ、より良好な状態で証拠を保存していくことも求められている。
その一方で、捜査員が紛失してしまった証拠を捏造(ねつぞう)したり、捜査書類を勝手に廃棄してしまったりする不正が全国の警察で起きている。
捜査機関には、証拠品は有罪立証のための資料だとの考えがいまだ根強く残っているとの指摘がある。過去の冤罪事件では、捜査当局の非公開資料が開示されて無罪につながっている。
一つ一つの証拠が、真相解明を支える「公有財産」との意識を組織に徹底せねばならない。
元稿:京都新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月08日 16:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。