《社説②・11.19》:兵庫知事の再選 疑念は解かれていない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・11.19》:兵庫知事の再選 疑念は解かれていない
兵庫県知事選で、前知事の斎藤元彦氏が再選された。
県議会から全会一致の不信任決議を受け、自ら失職を選んで臨んだ選挙だった。
パワハラ疑惑などの告発への対応の是非が問われた。当初は不利とみられていた斎藤氏はSNSをフル活用し、自らの正当性や実績を訴えた。支持は急速に広がり、111万3911票を得て7人が立候補した混戦を制した。
「何が正しく、何が真実か、そしてどうあるべきかを判断していただいた」と斎藤氏は選挙後に述べた。とはいえ、斎藤氏に対抗する有力候補とされ、次点となった元尼崎市長、稲村和美氏が得た97万6637票も重い。
端緒は3月だった。当時の幹部職員が、斎藤氏のパワハラや贈答品“おねだり”疑惑をまとめた文書を報道機関や県議に流した。斎藤氏に「うそ八百」だとして解任された幹部はあらためて県に公益通報を行ったが、県は調査結果を待たずに懲戒処分を下した。
告発の中身はまっとうなのか。調査特別委などで、斎藤氏はパワハラや贈答品受領について一部反省は口にしつつも「過大な要求ではない」「社交儀礼の範囲内」などと語った。
告発者を保護せずに処分を急いだ―と専門家らがその違法性を指摘する公益通報者保護制度の運用では、斎藤氏は「法的に問題ない」との立場を取っている。
斎藤氏の疑惑や県の対応の是非について、県議会の調査特別委員会や、弁護士らによる県の第三者委員会の検証は続く。
選挙結果を受けて検証があいまいになるようでは、制度そのものの今後にも影響する。両委員会はより一層、冷静、客観的な姿勢で臨む必要がある。
選挙戦は特異な展開を見せた。
自ら立候補した政治団体代表の立花孝志氏らが、調査特別委の非公開会合とされる音声データなどをネットや街頭で拡散。テレビ、新聞も真実を伝えていないとして、斎藤氏と「既得権益層」との戦いという構図を印象づけた。
稲村氏や陣営についての真偽不明のデマも飛び交い、支持者同士の小競り合いも起きた。両極端の論点がかみ合わない一方で、世論の関心は高まった。投票率は55・65%と、3年前の前回選から14ポイント余り上がった。
何が本当なのか分からなくなった―。選挙後に伝えられた有権者の声が印象深い。選挙を左右する情報のあり方も、大きく問われる選挙戦だった。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月19日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます