【社説・11.05】:デブリ取り出し/廃炉の先行きは見えない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.05】:デブリ取り出し/廃炉の先行きは見えない
東京電力は、福島第1原発事故で生じた溶融核燃料(デブリ)を2号機から試験的に取り出す作業を、約40日ぶりに再開した。
2011年3月の事故発生後、10年以内に取り出しを始める計画だったが、工法変更などで3回延期された。今年8月の準備作業開始後も初歩的ミスで一時中断し、9月10日にようやく着手した。ところが採取装置の先端にあるカメラの映像が見えなくなり、2台を交換した。
国と東電による廃炉工程では、使用済み核燃料の取り出し開始までを第1期、その後を第2期としており、今回の着手によって最終盤の第3期に移った。しかし「最大の難関」とされるデブリの取り出しは、冒頭でつまずきを重ねた。今後の廃炉作業に不安を抱かざるを得ない。
取り出し装置はパイプをつなげた伸縮式で、最長約22メートルになる。原子炉格納容器の貫通部から入れて、先端の爪形器具で少量のデブリをつかむまでには至った。
デブリは冷却できなくなった核燃料が溶け落ち、固まったものだ。1~3号機を合わせると880トンあると推計される。試験的に採取するのは3グラム以下、耳かき一杯分程度で、全量のごく一部に過ぎない。作業全体の道のりはあまりにも遠い。
東電は段階的に取り出しの規模を拡大し、2号機に続いて3号機、1号機の順に進める計画だ。しかし大規模な採取方法は検討中で、極めて高い放射線を出すデブリの処分先も決まっていない。技術的な問題だけではなく、社会的な合意も含めて廃炉の先行きは見通せない。
8月に起きたのはパイプの並べ順のミスだった。背景には現場を下請け任せにしてきた管理体制があるとされる。協力企業の作業員らの準備に関し、東電や元請けの三菱重工業が一度も確認していなかった。
カメラの問題に関し東電は「高い放射線量の影響で帯電し、異常な電流が流れた可能性が高い」とみる。当初、放射線による故障は考えにくいとしていた。今後も想定外のトラブルが起きないとは限らない。
現時点で東電は事故から30~40年とする廃炉の完了目標を堅持している。作業でデブリを巡る知見が得られれば、目標変更を余儀なくされる不都合なデータであっても、速やかに国民に示す姿勢が求められる。
作業員の被ばくも懸念される。格納容器外の装置周辺では毎時2~4ミリシーベルトの放射線量が検出されている。放射線業務従事者の年間被ばく線量限度は50ミリシーベルトとはいえ、一般の人の限度(1ミリシーベルト)を15~30分で超える量だ。過酷な現場である。東電は下請け任せにせず、安全を最優先にした進行管理を徹底してもらいたい。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月05日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます